2. ドバイの空港とバラの関係

岩田

タッチジェネレーションズのソフトで
『脳トレ』(※4)をつくったときも、
『えいご漬け』(※5)や『常識力トレーニング』(※6)をつくったときも、
わたしと高橋さんの話からはじまってるところが
かなりありましたよね。

高橋

そうでしたね。
岩田さんの言ったひとことを元にして、
いろいろ展開していくということが多かったと思います。

※4

『脳トレ』=脳活性化ソフト。1作目の『脳を鍛える大人のDSトレーニング』は2005年5月に、2作目の『もっと〜』は同年12月に発売。また、ニンテンドーDSiウェアとして、『ちょっと脳を鍛える大人のDSiトレーニング』の「文系編」と「理系編」が2008年12月に、「数独編」が2009年4月に登場している。

※5

『えいご漬け』=英語トレーニングソフト。1作目の『英語が苦手な大人のDSトレーニング えいご漬け』は2006年1月に、2作目の『もっとえいご漬け』は2007年3月に発売。また、ニンテンドーDSiウェアとして、『リズムで鍛える 新しいえいご漬け』の「やさしい会話編」が2009年5月に、「ネイティブ会話編」が同年6月に登場している。

※6

『常識力トレーニング』=常識トレーニングソフト。DS用ソフトの『いまさら人には聞けない 大人の常識力トレーニングDS』を2006年10月に、Wii用ソフトの『みんなの常識力テレビ』を2008年3月に発売。

岩田

わたしは今回、日経さんからお話をいただいて、
「久しぶりにちょっと面白いテーマに出会った」と思ったんですが、
高橋さんは最初、この話を聞いてどう思いましたか?

高橋

確かに日経さんという、
我々とは全くモノの見方が違った方々といっしょに
何かをつくるのは面白そうだな、と思いました。
でも、その反面、日経さんとどうやったらうまくいくのかと・・・。

岩田

日経さんは経済の専門家ですけど、
ゲームづくりは全くご存じないわけですからね。

高橋

だから、初めてお会いしたときは・・・正直・・・
無理かなという感じだったんです。

岩田

話がかみあわなかった?

高橋

はい。
それに最初は
「日経TESTをDSで出したい」という感じのお話だったんです。
でも「それはないでしょう」ということになりまして。

岩田

日経TESTだけで面白いものには、
なかなかなりにくいでしょうからね。

高橋

かといって、経済をテーマにしたお勉強ソフトや、
ただのクイズ集ではツライというのは
最初からわかっていることでしたので、
そこをどうやって料理するか・・・。

岩田

アイデアが求められる仕事だったと。

高橋

ええ、そこでいろんな話を聞いていくなかで、
人生ゲーム形式にするのはどうだろうかとか。

鈴木

すごろく形式にしようかとか。

高橋

「経済の歴史すごろく」のようなものをとか。

岩田

そういったアイデアは
初期の段階からどんどん出てきたんですか?

高橋

いえ、まったく(笑)。
最初の頃日経さんとは、「経済とは?」というような、
いろんなことを話し合う期間がすごく長かったんです。
そうやってお互いに話をするなかで、
「今回、任天堂の開発スタッフは経済のことがわかっていない」
ということを日経さんにわかっていただくことからはじめました。

岩田

(笑)

鈴木

「少しやさしい言葉で」とお願いしても、
ぜんぜんわかりませんでしたし(笑)。

岩田

「この人たち、経済について何も知らないんだ」
ということをわかっていただくことから、はじまったんですね。

高橋

そうです。最初の頃は丸1日かけて
“お互いの歩み寄りの会”みたいな
ブレインストーミングみたいなことをやっていました。

鈴木

そこで、経済に関して知りたいことを書いて、
壁に貼りだしてみたんですが、
僕たちが書くことと、日経さんが書くことが
まず違っていたんです。

岩田

水と油?

高橋

いえ、大人と子どもみたいな。

岩田

(笑)。
日経さんが大人で、任天堂側は子ども。

高橋

はい(笑)。

岩田

そのようなやりとりは
どれくらいの期間、続いたんですか?

鈴木

3ヵ月くらい続きました。

岩田

大人と子どもが一緒に仕事をはじめるには
それくらいの時間が必要だったんですね(笑)。

高橋

でも、そうやって話していると
相手がベテランの記者さんだったりするので
面白いたとえ話が聞けたりするんです。

岩田

たとえば?

高橋

たとえばドバイの話とか・・・ですね。

次橋

ドバイが発展すると、
日本で売られるバラの種類が増える。

高橋

ああ、そうそう。
そういう話をされると、
「どういうことですか?」と
身を乗り出して聞きたくなるんですよね。

岩田

俄然、興味がわきますね。
実際、どうしてドバイが発展すると、
日本のバラの種類が増えるんですか?
まるで、風が吹くと桶屋がもうかるような話ですけど。

次橋

中東の国のドバイは、
小さな国で、それほど原油の産出量に期待できないので、
巨大な国際ハブ空港を建設して、
中継貿易で発展するようにがんばっているんです。
その結果、いままではとても遠回りをして
ヨーロッパを経由して送られてきた枯れやすいバラが、
産地のケニアなどから近道して、
ドバイ経由で運ばれるようになったそうです。

岩田

それで、日本で流通するバラの種類が増えた。
へえ〜。それは知りませんでした。

高橋

まさに「へえ〜」な話なんですよね。
そこで、「へえ〜」と思わず言いたくなるような
もっと面白い話はないんですか?と聞いて、
日経さんから、経済に関するいろんな話を
引き出すようなカタチではじまったんです。

岩田

それをどうやってまとめようとしたんですか?

高橋

まず『常識力トレーニング』でやったことをベースにしながら、
その反省点を踏まえていろいろ考えていくことにしました。
で、最初に次橋さんが書いた企画書がありまして。

岩田

どんな内容ですか?

次橋

クイズ形式ではなく、
見せましょうと。

岩田

その2択の構造と、それを読み物風にしようと思ったのは
どうしてなんですか?

次橋

まず単純なところでは、
選択肢が少ないほうが解きやすいと思いました。
それに、経済には円高か円安か、とか
上がるか下がるか、といったような
力関係みたいなことも多いので
2択方式がマッチするのかなと思ったんです。

岩田

なるほど。

次橋

それに、経済の世界で起こるいろんなことは
ひとつの言葉で説明されることが多いですよね。
それで、多くの人は「難しい」と感じてしまうと思うんです。

岩田

複雑な事象を
ひとことで説明されることも少なくないですからね。

次橋

でも実は、しくみのひとつひとつを分解して
その流れを追ってみると、
それほど難しくなかったりするんです。

岩田

つまり、つながりを見せることが
経済を理解するうえで、すごく大事だと考えたんですね。

次橋

はい。

岩田

そこで、経済で使われている
いろんな言葉がどういう関係になっていて、
どんなつながりになっているのか、
それを読み物風に見せることで
自然に本を読み進むように、答えながら理解できて、
先に進んでいくという構造にしたと。

次橋

その通りです。

高橋

これは、わかりやすいということで、
これを元にして、コンテンツを
ジャンル分けするようなことをしていきました。

鈴木

ただ、コンテンツはどんどん集まってきたんですが、
そこからがカンタンではなかったんです。