社長が訊く
IWATA ASKS

社長が訊く『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇

社長が訊く『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇

第9回:『テイルズ オブ ジ アビス』

目次

5. 奇跡と偶然

岩田

では、最後のまとめで3つお訊きします。
ひとつは『アビス』をすでに遊んだことのある方が、
いまニンテンドー3DSでもう1回遊ぶことの意味について。
もうひとつは、『テイルズ』は知っているけど、
『アビス』は遊んだことがない方に対して。
最後にこれまで『テイルズ』シリーズを
遊んでこられなかった方に、それぞれ
メッセージをいただけますか?

吉積

はい。まず、『アビス』を遊んだことがあって、
3DSでもう1回楽しんでほしいことですが、
そもそも携帯型ゲーム機は
いつでもゲームができるプレイスタイルなので、
RPGに向いていると思うんですね。

岩田

確かに、携帯型ゲーム機は
細切れの時間を上手に使いながら遊べるので、
長い遊びとつきあえますね。

吉積

とくに今回、まったく新しいハードで
『アビス』を遊んでいただくと、
据置型とは違う発見があると思うんです。
見知ったキャラクターやストーリーが
3DSのなかでどんな感情を呼び起こしてくれるのか、
まっさらな気持ちで遊べると思いますし、
たとえストーリーを知っていても、
『アビス』にあった表現を3DSでどう変えているのか、
あらためて楽しんでもらいたいと思います。
 
次に『テイルズ』シリーズは遊んでいても
『アビス』は遊んでいない方に向けてのメッセージですが、
何しろ『アビス』はいちばん苦労してつくったタイトルですので
ぜひ味わっていただきたいです。このソフトは、
奇跡と偶然がいっぺんに起こってできたんです。

岩田

それはどういう意味ですか?

吉積

想像もしなかったことがいくつも実現できたんです。
10周年の記念作品でもあったので、
みんなが協力してくれたこともあって、
普通ならこの期間や費用では到底できないことができました。

岩田

なかなか簡単に成り立たないことが、
勢いでできてしまったということですね。
『テイルズ』を愛する人なら、
それを味わわないのはもったいない、ということですね。

吉積

はい。それに『アビス』は、シリーズのなかで
もっとも変わった要素のあるソフトなので、
新しい『テイルズ』の側面が見られるかもしれません。
「ここまでやっていいんだ」みたいなところが
わかるんじゃないかなと思います。

岩田

シリーズ最大の“振り幅”を、ちゃんと味わってほしい
ということですね。

吉積

最後にシリーズを遊んだことのない方に向けてですが、
多分『アビス』を3DSでやることの意味のひとつに、
このソフトはいままでどこにも移植をしてこなかった
ということがあると思います。
移植の話がいくつかありましたけど、じつは全部断ってきました。

岩田

ベタな移植はしたくなかったんですね。

吉積

そうです。違う遊び方や、もう一役つけられるような
プラットフォームじゃないとやりたくなかったので、
今回、やっと『アビス』を移植できる環境が整いました。
『アビス』はシリーズのなかでも、
いわゆる王道ではないけれど、いちばん純度が高い作品ですから、
まったく新しいソフトとして遊んでいただければと思います。

岩田

“純度が高い”というのは
『テイルズ』としての振り幅が大きい作品だからこそ、
違う意味でとても『テイルズ』らしく、
ほかのシリーズがチャレンジしていないことを表現できている、
ということですか?

吉積

そうです。先ほど言った“奇跡と偶然”で
いちばん大きかったことは、
BUMP OF CHICKEN(※10)さんに
テーマソングを担当していただいたことなんです。
ゲームのテーマを決めたとき、ぜひやってもらいたくて、
飛び込みでレコード会社に頼みにいきました。

※10
BUMP OF CHICKEN(バンプ・オブ・チキン)=日本のロックバンド。

岩田

それは断られても仕方のない局面だったんですね。

吉積

そうです。8割方、断られると思っていました。
でも1時間くらい「今回すごく合うんです!」と説明したら、
「わかりました。その説明をもう1回、
 メンバー4人にしてもらえますか?」
とマネージャーさんに言われたんです。
普通、決定前にアーティストの方と会うことはないんですが。

岩田

そういう価値観で運営されていたんですね。

吉積

はい。タイアップに関しては
「本人たちの納得がないとOKが出せない」ということで、
メンバーの方々にあらためて説明したら、すごく感覚的に
「あ、それうちがやります」っていう感じでわかってもらえて。
バンプ・オブ・チキンさんは、ミュージックシーンのなかでは
王道というより、純度が異様に高いと感じるんです。
そこがゲームとシンクロしたのかなと思っているんです。

岩田

ああ、なるほど。

吉積

だから『アビス』は、楽曲も、キャラクターも、ストーリーも、
純度がものすごく高い。
プレイしていて、嫌になったり、感動したり、
さまざまな感情が引き起こされるソフトなんです。
これをやっと、携帯機に持ってくることができました。

岩田

おそらく今回、3DSという入れものができたことで、
『テイルズ』シリーズにとっても、
表現したいクオリティや打ち出したい個性を
手加減せずに入れられるものになった、ということですね。

吉積

3DSでプレイをして、キャラクターが
どんなふうにプレイヤーの反響を起こすのか、
3DSの表現でどれくらい増幅して伝わるのか、
ちょっと見てみたいなと思いますね。

岩田

それに応えられるよう、ニンテンドー3DSをきちんと
普及させていくことがわたしたちの仕事ですので、
しっかり頑張っていきたいと思います。
今日、わたしはいままでよりもいろいろなことが
頭のなかでつながって、すっきりしました。
どうもありがとうございました。

吉積

いえいえ。
こちらこそありがとうございました。