3. アイコンのようなシンプルさ

岩田

ニンテンドーDSiになって、
よくなったことはたくさんあるんですけど、
地味で目立ちにくい部分ですが
私がすごくうれしかったことは、
音が大きくなって、音質も良くなったことですね。

桑原

ああ、それは大きいですね。
担当者がすごく喜びます(笑)。

岩田

実際にものを触ってみて
「バンブラDX」とかをプレイしてみたとき、
本当にうれしかったんですよ。
あの、初代のニンテンドーDSから
DS Liteになったとき、
ほとんどあらゆる面がよくなったんですけど、
じつはひとつだけ犠牲になったものがあって、
それが音の大きさだったんですね。
スペックには表れにくいところですが、
実際に遊んでいるときの実感として、
やっぱりもう少し大きく鳴ってほしかった。
それが、ニンテンドーDSiでは劇的に改善されました。
技術的にはどんなことをしたんですか?

桑原

あのう、コーデックICという、
音の増幅とか、デジタル信号をアナログ信号に変換とかしている
ICがあるんですけど、それが新しくなってます。
つまり、ペリフェラル・・・・・・CPUの周辺の・・・・・・
ん〜、どういいましょうか。

岩田

音の出力を担当しているICが、技術的に進化したと(笑)。

桑原

技術的に進化しました(笑)。
出力も大きくなりましたし、
モードによっては音質も改善されています。

岩田

今回、サウンド関係のデモを聞いた人が、
「音、いいですねぇ!」って
口々に言いますからね。

桑原

ありがとうございます。

岩田

あと、今度のニンテンドーDSiは

DS Liteのようにポツポツ空けなかったのは
どういう意図があるんですか?

江原

そうですね、ニンテンドーDSiは、
カメラやボタンといった要素が増えたので、
ふつうにデザインすると、
「丸だらけ」になっちゃうんです。
で、スッキリさせたいというのがあって。

岩田

「スッキリさせる」ということに関して、
江原さんはものすごくこだわってましたよね。

江原

組み込まれる要素が増えると、
お客さんが自分には扱えないと思って
混乱してしまいますから。
完成品だけを前にすると、
たぶん、たたずまいとしては、
何事もなかったかのように
見えると思うんですけど、
かなり苦労してシンプルに仕上げました。
ただ、シンプルなデザイン画だけだったら
いくらでも描くことができるというか(笑)、
内部設計の人たちががんばってくれないと
シンプルなデザインは実現しないので、
今回ニンテンドーDSiは、設計の人といっしょに
デザインしたような印象があります。

岩田

このスピーカー穴も、
以前のようにポツポツ穴が空いてたら、
印象がまったく違うんでしょうね。

江原

違いますね。
あと、自分で言うのもなんですけど、
DS Liteと比べると、劇的に見た目が
変わってるわけじゃないんですよ。
むしろ、わざと変えてないくらい。
でも、スピーカー穴は、
「スッキリさせながらわかりやすく変える」
ということができるところだったので、
店頭での混乱を避けるための
差別化という意味も含めて、
ぼくはそんなにワガママは言わないんですけど、
ここは、けっこう、強く主張しましたね。

岩田

おそらく、こうやって完成品を見ると、
スピーカー穴をこうした意味というか、
よさがわかるんですけど、
コンセプトだけを聞いても
ピンとこないのかもしれませんね。
設計の人も、最初のうちは
「なんでわざわざ?」と思ったんじゃないですか。

桑原

設計上は、ちっちゃな穴が
6つあるほうがぜんぜん楽ですからね。
でも、江原さんが設計の人と何度も話をして、
「それやったらもうちょっとがんばってみる」
ということの積み重ねで、
結果的にこのスピーカー穴になったんです。

岩田

このスピーカー穴によって、
「要素が増えたのにスッキリしてる」
ということが実現してるんですね。

江原

ぼくは、ニンテンドーDSを、
アイコンみたいにしていきたいと思ってるんです。
つまり、四角をふたつ上下に並べて描いて、
その中にさらに四角をふたつ描けば、
誰が見ても「DSだね」っていうようなもの、
絵が苦手な小学生でも描けるような記号、
そういう存在にしたいんです。
ですから、できるだけシンプルにしたい。
あと、ソフトがどんどん
個性的になっていくときに、
ハードも個性的だとケンカし合うという気がして、
やっぱり、ソフトあってのゲーム機なんで、
ハードはあまり主張しすぎないように、
デザインしたつもりです。

岩田

なにかの新型を出すというときに、
一般的な手法のひとつとして、
「あ、新型だ!」ってわざとわかるような
デザインにするという手もありますけど、
DSはその道を選びたくなかったんですね。

江原

営業の人には「売りにくい」って
怒られるかもしれないんですけど(笑)。
でも、売り場でハードのデザインだけが目立つよりも、
お客さんの生活のなかに溶けこんでいくように
デザインするほうがDSらしいと思ったんです。

岩田

任天堂は、いま浸透しているものを
古いものとして扱って、
「だから新しいほうを買ってください」って
言いたいわけじゃありませんからね。

江原

はい。

岩田

あと、シンプルに見えるなかで、
じつは変わっているというようなことが
ほかにもありますか?

桑原

えっと、細かいことになりますが、
液晶が大きくなりました。

これも、単独で見ると差がわかりづらいですが、
実際にニンテンドーDSiを手にとってみると
ふだんよくDS Liteをプレイしている人ほど
すぐに実感していただけると思います。

岩田

なるほど。わずか0.25インチほどですから、
大々的にアピールするような
ことじゃないんですけど、
実感値としてはかなりうれしいですよね。
画面はもっと大きくならないのかということは、
ずいぶんお客様からも要望があったことですからね。
一方で、液晶ユニットの重さは
液晶の面積に比例するはずなので、
画面を大きくするということは、
その分重くなってしまう可能性があったんですよ。
でも、薄さを追求すると同時に、
重さのこともずいぶん考えて設計してもらったので、
重さについては、逆にDS Liteよりも
ちょっとだけ軽くまとめられましたね。

江原

あと、これも店頭では
アピールすることではないと思うんですけど、
DS Liteのブラックはどうしても指紋が目立ってしまったので
指紋がつきにくいように質感を変更しました。

岩田

具体的には、表面につや消し処理を施して、
指紋が目立ちにくくしているんですね。

江原

そうです。

岩田

いや、本当に、実際に使い込んでから、
じわじわ実感できるような変更が多いんですね。