2. 猛反対されたWiiの似顔絵構想

岩田

わたしは、宮本さんが「似顔絵、似顔絵」と言い続けてるのを
20年とは言いませんが、10年以上は見てきました。
最初は、ファミコンのディスクシステムでソフトをつくり、
それはそのまま世に出ませんでしたが、
次に64DDで『タレントスタジオ』(※8)をつくり
世に出したんですけれども、
楽しんでくれた人はあまり多くはありませんでした。
それでも諦めずに、ゲームキューブでも
似顔絵をテーマとしたソフトをつくるけれども、
「それでどうするの?」といろんな人に言われて、
面白さがなかなか伝わらず、発売できませんでした。
それなのにWiiになっても、まだ“こけし構想”とか言っていて、
宮本さんのチームの方たちも、ちょっと困っていたんですね。
「宮本さん、また言ってるよ」
みたいなムードになっていましたし(笑)。

宮本

「ディレクターに指名されたら、どうしよう」とか(笑)。

※8

『タレントスタジオ』=2000年2月に登場した、64DD用ソフト。マリオアーティストシリーズの1本で、ポケットカメラなどで人物の顔写真を取りこみ、ムービーなどを簡単に作成することができた。

岩田

で、そんなある日、わたしは高橋さんの上司である
坂本さんが「ちょっとこんなものができまして」と、
DSでつくっている試作品を見せてくれたんです。
そこには、すでにMiiがありました。
ま、Miiそのものではないんですけど、
機能としてはけっこうそのものだったような気がします。
すなわち、いくつかのパーツからものを選んで、
拡大したり、縮小したり、位置をずらしたり、
回転させたりして、似顔絵をつくるものができていたんです。

もし、そのときのわたしが、
宮本さんの似顔絵への執念を知らなかったら、
「じゃあ、これをゆっくり仕上げましょう」とか言って、
坂本さんとの話はそこで終わっていたかもしれません。
すると、Miiと呼ばれるものは生まれることもなかったでしょうし、
日米で1億人を超えるMiiが誕生することもなかったと思うんですが、
わたしはピンと来てしまったんです。
「宮本さんが求めているものは、こういうものじゃないのか」と。
それで「坂本さん、ちょっとこれ貸して」と言って、
ロムを持って宮本さんに見せに行くわけです。
そしたら、案の定「コレや!」と。

宮本

あのときは、本当に幸運でしたよね。
そもそも、Wiiの本体機能開発のための
部門横断の会議みたいなものがあって、
そこで似顔絵構想のことを伝言で提案してもらったら、
ほとんど全員が猛反対したんです。
「ほとんどシステムが固まっているのに、
いまさら何を言うんですか?」みたいな話になって。
自分で説明に行くことになりました。

岩田

そうでしたね。

宮本

そんな状況のなかで、
高橋さんたちがつくっていた似顔絵エディターを
岩田さんがもってきてくれて、
それを見たとき、さっき僕が言った
高性能化のほうに行ってなかったんですよ。
部品数も少なくて、すごくシンプルな方向だったんです。
そもそもWiiで似顔絵ソフトをつくろうとなったら、
パーツは何百種類も用意して、シルエットを取りこんで、とか
どんどん豪華なつくりへと
話が一気に行くのがふつうなんですけど、
あれはそうじゃなかったんですね。

僕らはわりとむかしから好きなのが、
ビット単位でセーブデータを詰めることで
「あと1ビットあったら、
パーツが16個増えるよね」とか言ってきたわけですよ。
で、今回もWiiリモコンに何バイト単位でデータをセーブできるし、
ひとつのMiiが確か70バイトくらいで。

高橋

正確には74バイトです。

宮本

74バイトでしたね。
ところが1メガの豪華な似顔絵にすると、
Wiiリモコンに入れて持ち運ぶことなんかできないですよね。
でも、74バイトだったら
1万人を本体に入れるようなこともできるんです。
ただ、Wiiに似顔絵ソフトを入れようという話になったとき、
「こんなんじゃ似ない」という意見はいっぱい出てきたんです。
でも、似ていなくても、自分でつくったのはうれしかったり、
たとえば孫がつくってくれた自分の似顔絵を見て
喜ばないおじいちゃんがいないわけがない、
といった論法で、強引に突破しようとしたら、
何人かが「やろう」と言ってくれるようになったんですね。

岩田

そこで、ここにいる開発のみなさんが
情報開発本部にさらわれてしまって
大変なことがはじまるんですけど、
高橋さんは、当時はまだ入社4年目くらいでしたか?

高橋

はい。

岩田

で、岡本さんたちに至っては、
同期の人がチームに何人かいたんですが、
入社以来初めて手がけた仕事に等しいわけです。
そうやって若いチームでDSのソフトをつくっていたら、
「これをWiiの本体に内蔵することにしたから、
情報開発本部に行って仕上げてこい。
半年間はチーム丸ごと応援異動だ」
みたいなことを突然言われることになったんですよね。
そのときわたしは、期間もはっきり言わなくて、
ここにいるみなさんは、たぶん
騙されたと思っているのかもしれないですけど(笑)。

高橋

3ヵ月、いや4ヵ月でしたか(笑)。

岩田

いや、3ヵ月くらいとか言いながら、
4ヵ月、5ヵ月かかったんですよ、確か。
高橋さん、当時、この話が降ってきたとき、
どう聞こえましたか?

高橋

正直、すごく驚きました。
自分たちがつくってるゲームを、もちろん仕上げたかったので、
この先、似顔絵がどうなっていくのか
心配ではあったんですけども、
それと同時に、Wiiで標準搭載されることは、
ものすごくたくさんの人たちに
この似顔絵を遊んでいただけるチャンスだ、
という気持ちもありました。

岩田

わたしも「これはチャンスだよ」と言って、
そそのかした覚えがあります(笑)。

高橋

そうでしたね(笑)。
でも、その思いは岡本さんのほうが・・・。

岩田

岡本さんはどうでした?

岡本

わたしも「こんなチャンスはないな」と思って、
喜んでいました。

岩田

入社1年目でしたよね、あのときは。

岡本

はい。

岩田

1年目のときに
こんなことがポンとやってきて、
そういう大仕事ができるというのは、
もちろん大変だったとは思いますけど、
一方でラッキーという面もあるんですよね。
何しろ、いまや日米でのMii人口が1億人を超えたと言われると、
ちょっとため息をつくようなことじゃないですか?

岡本

それはもう(笑)。

岩田

しかも、この数字は日本とアメリカだけですからね。
で、そうやって、突然巻き込まれてMiiをつくることになりました。
ただ、当時、DSの上で似顔絵のソフトはほとんどできていたとはいえ、
実はけっこういくつもハードルがあって、
日本人はつくれても、外国の方は上手く似るようにつくれるのかとか、
実際にWiiでの開発に取りかかるまえに
アメリカまでわたしが持って行って試したりしました。
そのあと、2006年の頭くらいから
本格的な開発がわーっとはじまったんですよね。

宮本

綱渡りでしたね。

岩田

たまたま高橋さんや岡本さんたちが、
当時『大人のオンナの占い手帳』(※9)というソフトをつくっていて、
そこにMiiの原型が入っていたわけで、もし、それがなかったら、
『Wii Sports』にはこけしが出ていたかもしれない。

宮本

そうですね。

※9

『大人のオンナの占い手帳』=友だちを登録して、相性占いなどが楽しめる大人の女性向けソフトとして開発されていたが、その後、『トモダチコレクション』として大幅に改良されて発売された。

岩田

いまや、MiiのいないWiiは、
みなさんはたぶん想像できないと思うんです。

宮本

足を向けて寝られないです(笑)。

岩田

いやいや(笑)。
宮本さんの20年の執念があって、
その上で、会社のなかに生まれたネットワークを
うまくつなげられた幸運がきっとあったんでしょうね。
宮本さん、できあがったMiiを見たとき、
こんなことが起こると思いましたか?

宮本

家族中のMiiが揃うというのは期待していました。
だから『Wii Fit』(※10)のタイトル画面のところで、
Miiが並ぶようにしたんです。
さらに、新しい『Wii Fit Plus』(※11)には
ペットまで入れました(笑)。
それに、『Miiコンテストチャンネル』(※12)
絶対にやろうと思っていたことなんです。
そもそもMiiはシンプルなツールでつくられるので、
社内でもいろいろ「パーツが足りない」とか、
「こんなパーツじゃ似ない」と言われたときに、
思いついたのが、コンテストでした。

コンテストというのは、三題噺のように
3つの言葉だけで落語をつくりなさいとか、
みんなに制限があるほうが面白いんです。
そのなかで、ものすごい似てるMiiが出てくると、
「こんなパーツじゃ似せられない」と言っていた人たちも、
急に「似せてやろう!」という闘志が湧いてくるものなんです。
だからどうしてもコンテストをやりたいと思ったんですね。

岩田

宮本さんは「Miiは(パーツが足りないから)似ない」とか言われると
けっこう「なにくそ」と思う人で、
ものづくりでは、
それも大切なエネルギーなんじゃないかと思いますね。

※10

『Wii Fit』=2007年12月発売の、Wii用フィットネスソフト。

※11

『Wii Fit Plus』=『Wii Fit』に新たな機能やトレーニングを追加して、2009年10月に発売されたWii用フィットネスソフト。

※12

『Miiコンテストチャンネル』=WiiショッピングチャンネルからダウンロードできるWiiチャンネルのひとつ(無料)。自分でつくったMiiを投稿したり、知らない人がつくったMiiをもらったりすることができる。

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