社長が訊く
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社長が訊く『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇

社長が訊く『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇

第7回:『DEAD OR ALIVE Dimensions』

目次

4. ケンカ推奨

早矢仕

それからもうひとつ、
『DEAD OR ALIVE』のこだわりとして、
「ボタンを押したとき、その入力を絶対に無駄にさせるな」
というものがあります。
「お客さんがボタンを押した以上、
制作者側の都合は関係ないから
可能な限りキャラクターを動かせるようにする」
ということです。

岩田

「そこで押されても反応できません」というのは
こだわりとして、ありえないんですね。

早矢仕

はい。不文律としてスタッフのなかにあります。

岩田

それはTeam NINJAさんで中心に動いている方たちにとって、
共有している価値観なんですね。
「ここでボタンを押されても、
アニメーションがつながらないので、反応できないんです」
みたいな話は、ゲームづくりにおいてよくある話ですよね(笑)。

早矢仕

ゲームの都合で操作させない場面はいろいろあるんですが、
お客さんが入力した、ということは、
押したくなるような画面なんだから、反応しないとダメなんです。
もし本当に押させたくないんだったら、
「まず押させないような画面をつくれ」と言います。

岩田

それは“ストレスを感じるゲームか、そうでないか”
という視点のお話でもありますね。
触っていて「何だか気持ち悪い」と感じるものと
そうでないゲームの差は、じつはいまみたいな原則が
きちんと端から端まで貫かれているかどうかで、
すごく印象が変わると思うんですよ。

早矢仕

はい。「押したいと思わせないことが大事」というのは、
すごく徹底してやっていることです。

岩田

ちなみに、Team NINJAさんでは
そういった認識を含めて、いろいろな方がルールを共有しながら
みんなで言い合う構造なんですか?
それともひとり、品質の番人みたいな方がいて
意見するかたちなんですか?

早矢仕

基本的には僕も含めて、
何人かのクロスチェックで成り立っています。

岩田

早矢仕さんは、いつごろから、そういったものが
ご自身のなかに身についたと思いますか?

早矢仕

入社2~3年目のとき、『NINJA GAIDEN』にかかわって
先輩や僕の意見を反映させたら、途中から
すごく気持ちのいいゲームになっていくことを経験したんです。
たとえばプログラムを1行も変えなくても、
モーションを変えただけで全部解決するとか・・・。

岩田

ああ。モーションの間が悪かったので
すべてが台無しになっていたということ、ありますよね。
それにしても、若いときにいい経験をされましたね。

早矢仕

はい、本当にそう思います。

岩田

ゲーム業界で一生懸命働いていても、入社2~3年目で
そのポイントをつかむ経験にめぐり会えるとは限りませんからね。

早矢仕

そうですね。岩田さんがおっしゃる
“ご縁”という言葉が、僕もすごくしっくりきていて、
何か世の中に活かされているような感じはします。
まわりとの関係は大事にしたいなと、いつも思います。

岩田

一方で、ものをつくる集団は、
ひとりひとりこだわりを持つ職人たちの集団ですよね。
以前、Team NINJAさんにインタビューにうかがったとき、
職人度が高そうな感じがひしひしと伝わってきました。
職人度の高い集団というのは、一生懸命にものづくりをするほど、
ときに対立するものですが、どうやって乗り越えているんですか?

早矢仕

ああ、それはもう、普通にケンカします(笑)。

一同

(笑)

岩田

そうですか(笑)。
そこは先輩だからといって遠慮はせず、
本気でぶつかることで解決してきたんですね。

早矢仕

はい。ぶつかるんですけど、やっぱり最終的には
職人ひとりひとり、プライドを持ちながら
ゲームをつくっているので、すごくやりやすいです。
腹を割って話ができるので、現場ではいい意味で
ケンカを推奨しています(笑)。

岩田

ケンカ推奨ですか(笑)。

早矢仕

あ、もちろんネガティブなケンカではなく、
「俺はこっちがいい」「私はこっちがいい」
という意見のぶつかり合いですけれど。

岩田

自分が信じることを堂々と主張して、
それが違うならそれを表沙汰にして、
「白黒ハッキリつけようぜ」ということなんですね。
いやあ、じつに格闘ゲームをつくるチームらしいですね(笑)。

一同

(笑)

早矢仕

プロジェクトがおわったとき、
最終的にいいものができあがれば
まあケンカもいい思い出になりますから、
そこだけは譲らないようにと、いつも言っています。

岩田

どんなに苦しくて、人間関係に問題が出たプロジェクトでも、
結果をちゃんと出して、お客さんにご評価いただけるように
仕上げられたら、それもまたいい思い出になりますからね。
だからこそ「ちゃんと着陸させることが、いかに大事か」
ということでもあるんですよね。

早矢仕

そう思います。

岩田

ちゃんと着陸させて結果につなげることは、本当に大切だと思います。
わたしも自分がかかわったなかで、
どうしても着陸させられなかったプロジェクトもありましたから、
そういうものは、気持ちのなかで複雑骨折しています。
着陸させる方法はきっとあったはずなので、
ずーっと反省として残ります。

早矢仕

うちのスタッフも、本当にしょっちゅうケンカするんですが、
プロジェクトがおわるころには、
なぜかみんな手を組んで、「よかったね」となります。
そして次のプロジェクトがはじまるとケンカがはじまる・・・
ということを、つねにくり返しています。
傍から見ると仲が悪そうに見えても、
じつはすごく仲がいいんだと思います(笑)。