社長が訊く
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社長が訊く『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇

社長が訊く『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇

第9回:『テイルズ オブ ジ アビス』

目次

2. 声なき声

岩田

『テイルズ』のように熱心なファンの方がいるソフトは、
隙があるものづくりをしてしまうと、
その熱い声援が逆に働いてしまうことさえありえますよね。
そうならないために、どのようにされてきましたか?

吉積

お客さんがどういうところを不快に思うのか、
スタッフの共通認識として敏感になるよう意識してきました。
ただ、100%のフォローはできないですから、難しいですね。

岩田

ファンの方たちのご意見やご要望だけを聞いて
ただそのとおりにすることが最善なのかというと、
必ずしもそうではないんですよね。
わたしたちの仕事は、お客さんに“いい意味で驚いていただくこと”
ですから、ご意見を聞いているだけではダメだと思うんです。
その方たちの期待をいい意味で裏切らないといけないし、
“声なき声”に対して提案して、
「そうそう、これが欲しかったんだ!」と
受け取ってもらいたいんですよね。

吉積

はい。

岩田

その一方で、それはつねに二面性を持った賭けでもあり、
「『テイルズ』じゃない」と言われるリスクを背負うわけですよね。
ただ守っていると、どんどん先細りが待っていますし。
これを15年やってきた『テイルズ』シリーズは、
どうやって向き合ってきたんでしょうか。

吉積

お客さんの声は敏感に受け取っています。
ただ、それを実現することだけが
わたしたちの仕事ではないと思っています。
ソフトは多数決でつくるわけではありませんから。

岩田

それと、いまはネットを通じてお客さんの声が
ダイレクトに届く素晴らしい時代で、
お褒めの言葉も、お叱りの言葉も、批判も、
ポジティブに驚いてくれたことも目に見えますよね。
ただ、本来は、そこにはないものをつくって出すことが
わたしたちの仕事なのに、なまじ意見が見えすぎてしまうので
気にしてしまいますよね。

吉積

ええ、引っ張られてしまうというか・・・。

岩田

若いスタッフの方ほどとくにそうですよね。
多分、吉積さんの『テイルズ』におけるいちばん重要な仕事は、
現場の若い人が、お客さんの声だけを満足させるように
動いてしまいがちなことに対して
「それだけじゃお客さんは驚かないよ」
と言い続けることではないでしょうか。

吉積

まぁ、強く立派なことは言えないんですけど、
いつも彼らには、「悩んだときは、
キミがお客さんならどっちがいいか考えて」と言います。
多数の声ではなくて、“個”で完結してほしいんです。
声を聞きすぎると引っ張られてしまうので、
基本、「キミの好きにやってほしい」と言います。

岩田

「こうきたか」という驚きが不快じゃないとき、
遊び手として思わずニヤリとしますよね。
それを何回味わってもらえるかが、
上質な娯楽なのかなと思います。
ただの予定調和で満足することはありませんから。

吉積

そうなんです。
つくり手の都合は極力排除していきたいですね。

岩田

でも、毎回、これが正しいと信じて
自分たちでつくったものが世の中に出る瞬間、
祈るような気持ちになりますよね。

吉積

ええ、怖いんですよねえ・・・。

岩田

怖いんです、つねに。未知との戦いですから。
考えに考えたものを出しているんですが、
百発百中、お客さんに反応していただけるわけじゃないですし。
でも、みんなに多数決をとってつくっても、
面白いものはできないですから。

吉積

そうなんです。
よく「調査やマーケティングを」と言われますし、
もちろん有効に活用されることもあるんですけど、
ものをつくるうえでは、それだけに終始するのではなく、
あくまで参考にしています。
それからわたしは、『テイルズ』シリーズの発売日の
午前中には、だいたい、ずーっとお店にいます。
本当に売れるのか、怖いんです。
実際にお客さんにお買い求めいただいているのを見るまで、
本当に怖くて・・・。

岩田

そのときの吉積さんは、不安そうな顔をしているんでしょうね。

吉積

すっごい不安そうな顔をしてると思います。きっと(笑)。
不安なんで、みんなで行くんです。
ずっと見ていて、ある程度売れてくると安心してきます。
「よかったなあ。何かちょっと売れているみたい」
とか言いながら帰ってきます(笑)。

岩田

実際に選んでくれる人の顔が見えるのは重要ですよね。

吉積

若いお兄ちゃんもいるんですけど、
お母さんとかも多いんですよね、子どもに言われて。

岩田

ああ、子どもさんに頼まれて・・・。

吉積

そう。一生懸命にメモを見ているおじいちゃんとかね。

岩田

そういうお客さんを見ていると、
心のなかで思わず手をあわせたくなるような気もしますね。

吉積

はい。わたしは入社当時、
営業担当で店舗回りをしていたので、
現場でお客さんがどんな顔をして、
どんな思考で買っておられるのかが気になるんですよ。
会社に入って20何年経つんですが、
営業、プロモーション、開発・・・と、
ソフトが出てくる流れをどんどんさかのぼっています。

岩田

ああ、本当にさかのぼっておられますね。

吉積

だからこそ、本当に現場で売れている実感が欲しいんです。
やはり、原点はそこにあるので。
開発の人間にもよく言いますけど、
売り場に行って何かを細かく調べる必要はないんですけど、
売り場の雰囲気とか、何がどれぐらい売られていて、
お客さんにどんなものが買い求められていて・・・
というものが、見えるところに行ったほうがいいと思うんです。

岩田

たとえば商品が100万個売れたら、
本当は、理由が100万通りあるはずなんですよね。
どれぐらいそういうものをイメージできるかで、
つくるものが変わっていく気がしています。
そういうものをイメージするとき、
お店で買っていただいているお客さんを見るのは、
すごくためになるんです。

吉積

絶対にそうだと思います。
たとえば最近は、本やCDと同じで、ゲームにも
“パッケージ買い”があると思うんですね。

岩田

お客さんがダミーパッケージを手に取ってくれて、
裏を見て、そうっと置いたりしますよね(笑)。
「置かないで~」って思うんですが、置かれた理由があるんです。
お客さんを説得できなかった理由がそこにはあるんですよね。

吉積

そういうところも、戦いだと思うんです。

岩田

はい。中身がどんなによくできていても、
伝わらなければアウトですし、伝えられなければ負けなわけです。
実際に遊べば面白いゲームは珍しくないですし、
むしろ遊んだら面白いゲームのほうが多いと思うんです。
ですけど、お客さんはお忙しいので、
外からわかるようにお伝えしないと購入していただけないんです。

吉積

買わなきゃいけない理由をいかに感じてもらうかだと思うんです。
どうしても開発のなかでソフトをつくっていると、
そこにまでなかなか思いが湧かないといいますか・・・。

岩田

満足度の高いものを実現できれば次につながるので、
「遊んで面白い」ことは大前提ですからね。
いまは「遊べば面白い」だけではダメなんですよね。

吉積

そうですね。
『テイルズ』はそういうスタートでしたので、
どうしたら次につながるかを
ずっと工夫してきた15年間だった気がします。
たとえばキャラクターデザイン、タイアップアーティスト、
コマーシャル・・・そうした目に見える部分をどう工夫すれば、
「買わざるを得ない」と思ってもらえるのかを
毎回、考えています。

岩田

単なる商品ができ上がったあとの
プロモーションではないってことなんですね。

吉積

はい。わかりやすい動機を感じてもらえるよう、
工夫していかなきゃいけないと思っています。