社長が訊く
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社長が訊く『ニンテンドーeショップ』

社長が訊く『ニンテンドーeショップ』

目次

5. ゲームボーイの残像も再現する

岩田

では田中さん。
いよいよバーチャルコンソールについてですが、
田中さんが担当になったキッカケはなんですか?

田中

キッカケは正直、わたしもよくわかっていないんですが(笑)、
あるとき上司から声がかかりまして、担当することになりました。

岩田

バーチャルコンソールの仕事は、万能エミュレーターをつくって
それにバイナリ(ファイルデータ)を流しこんで量産する、
というふうな単純なものではありませんよね。
どんなことをしているんですか?

田中

基本的には当時のままなのですが、
表現が不適切なものなどについては修正を加える作業をします。
また当時のゲームボーイは液晶の特性を利用して、
たとえば“半透明なもの”を表現するのに、
キャラクターなどを点滅させていたんですが、
それを3DS上でそのまま表現すると
表現がキツくなってしまう場合があります。
そういうものも調整しています。

岩田

点滅の見え方や液晶の反応速度など、
いまと昔ではいろいろな違いがあるので、
じつはただ、同じ絵を動かすだけではないんですよね。
配信タイトルはどのように決まるんですか?

田中

基本的に「北米ではあれがほしい」
「欧州ではこれがほしい」「日本ではこれが必要」などと、
eショップの各地域の店長さん同士であれこれ協議します。
でも北米では人気のあるソフトなのに、
日本では販売もされていないタイトルもあって、
協議が紛糾するわけですが(笑)。
店長さん同士でうまい具合にまとめながらタイトルを決めていき、
わたしたちは、決定したタイトルについて
実現性や制作コストを想定してスケジュールを検討していく、
という流れです。

岩田

やはり、つくりやすいタイトルと
つくりにくいタイトルは分かれますか?

田中

ざっくり言えば、アクション系やパズル系はつくりやすいですが
RPGだといろいろな箇所をチェックしなければならないので、
やはり時間はかかってしまいます。

岩田

もとのプログラムのままでは
見栄えが前のイメージどおりにならないものについて、
ひとつひとつ手を入れて直しているんですよね。
バーチャルコンソールは何本出すんですか?

田中

ショップオープン時には6本(※11)です。

※11
ショップオープン時には6本=『ロックマンワールド』(カプコン)、『星のカービィ』(任天堂)、『ベースボール』(任天堂)、『ファンタズム』(ジャレコ)、『ダウンタウンスペシャル くにおくんの時代劇だよ全員集合!』(アークシステムワークス)、『スーパーマリオランド』(任天堂)の6本が予定されている。

岩田

今回、バーチャルコンソールを実現するうえで
ちょっと遊び心で追加したモードもありますよね。

田中

そうですね。じつはわたしは1980年生まれなので、
ゲームボーイがほしくてほしくて仕方がなかった世代なんです。
なかなか買ってもらえなくて(笑)。

岩田

ゲームボーイが発売されたのが1989年だから、
9歳ぐらいのころですね。

田中

そうです。ちょうどそのころ、みんなが
『スーパーマリオランド』(※12)とか
『テトリス』(※13)にはまりはじめていました。

※12
『スーパーマリオランド』=1989年、ゲームボーイ用ソフトとして発売されたアクションゲーム。
※13
『テトリス』=1989年、ゲームボーイ用ソフトとして発売されたパズルゲーム。

岩田

あの当時、持って歩けるゲーム機というのは
子どもにとっては画期的でしたからね。

田中

そうなんです、画期的でした。
だから今回、3DSでバーチャルコンソールを実現するにあたり、
とくに思い入れが強かったこともあって、
自分がほしかったものの雰囲気をできるだけ再現したかったんです。
たとえば、ゲームボーイの液晶画面は、
はじめはちょっと緑がかったような感じでしたよね。

岩田

ちょっと黄緑っぽい緑のようでしたね。

田中

それから、たとえば『スーパーマリオランド』の
スーパーボールマリオがビュッとボールを投げたときに
出る残像なんかも、できるだけ再現したいなと(笑)。

岩田

えっ? 残像も再現するんですか!?

岩田

当時のと見比べました?

田中

はい、見比べました。
並べて、ちょっと残像の伸びが違うな~とか(笑)。

岩田

ははは。もうちょっと残像きつめにとか。

田中

そうですね(笑)。
ただ、きつくしすぎると3DSで遊びにくくなってしまうので、
ある程度、思い出を再現しつつ遊べるようにしました。
あと、これもおまけの機能なのですが、
“当時の解像度で遊ぶ”という表示モードがあります。
通常の画面は、3DSの画面にあわせて
引き伸ばされて表示されるんですが、
当時のゲームボーイそのままの解像度で遊ぶこともできます。
ただ、ゲームボーイより3DSのほうが液晶の解像度が高いので、
3DSの上画面のまんなかにちょっとしか、
画面が表示されないんです(笑)。

岩田

でもその瞬間、ちょっとうれしいんですよね。

田中

なんだかきれいだなぁと感じてしまいます。

岩田

ゲームボーイのスクリーンカバーが手前にあって、
ちょっと奥まったところに液晶がうつっているところまで
再現しているんですよね。
その・・・“くだらないこだわり”がうれしいです(笑)。

田中

はい(笑)。
スクリーンカバーのちょっと奥に液晶画面があるところも
できるだけ再現したいなと思いました。

岩田

ちょっと奥、というのがポイントなんですよね。

田中

それから電源が少なくなると、
スクリーンカバーの左側にあった赤いLEDが
少し暗くなるところまで再現しました。
まあ・・・だれに喜んでいただけるかわからないところですが、
こだわってやってしまいました(笑)。

一同

(笑)

岩田

「よくぞわたしを担当に選んでくれました!」ってところですね。

田中

ただ、わたしひとりというより、じつはもうひとり
同じゲームボーイ世代の人もプロジェクトに参加していました。
ふたりでやってみると思い入れがおたがいに違うので、
いろいろと議論していった感じです。

岩田

脳内の思い出と、くい違っていましたか?

田中

そうですね。
とくに緑色の液晶や残像を再現するあたりは。
そのときはゲームボーイ本体を持ってきて、
「ほれみろ」と言いながら、試行錯誤しました(笑)。

岩田

なんだか楽しそうですねぇ。

田中

それから、ゲーム性に大きく影響するところではありますが、
今回はいつでも好きなところで中断して
何度でもやり直しができる、という仕様を追加しました。

岩田

Wiiのバーチャルコンソールとは仕様を変えたんですね。

田中

そうです。
Wiiでは中断セーブから何回もやり直すことができませんでした。
ただ、昔のソフトは電池寿命もありましたし、
最後までクリアできなかった方が
自分も含めて多いんじゃないかと思うんです。
しかも、昔のソフトは難易度が高いですから。

岩田

昔のゲームソフトは、お客さんにきびしいですよね。

田中

はい。今回、バーチャルコンソールを
はじめて買っていただいたお客さんが「難しい!」と
あきらめてしまうことがあったら、
もったいないなと思ったんです。今回追加した
「いつでも保存して何度もやり直せる機能」を使うことで、
昔できなかったゲームをクリアできるのではないかと期待しています。
実際、わたしは昔『スーパーマリオランド』を
クリアできなかったんですが、
この機能を使って何度も遊んでいるうちに、
2周してはじめて“ステージセレクト機能”があることに気づきました(笑)。

岩田

ゲームボーイ世代どまんなかの田中さんが知らなかった
『マリオランド』の機能を、今回の仕事で発見したんですね。

田中

はい。そういったことがほかのゲームにもあると思いますので、
いろいろと発見していただきたいなと思います。