インタビュー

企画スタッフが語る『大人のDS 顔トレーニング』
自己紹介
岩田 今回は、『顔トレ』を企画した皆さんに商品が誕生したいきさつを、お話ししてもらおうと思います。皆さんは、「第二次ユーザー層拡大プロジェクト(※1)」に参加してくれたんですよね。ちなみに、第一次のプロジェクトでは『脳トレ』という商品が生まれていましたから、プロジェクトの二つ目として、『顔トレ』が生まれたことになります。 まず、自己紹介も兼ねて、今回の女性を対象とした商品開発プロジェクトに参加することになった経緯を聞かせてください。

※1:「ユーザー層拡大プロジェクト」・・・普段ソフト制作に、直接関わりのない社員も含めて様々な部署からメンバーが集まり、新しいソフトの企画を行うプロジェクト。

山﨑 開発技術部管理グループの山﨑です。日頃はネットワーク管理などの仕事をしています。このプロジェクトには、自分が欲しいと思えるソフトを作ってみたいと思って、立候補しました。子供のころは、けっこうゲームをやっていたんですが、最近はあまりゲームをしなくなったんですね。どういったソフトなら自分はもっと遊びたいし、欲しいし、買いたいだろうということも、この機会に考えてみたいと思いました。
神門 制作部の神門です。普段はゲームのプログラミングをしています。部署で指名されたのが参加の直接のきっかけですが、ゲーム作りは長期に渡ることが多いので、短期間でゲームの枠にとらわれないものが作りたい気持ちがあったので、これはチャンスだと思いました。
渡邉 制作部の渡邉です。プランナーとして企画書の作成などをしています。ランチタイムなんかに女性が、ゲームの話題を気軽に出せるようなソフトをつくりたいと思っていました。今回のプロジェクトは、普段の制作現場と違って、女性のスタッフが多いので、女性の感性やセンスをとりいれながら企画を考えたいと思って立候補させていただきました。
中尾 企画開発部の中尾です。普段は、サーバー管理などをしています。私はかなりゲームが好きなんですが、ソフトの制作に関わりたいと日頃から言っていたのを上司が覚えていて、今回のプロジェクト募集のときに声をかけていただきました。ゲーム企画に関われる機会だと思い、「ぜひ、やります」と言って応募しました。
春花 企画部の春花です。商品のプロモーションを担当しています。今回のプロジェクトには、上司の勧めで参加しました。これまでソフト制作に関わったことがなかったので、何か新しいことが生まれるかもしれないというドキドキワクワクした気持ちと、社内の人間関係を広げる場として役に立つだろうなという期待を持って参加しました。
「顔トレ」が誕生するまで
岩田 さっそく『顔トレ』誕生のお話を聞こうと思うのですが、企画はどのような経緯で生まれたんですか?
春花 実は、『顔トレ』にいきつく前に、このメンバーで『手帳』の企画をかなり煮詰めていました。
岩田 『手帳』、それはどのような企画だったんですか?
山﨑 スケジュールはもちろん、日々の体重や消費カロリー、お金まで全てを管理できて、日記もつけられるという感じのなんでもできる『システム手帳』です。自分の履歴を残していくことで、これまでの生活を振り返り、自分を高めていこうというツールにできればと思っていました。
岩田 その企画は、なぜ進まなかったのですか?
山﨑 『手帳』の企画を社内でプレゼンしたところ、女性たちからの反応が良くなくて、「これだと買わない」と言われたんですね。ゲームとしての面白要素が足りなかったというのもあったのですが、『手帳』を便利にしようと思って機能を詰め込み過ぎたようです。結局絞りきれず、「これだ」というテーマや機能性がなくて、どっちつかずなものになってしまいました。
中尾 話し合いが煮詰まってきて、どうしようもないというときに、神門さんが「これは“自分たちが欲しいモノ”になっているのかな?」と言われて、確かにその通りだなと思ったのが印象に残っています。
渡邉 いつの間にか、“ほかの誰かが欲しいモノ”になっていたんですよね・・・。
岩田 自分でお金を出して買うかどうかというのは、企画をするときにいい質問だったりしますからね。
山﨑 神門さんの発言を聞いて、「自分が欲しいもの」という原点に立ち返ろうと思いました。やっぱり女性ってお金を払ったものに対してメリットが感じられないと買わないですよね。
岩田 その点はシビアですよね(笑)。
山﨑 そうなんです(笑)。それで、「自分へのご褒美がわかりやすく返ってくる」というところを重視したいと思ったんですね。
私たちがつくろうとしていたものはなんだったんだろう、と考えたときに思い出したのが私たちのチームでテーマにしていた「自己管理、セルフ・プロデュース」というキーワードでした。その中でも、「服装や髪型、化粧など外見から自分を変える」という一番効果が表れやすいことをポイントに絞って考えていたときに、お風呂場で思いついたのが今回の企画だったんです。
岩田 お風呂場?なぜ、お風呂場だったんですか(笑)。
山﨑 私が一番落ち着いて考えられる場所が、実家のお風呂場なんですよ(笑)。煮詰まっていた手帳企画の打開策を、お風呂場で顔を動かしながら考えていたときに、ふと「これ、DSで出来ないかな」と思ったんです。
岩田 顔を動かすというのは、まさにフェイスニングですね。元から知識はあったんですか?
山﨑 知ってはいました。私はパソコンと1日中向かい合う仕事が多いのですが、いろんな人とお話しした日は多少ですが「顔が違う」ということに気づいたんです(笑)。やっぱり人と会うと笑ったりして顔を活発に動かすので、いい表情になってるんです。それで、あまり人と会わない日でも、表情を豊かな状態に保つことができないかと思って、顔の運動やマッサージをお風呂場でしてたんです。
岩田 基礎知識と企画が、追い込まれた状況のお風呂の中で、くっついたんですね。面白い企画が生まれるときって、寝ても覚めてもそればかり考えている状態になってることが多いんですよ(笑)。
山﨑 そうですね。アイデアがひらめいた瞬間は、お風呂の中で「来たー!」っていう状態になりました(笑)。でも、自分がいいと思っても、「つまんない」「現実的じゃない」って人に言われることがよくあったので、メンバーに「ちょっと思いついたんだけど・・・」みたいな感じでさらっと話してみたんです。すると、中尾さんが勢いよく食いついてきてくれて(笑)。
中尾 その企画にとてもインパクトを受けたんです。これは話を聞いた瞬間に、自分がやっているところを想像できたし、何より実際にできたら欲しい!って思いました。
岩田 なぜ、そこまで欲しいと思ったんですか?
中尾 あの・・・わたし写真が嫌いなほうで。表情に自信がないんです。しかも、マラソンで何周も走っているのに「中尾さん、しんどくなさそうだね」って言われるくらい顔に出ない(笑)。そんな自分が嫌だなっていうのが、いつも心のどこかにあったので、表情が豊かになるんだったらぜひ欲しいと思いました。
岩田 その段階では中尾さんはフェイスニングのことを知らないんですよね。フェイスニングのことを後から知って、中尾さんの求めていたものになっていったと思うんですけど、それなのに山﨑さんから聞いたときにピンと来たというのは面白いですよね。
春花 私も山﨑さんの話を聞いて、“いけるって、それ!”みたいな感じになって盛り上がりました。私も黙っている時の口元が、“へ”の字になっているのが悩みで、実は鏡の前で笑顔の練習をやったりしてるんです。社外の方との接触も多いし、自分自身、表情は大切だと思っていましたから。顔を映すのにDSの2画面が活かせるし、自分の顔を使ったエンターテインメント性もあるし。
岩田 顔エンターテインメント(笑)。
中尾 男性陣を置き去りにして盛り上がりすぎたので、後から女性陣のすごい盛り上がり方には「ひいた」と言われてしまったんですけれど(笑)。
岩田 置き去りにされた渡邉さん。そのときの気持ちをどうぞ(笑)。
渡邉 それまで、どんよりした目をしていた彼女たちが(笑)、すごいイキイキとしてきて、その情熱はものすごかったです。それで、女性に受け入れられる商品としての手応えは感じました。・・・実は僕自身は、あまりピンとこなかったんですけどね。
岩田 多分、男性と女性では、人生で鏡を見る量がものすごい違うと思うんです。先日、Wiiの『みんなで投票チャンネル』で、「自分の顔にほくろが3つ以上あるかどうか?」というお題があって、自分にはないと確信して鏡を見たら・・・絶句してしまったんです。いかに普段は自分の顔のことをちゃんと見ていないか思い知らされました。おそらく女性ならそんな勘違いはないだろうなと思うんです。私はそれまで自分の顔をしげしげと見ることがなかったので『顔トレ』を触ってみて逆に新鮮でしたね。
渡邉 そうですね。普段、僕も鏡を見ない性分だったので、改めて自分の顔を見て「汚い顔だなぁ・・・」と思いました。
全員 (笑)。
渡邉 僕が気になったのは顔を映して目や鼻などの各パーツを認識できるかということが、技術的にいけるのかどうかということでした。でも、神門さんから「FSE」を見た話を聞いて“これならいけるな”と。
岩田 神門さん、「FSE」がどういうものなのか説明してくれますか。
神門 ・・・何の略かも忘れてしまったんですけど。
全員 (笑)
岩田 「フェイス・センシング・エンジン(※2)」ですね。

※2:「フェイス・センシング・エンジン(FSE)」・・・「Face Sensing Engine」の略。ヒトの顔の目・眉・口などの特徴点を画像処理によって抽出するミドルウェア。この情報により、ウィンクや口が開いているかなどをプログラムで判定可能となる。

神門 それは僕がしゃべったことにしてください(笑)。その前の週にたまたま「FSE」のデモが展示されているのを見に行ったんです。そこでなにかひっかかるものがあるなと感じたので、説明員の方にわりと質問してました。それからずっと「FSE」のことが頭にあって、山﨑さんが顔の筋肉を鍛える話を切り出したとき、“あっ、繋がったな”と思いました。ゲームを作っていてもこういう閃きのような繋がりが体感できるのってレアなことなので本当は興奮していました。黙っていたからテンションは低く見えたと思うんですけど(笑)。
春花 「FSE」という技術との出会いから生まれた「フェイスニングスキャン」が付属できることになって、これはDSならではのソフトになると確信しました。それから、仮にソフト化した場合にどういった内容になるのかということをみんなで相談して企画書としてまとめました。私たちのプロジェクトチームとしての役割はここまでで、あとは実際に制作を行う開発チームに引き継ぎました。「ちゃんと作ってね!」って(笑)。
左:フェイスニングスキャン、右:DS用「スタンド」
岩田 まあ、春花さんは商品のプロモーション担当部門なので、また戻ってくるんですけどね。「ちゃんと売ってね!」って。
全員 (笑)
岩田 「FSE」でそのような縁もあり、「フェイスニングスキャン」が出来たのですね。フェイスニングのトレーニング内容に関してはどのように決めたのですか?
中尾 トレーニングに関して、私たちは知識がなかったので、表情筋の研究家であり、フェイスニングを開発された犬童先生にお願いすることになりました。
春花 今回の企画は特別な技術や機材を必要とせずにDSだけを使うものにしたかったので、顔の筋肉だけを使ってトレーニングをする犬童先生の手法は私たちのイメージにぴったりだったんです。
山﨑 犬童先生の指導が忠実にこのソフトに盛り込まれているので、誰でもインタラクティブにトレーニング出来るってところがポイントです。
中尾 実はその後、制作を進めるにあたって私は犬童先生と直接お会いし、フェイスニング指導を受ける機会があったんです。フェイスニング後は、頬のあたりがすごくイタ気持ちいいというか。いかに普段動かしてなかったかっていうのを実感しました。

犬童先生による直接指導
(任天堂本社にて)

山﨑 私もお会いしたのですが、常に笑顔を絶やさない魅力的な先生でした。お話しし ててもこちらがリラックスして癒される感じだったので、そういうところも商品では実 現されているんじゃないかと思います。
最後に
岩田 『顔トレ』をどんな人に、どのように受け入れてもらいたいかを皆さんに聞いてみたいですね。では、お風呂で考えた山﨑さん(笑)。
山﨑 私と同世代の働く女性にお勧めしたいです。ゲームをじっくりする時間はなくても、寝る前や通勤時間といった細切れの時間はあるんですよね。短い時間でも有意義だと感じてさえもらえればゲームを遊んでもらえるんだろうなって思います。明日の笑顔のために、寝る前やお風呂上りなどの時間に、くつろぎながらトレーニングしてもらえたらいいですね。
渡邉 僕は顔がこわいと、よく言われるんです。僕と同じようなコワモテの人に遊んでもらえたらと思います。それと、最初にも言いましたが、ランチタイムにするドラマの話と同じくらい違和感なく『顔トレ』の話題が女性から出てくればうれしいです。
神門 接客業の方など、働いている女性にもやっていただけたらなと思います。同僚の女性の間に広まると嬉しいですね。また、女性だけではなく、男性のサラリーマン、特にセールスをやっている方にも試してほしいです。第一印象で損をしているのではないかと思っている方もいるんじゃないでしょうか。いきいきとした表情になりたいというニーズは僕みたいな男性にもあると思いますし。
中尾 私と同じように写真が苦手な人が周りには多いんです。そうした苦手意識を持ってる人が『顔トレ』で「私、けっこう笑顔もいけるようになったじゃん」って自信をつけてもらえたらと思います。
春花 私は今年35歳になるんですが、このくらいの歳になると色々な悩みを抱えていると思いますので(笑)、同年代の人にはもちろん触ってほしいですし、自分の親世代にも触ってほしいと思います。
岩田 母娘で『顔トレ』というのも面白いですね。
春花 私の母もそうですが、専業主婦の方は、家に一人でいることが多いと思うので、あまり表情を動かすことがなく、無表情になりがちだと思うんです。『顔トレ』をやってもらって、表情が豊かになることで、外に出て人と接しようという気持ちになってもらえたらいいですね。
岩田 じゃあ最後に、ユーザー層拡大プロジェクト主催者の私の野望を。明るい笑顔を作れると人は幸せになれるのではないかと思うんです。日本中の人の表情が豊かになって、幸せを感じる人が増えるといいですよね。ちょっと野望が大きすぎるかな(笑)。
今日はありがとうございました。皆さんも笑顔を絶やさず、それぞれの持ち場でがんばってください。