社長が訊く ゲームセミナー2008〜『どうぶつの森』ができるまで〜
※このインタビューは、2008年12月5日に、
任天堂ゲームセミナー受講生を対象に行われたものです。
社長が訊く ゲームセミナー2008〜『どうぶつの森』ができるまで〜

4. 罪滅ぼしの手紙

岩田
わたしは『どうぶつの森』が出た頃に
理想論のような話を聞いて、
「それはないなあ」と思ったことがあるんです。


いつも帰りの遅いお父さんが
夜帰ってきてから『どうぶつの森』をはじめると、
子どもから手紙が届いていて、
「お父さん、今日は○○をしたよ」
というようなことが書かれていると。
お父さんはお父さんで、
子どもがほしがっていたモノを思い出して、
それを夜のうちに見つけて
「これはなんとかしておいたよ」と
手紙といっしょに子どもに届ける。


わたしは「そんな都合のいいことが起こるわけない」
そんなふうに思っていたんです。
ところが・・・けっこう起こったんですよ、
そういったことが。
どうしてそういう仕掛けをつくることができたんですか?

野上
手紙より先に、掲示板をつくったんですけど、
そこにお父さんがメッセージを残して、
子どもがそれを見るという仕組みにしたかったんですね。
それをつくったのは、たぶん自分たちが
そういうことをしたかったからだと思います。

江口
したかったんだよね、うん。

宮本
罪滅ぼしでしょ?

受講生
 (笑)

江口
いつも帰りが遅くてごめんねと(笑)。

岩田
親としての罪滅ぼしの気持ちが
あの仕組みをつくらせたと。

江口
お母さんにはナイショだよみたいな(笑)。

岩田
でも、作り手がしたいということを考え抜いて、
それを仕様として入れていくから
現実にそういうことが本当に起こってしまうんですね。

野上
こういうふうにしたら
お客さんがどういう反応をするんだろうというのは
意識してつくってましたね。

江口
それは『どうぶつの森』に
限った話ではないですけどね。

野上
確かにそうですね。

岩田
いまの話は、お2人のゲームづくり、
いやもっといえば宮本さんのチームのゲームづくりに
共通した特徴なのかなあと思ったりします。

江口
遊んでる人たちの情景は
できるだけ想像するようにしていますね。たとえば
どんな環境で、
どんな場所で、
どんな人たちと、
どんな時間に遊んでいるのか、とか。

岩田
わたしがよく考えるようにしていることは、
そのゲームを体験した人が
他の人にそれを薦めてくれる姿を想像して、
その人が薦めやすくなるものほど、
広がる力が強いなあと思うんです。
その意味で、『どうぶつの森』は
人を誘いたくなるソフトでもありますね。

会場風景
江口
でも、広報の人からはよく、
「説明しにくいゲームなんですよね・・・」と言われてました。

岩田
「○○のような」と
形容できないようなゲームでしたからね。

野上
「何をするゲームなんですか?」と聞かれても、
まったく説明できなかったんです。

岩田
「目的はありません。だらだらと、
気ままにその日暮らしをするゲーム」ですもんね。

江口
だから、タイトルもすごく悩んで、
『その日暮らし』にしようかとか。

受講生
 (笑)

野上
それはやめとけと言われましたけど(笑)。

岩田
『その日暮らし』という名前は捨てましたけど、
長いこといろんなアイテムをたくさんつくってきて、
それはけっこう活きてますよね。

野上
アイテムはよく「集めたい」と言われるんですけど、
全部を集められないように
たくさんつくったつもりなんです。
集めるのを諦めたくなるくらい、たくさん。

岩田
ははは(笑)。

江口
コンプリートをめざすようなことは
最初から考えないようにしたんですね。
だから、家具が何個あるとか言わないでおこうとか。
すると底が見えないし、
どれだけあるかわからないから
自分はこれだけ集めたし、
これぐらいでいいかと思ってもらって、
集め度合いがみんな違う、
というのが狙いでもあったんですね。

岩田
おそらく今日の話を聞いたみなさんは、
自分がイメージしていたゲームづくりと
今回のゲームづくりはイコールではないと
感じていただけたかと思います。
一方で、このソフトがなぜ
世界中に受け入れられるようなったかというと、
最初から動いていない基本的な構造、
つまり、こういうあそびを
お客さんにしてもらいたいんだということを
ずっとぶれずにつくりつづけたことが
このソフトの開発にとって
とても大きかったんじゃないかと思います。


じゃあ、最後に江口さんと野上さんから
感想をひと言ずつ訊いて終わりにしましょう。

江口
さきほど、遊ぶ人の姿を想像しながら
ゲームをつくることが大切だと
自分は言いましたけど、
ついつい忙しさにかまけて
それを忘れてしまうことがあるんです。
それがどんなハードであっても
そのハードがどういう使われ方をするのかとか、
どこで遊ばれるのかということを忘れずに、
それをちゃんとソフトに反映することを
貪欲に考えないといけないと思います。


みなさんはDSでソフトをつくっていますけど、
DSで遊ぶということにどんなメリットがあって、
どんなことには向いてないのか、
そういうことを少しでも考えて、
ときには軌道修正をするようなことが
あってもいいんじゃないかと思います。
まあ、これは自分自身の反省でもあるんですが。

岩田
じゃあ、野上さん。

野上
話をしたことで、
初心を思い出した感じがしています。
やっぱりゲーム制作をしていると、
迷ってしまうことも多いんです。
時間の問題や人員の問題などがあって、
ここでやめてしまおうとか、
取捨選択をしなければいけない場面が
やっぱり出てくるんですね。
その判断をするときに、いちばん大切なことは
もともとソフトは何を考えてつくりはじめたのか、
それを忘れてはダメだと思います。
そうしないと判断がぶれて、
あらぬ方向へ行ってしまいかねないと
改めて思いました。

岩田
わたしは今回、
知らないことがいろいろわかって、
とってもスッキリしました。
どうもありがとうございました。

受講生
 (拍手)