5. 作り手が考えるウケた理由

岩田

サウンドの伊藤さんは
いつ頃からこのソフトがどういうものだとわかって、
気合いが入ってきましたか?

伊藤

やっぱり最初は手探りでした。
たとえば悲しい音楽とか、寂しいときの音楽とか、
そういった曲をつくるときはテレビや映画を観て、
ヒントを得ることはできるんですが、
『トモコレ』に使われるのは
相性診断の曲とか、適職診断の曲とかですから、
そんな曲は世の中にあまりないですね。
一応バラエティ番組には、血液型診断とか、
そういうコーナーもあったりしますけど、
どうも『トモコレ』のイメージに合わなかったりして、
本当に手探りの状態でした。
わたしは、相性診断の曲は「♪チャララーン!」みたいな
ナイトショーのような派手な曲を想像していたんです。
ところが、「ピアノ曲がええんとちゃうか?」と言われて。

岩田

誰がそう言ったんですか?

伊藤

坂本さんです。
「え、ピアノ曲!?」と、ちょっとビックリしました。

岩田

高橋さん、そのあたりの経緯はご存じですか?

高橋

それは、坂本さんと相談して決めたことだったんですけど、
やっぱりありきたりなものにはしたくないという思いが
すごく強かったんです。
そこで、思いっきりマジメな方向に切り換えることにして、
結婚式の会場の待ち時間で流れている、主よ・・・。

岩田

「主よ、人の望みの喜びよ」ですね。

高橋

はい、そういうような曲にしてはどうかと、
伊藤さんに提案しました。

伊藤

それで騙されたと思って、言われるままに、
相性診断の曲をつくってみたんです。
するとOKが出て、「こういうゲームだったんだ」
とわかるようになってきて、
バラエティ番組など、既成のものに
頼ってはいけないんだと気づきはじめました。

岩田

伊藤さんも、独特の自由奔放さに慣れてきて、
つくった曲がOKと言われると、
だんだん盛り上がってきたんでしょうね。

伊藤

はい、盛り上がってきました。
そのあたりから、失恋したときの曲はこうでしょうみたいに、
自分から提案するようになりました。

岩田

ありきたりじゃないものが
求められていることがわかるようになったんですね。

伊藤

はい。

岩田

さて、そのように、しおれてしまったり、
たくさんのプログラムの仕事が集まったり、
「パンツを脱いでいない」というメールが届いたりして
できあがった『トモダチコレクション』ですが、
みなさんは仕事が終わってみて、
どうしてこのソフトがこれほど多くの人にウケたと思いますか?
これはチームのみなさんだけでなく、
宮本さんにも訊いてみたいんですけど、
まずは海野さんから。

海野

ほとんどのゲームは架空の登場人物が出てくると思いますが、
『トモダチコレクション』は、自分たちの知っている
身近な人や友人が出ているゲームなんです。
もし、友人たちのお芝居やライブとかがあれば、
たとえ自分が演劇や音楽に興味がなくても、
きっと見に行くと思うんです。
それは、友だち間や先輩・後輩の間で、
話題がすごく共有しやすいからで、
このソフトがたくさんの人に受け入れられたのは、
たぶんそういう理由があるんじゃないかなと思っています。

岩田

そこがまさに宮本さんが
似顔絵に目をつけた理由でもあったりしますよね。
身近な人や友人が出ていると、
ソフトの中身との距離が近くなるんですよね。
伊藤さんはどう思いますか?

伊藤

わたしが思うのは、
すごく細かいところでつくりこんだところが、
意外性があって面白かったからかなと思います。

岩田

何か例を挙げられますか?

伊藤

たとえば、失恋のシーンなんですけど、
Miiは「○○が好きになりました。告白していいですか?」
というふうに聞いてきます。それに対して、
「告白していいよ」「やめたほうがいい」というふうに選べます。
で、その後、実際に告白してふられたときや、
つきあっていたカップルが別れたときや、
さらに結婚して、その後に離婚したりするときで、
それぞれ違うシーンになるように、
細かくつくりこんでいたりするんです。

岩田

一見、別れのショックは同じでも、
つくりこみが全部違うんですね。

伊藤

はい。
やっぱりそれぞれ思い入れが違いますので、
だからこそリアリティが生まれるんだと思います。

岩田

それは高橋さんのこだわりですか?

高橋

はい。それと坂本さんと企画部の女性スタッフの方が、
告白や恋愛関係のシステムをすごく気にいってくださったんです。
とくに女性スタッフの方は
「もっと、ああしてくれ、こうしてくれ」みたいに
リクエストが多くて。

岩田

女性スタッフというのは、
この商品の面倒を見てくださった企画部の担当の人ですよね。

高橋

はい。

岩田

たしかに彼女の“トモコレ愛”はすごかったですね。
マンションにたくさんのMiiが住んでいて、
それぞれのMiiには、特別に元気が出る大好物があって、
それは、簡単にはわからないんですけど、
彼女は全住人の大好物を見つけ出していて、
毎朝、全員にその大好物をあげて、
みんなをご機嫌にするのが日課のような人でしたよね。

高橋

それほど“トモコレ愛”が強烈でしたので
そのぶん、リクエストも多かったんです。

岩田

で、そういったこだわりが、高橋さんに伝わり、
高橋さんもこれはふつうじゃダメだなと思ってやったことが、
実はウケたのかなと、伊藤さんは感じたんでしょうね。

伊藤

はい。
それに、一般のゲームのように
プログラムで制御したかっこいい仕組みをつくることも
もちろんすばらしいことだと思うんですけど、
今回の『トモコレ』のように、人間性あふれる、
手作り感が伝わるような仕組みも
すごく味がありますし、
その温かさみたいなものを
お客さんが感じてくださったのかなと思います。

岩田

なるほど。
岡本さんはどうですか?

岡本

やっぱりMiiを人間っぽくできたのが、
いちばんいいと思っています。
わたしが以前、高橋さんに対して、
「ぜんぜん面白くない」と言っちゃったときは、
Miiがへんてこな動きばっかりする
ロボットみたいな感じだったんです。
ところが、ある日触ってみたら
すごく人間らしく動く瞬間があって、
「すごい面白い」と感じるようになったんです。

岩田

人というのは日常的に
人のことをよく見ていますので、
人の不自然さに対してはすごく厳しいんですね。
だから、デフォルメをうまくやって、
上手にその世界をつくらないと
アラばっかり目立っちゃうんだと思うんです。
で、たぶん、岡本さんが「面白くない」と思っていたときの
『トモコレ』の状態というのは、まずアラがいっぱい目立って、
すぐに興ざめしちゃう状況だったんですね。
ところが次第にだんだんよくなっていって、
きっとある境を越えたときに
「すごく面白い」と感じられるようになったんでしょうね。

岡本

その通りです。
それに、人を観察したり、ウワサ話をするようなことは
ふつうに楽しいことですし、
そういった人間関係をゲームのなかでつくる楽しさが
このソフトがウケた理由なのかなと思っています。

岩田

高橋さんはどうですか?

高橋

みなさんがすでに話してくださったようなことと
内容は同じだと思うんですけど、
お客さんはMiiを通して
実在する人物を見ているんですね。
なので、ふつうのゲームのキャラクターに比べて、
感情移入度がぜんぜん違うと思うんです。
そんなところに、お客さんは引き込まれていったのかなあと思います。
で、それに加えて、人に見せたくなったり、
伝えたくなったりする要素があったことが、
これだけ多くの方に受け入れられて
遊んでいただくことにつながったのかなと思います。

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