『開発者に訊きました スーパーマリオブラザーズ ワンダー』

2023.10.18

自由にクリアできる

約11年ぶりの2Dマリオということですが、今Nintendo Switchを遊んでくださっているお客さまの中には横スクロール型2Dアクションのマリオが初めてという方もいらっしゃるのではと思います。そのあたりはゲームづくりに影響しましたか。

林田

「今の時代に合う2Dマリオは何か」ってことはよく話し合いましたね。

手塚

今作は、当初から危機感を持って挑んだプロジェクトなんです。

「危機感」ですか?

手塚

2Dマリオは3Dマリオと比較して
表現に変化が乏しいと感じたり、
最後までクリアできないというイメージがあるかもしれません。

そんな中、スマホアプリの『スーパーマリオ ラン』※16をつくったときに
小さな発見がありました。
開発メンバーの中にマリオのアクションゲームが苦手な人がいて
「先が見たいのに苦手だから進めない・・・」と言われたんです。

※162016年12月配信開始のスマートフォン向けアプリ。走り続けるマリオをタップしてクッパ城を目指す。

佐藤

序盤のキノコの足場に次々飛び乗って進むコースで、
どうしても穴に落ちてしまう、と聞きました。

手塚

僕らはそんなに難しいと思っていなかったから、
「難しくて進められないと、頑張って続けようと思えなくなる」
ということに気づけてなかったんです。

それで、もっと先に進みたいと思ってもらうには
どうすればいいのかを考え始めました。
そしたら「自由度」が足りないのかなって。

例えば『オデッセイ』って
ゲームの進め方は違っても
あらゆる人がちゃんとエンディングまで
たどり着けるようになってると思ったんですよね。

林田

それって「今の時代にあった遊び」ということですよね。
3Dアクションのマリオの遊びは
エンディングまでたどり着いてもらう設計になっているから、
それを参考にできないかって手塚さんに言われましたね。

なるほど。ここでも、3Dマリオのつくりかたを参考にしたわけですね。

手塚

2Dマリオって、どうしても「難しいシビアな遊び」と
思われがちなのかなと感じていたんです。
操作のタイミングを間違えると、
逃げ場が少ないから
3Dマリオよりもミスにつながりやすいしね。

今回はそうではなくて、アイデア次第で攻略できるし
技術だけではなく知恵を絞れば、先に進める
という仕組みにしたつもりです。

林田

そうなると、今の時代にあった2Dマリオって
「自由にクリアできる」ということなんじゃないかなと思いました。

例えば、今までの2Dマリオは、
コースを一つずつ決められた順番でクリアしていく形式でしたよね。
でも今回は、チャレンジしたいなら難しいコースから、
初めての人なら簡単なコースから進めていくことができるようにしました。
画像コースにむずかしさの表示もつけてあります。

また、今回は3Dマリオでも行っているキーアイテムを集めることで、
特定のコースを開放して先に進む方式も入れ込みました。
そのキーアイテムが、
今回は「画像ワンダーシード」と呼んでいるアイテムになります。

「ワンダーシード」はコースクリアでももらえるのですが、
コースがクリアできなくても、画像コース中で見つかるフラワーコインを集めれば
「なんでも屋」で買い足すこともできるんです。

毛利

それから、キャラクターを12種類に増やして、
さらに各キャラクターにつける性能も
自由に選択できるようにしていますよ。

ヨッシーやトッテンはダメージを受けないという少し異なる性能がありますが、マリオ、ルイージ、ピーチやデイジーたちは同じ性能なんですね。これはあえてということですか。

毛利

はい、これまでのマリオタイトルでは
ルイージは高く飛べる、ピーチはふわふわ飛ぶ・・・とか
キャラクターごとに性能差があるタイトルもありました。

でも、それは言い換えると
「特定のキャラクターじゃないとできないことがある」
っていうことなんです。
ジャンプ力がほしかったらルイージを使うしかない。
だから今回はそれをやめて、
好きなキャラクターを選んで好きな性能で遊べるようにしたかったんです。

そこで今作は、キャラクターと性能を切り離して、
好きなキャラクターに好きな性能のバッジをつけて遊ぶ
バッジシステムという形でまとめました。

手塚

バッジは毛利さんのこだわりがすごく詰まったところですね。

毛利

最終的に、20種類以上のバッジという形にまとまりました。
50以上の試作を重ねて、厳選されて残ったものです。

性能をバッジという形でうまく分離させられたので
コースをクリアしやすいバッジをつけるだけでなく、
たとえば「常に走り続けるバッジ」とか、
「透明になって自分からも敵からも見えないバッジ」といった
上級者向けの「縛りプレイ」もできるような
性能が実現できました。

バッジを自由につけ替えれば、遊び方自体も広がるということですね。

毛利

しゃがんで高く飛ぶようなアクションが変化するものもあれば、
穴に落ちたら自動で戻ってくるような初心者向けのバッジもあって、
つけ替えると、同じコースを違う体験や難易度で遊ぶことができます。

2Dマリオは難しい、と言って途中で諦めてしまっていた人も、
最後までたどり着きやすい設計になったと思います。
それに、バッジを集めるという新しい遊びにもつながりました。

マルチプレイのときに、あえてトリッキーなバッジをつけるとか
そういう遊び方もできるようになりました。
全員で、透明になってみるとか(笑)。

林田

そういえば一時期、手塚さんが
「ゲーム中に難易度を自由に変えられる仕組みはないかなあ」って言っていて
当時は「そんな無茶な・・・」と思ってたんですけど、
バッジがそういうところもカバーできたので
なんとかなりましたね(笑)。

毛利

それ、最初は「難易度調整のバーを画面に出しておいて、
それを動かすと
リアルタイムで難易度が変わるとか、できへんかな?」って言われて。
それはさすがに無理でしょうと思ったんですけど・・・(笑)。

ゲーム中にコース全体の難易度がリアルタイムに変わるってことですか? それはさすがに想像がつかないです(笑)。

手塚

でも次回作では、できてるかもしれへんで?

一同

(笑)。

佐藤

手塚さんの、そういう「無茶ぶり」は
いつどんなところで振られるか、
いつもドキドキしてました(笑)。

毛利

そういえば手塚さんが「実況とかできへんの?」って
言ったこともありましたね。
そのときは言われている意味もよくわからなくて(笑)。

でも必ずしも実況の形じゃなくても、
新しい体験をしたいんだなと解釈しました。

実況って、サッカーや野球の試合実況みたいなもののことですよね? マリオのゲームでそれをやりたいという話があったんですか。

林田

実際半年くらい、真面目に「実況」をつくってたときもあったんですよ。
プレイヤーのアクションに合わせて声を入れてみたりもしました。

実況の声もいろいろ入れたものの、
そのうち「これって誰が実況してるんだろう?」
っていう話も出てきたりして、
なーんかしっくりこなかったんですよね(笑)。

手塚

僕は好きやってんで、わりと(笑)。

毛利

チームの中でも好きな人と好きじゃない人に綺麗に分かれたんですよね(笑)。
通常ではアナウンサーのようなごく一般的なもので、
オプションでツンデレ※17実況に切り替えられるようになっていました。

えっ、ツンデレ実況???

※17普段は冷たい態度をとるが、対極的に好意も垣間見せるような性格や人物のこと。

毛利

実はテストプレイの記録を取っていたんですけど、
けっこう切り替えてる人もいましたね、ツンデレ実況に(笑)。

一同

(笑)。

手塚

ただ実際、この実況を本気でやろうと思うと
声のバリエーションひとつとっても、すごい量になって、
残念ながら無理や~、って。

でも、それまでの実況の試行錯誤をやめてしまうのは
あまりにもったいなかったので、
この仕様を専任で引き継いで考えてもらえる方に
スタッフとして加わってもらったんです。

毛利

そんなときにちょうど、「フラワー王国を舞台にしよう」という話もあって、
その舞台にマッチする「おしゃべりフラワー」という形で
この実況のアイデアをうまく落とし込むことができました。
「マリオの世界に合う実況」ですね。

林田

おしゃべりフラワーがいると、
遊んでいて「さみしくない」感じがするのがいいんですよね。
コース上って自分だけだと割と孤独な闘いなんですけど、
いいところでおしゃべりフラワーが声をかけてくれますし。

佐藤

親みたいに「やさいもたべるんだよ」とか、
けっこう面白いこと言うんですよね(笑)。
隣でプレイを見てる人も一緒に盛り上がれると思います。

確かに、おしゃべりフラワーはコース途中でヒントをくれたり、プレイヤーが内心思ったことを代弁してくれたりしますよね。遊んでいてさみしく思うことがすごく薄れるように思います。

手塚

声をかけてくれたり、言ってくれたことに共感したりすると、
遊びが楽しくなるかもと思ったんです。
「おしゃべり」をオフにする機能ももちろん用意していますけど、
できるだけみんなが聞いてくれたら嬉しいですね。

毛利

それにコース上に存在するオブジェクトにしたことで
隠れているおしゃべりフラワーを探したり、
天井近くにチラっと見えていて「あそこ、どうやって行くのかな?」
と思わせたり、今までにないマリオの遊びがつくれたと思います。

近藤

難易度変化や実況で、「手塚さんの無茶ぶり」という話が出ましたけど
僕は「手塚さんや僕が考えるマリオの世界」と
「スタッフの皆さんが考えるマリオの世界」の間に
ギャップがあるんじゃないかなと思ってまして。

今までのマリオは、歴代ハードが持つそれぞれの性能と制約のなかで、
その当時できる限りの遊びを工夫して詰め込んできました。
なので過去のマリオを遊んできたスタッフにとっては
そのタイトルで描かれる世界が「マリオの世界」で、
それを継承していこうとするんです。

でも、僕や手塚さんの考えるマリオの世界って
実はもっともっと広くて、
楽しいと思えるものはどんどん取り入れてよいもので。
それが「無茶ぶり」にみえているのかなあって思ったんです。

なるほど。もっといろいろ新しいことにチャレンジしてしまっていいというのが、マリオの世界ということですね。ところで、今回はサウンドチームもその新しい遊びのアイデアを一緒に考えたというお話でしたが、それは珍しいことだったんですか。

近藤

いつもサウンドチームに新入社員が入ってきたときに、
「作曲担当、SE担当者である前に、きみたちはゲーム制作者だから
いろいろなアイデアを出して、ゲームの内容に
おかしいなと思うところがあったりしたら、意見を言うようにしてね」
ということを伝えるようにしているんですけど、
今回はそれがより密に関われて、
まさにゲーム制作に携われた感じがしましたね。

手塚

サウンドチームは人数も限られますし、
開発の最初からというよりも、開発途中の必要な段階になってから
開発チームに入ってもらう場合が多いんですよね。
しかも、ある程度絵の方向性が定まらないと
音をつくるイメージもできないですし。

近藤

これまでは、開発後半での合流が多かったので、
サウンドに応じて画面もこう変えたら面白いのにな
と思ってもなかなか実現できず、ウズウズしていました。
前回も開発終盤に合流したので「動画クリボーをBGMに合わせてジャンプさせる
くらいのことしかできなくて。

でも今回は、開発序盤から一緒になって
お互いに遊びのアイデアを出し合って、
サウンドに関わる部分もプログラマーが一緒になって試作してくれました。

今回はワンダーフラワーを取ると、コースの途中で突然地形が大きく変化しますから、サウンドへの影響も大きそうですね。

近藤

はい。
以前からコース丸ごとミュージカルのように動き出す、
みたいなことをやってみたくて。

まずは曲に合わせてパックンフラワーを土管から出してみる、
という検証から始めたところ、
プランナーが土管や足場を動かすコースをつくってくれました。

それが開発チーム内でも好評だったので
いろんな敵や仕掛けもリズムに合わせて動かすように調整していったのですが
プランナーは音楽の拍や拍子のことがよくわからないし、
サウンドはレベルデザイン※18のことについて詳しくないし、
ちょっと大変でした。

※18オブジェクトの配置等でコースの設計(デザイン)をすること。

手塚

サウンド担当とレベルデザイナーとで、
すごく時間をかけて調整していましたよね。

近藤

双方に説明会を実施したり、
サウンドもレベルデザインの配置を実際触ってみたりと
お互いの専門分野について実際に足を踏み入れて
理解を深めていきました。

佐藤

「ワンダー試作会」でも
いろんな検証をされていましたよね。
実際、音から「ワンダー」の遊びが生まれたこともありました。

近藤

動画1、2、3ジャンプ!ハックンダンサーズ」ですね。
画面上のいろんなものが音楽にあわせて動き始めると
自分も音楽に合わせてアクションしたくなっちゃったんですよね(笑)。
それで「4拍目にジャンプして遊ぶコース」をつくってみたんです。

佐藤

これがまた印象がすごくよくて・・・
同じものをほかのコースでも遊べるようにって
「リズムジャンプバッジ」も生まれました。

手塚

「今後の新たな2Dマリオのベースをつくる」
というのをテーマにやってきたわけですが
つくりかたから変えていったことが実を結んだのかなと思いますね。

なるほど。3Dマリオのつくりかたを2Dマリオに応用したり、サウンドチームも交わって担当分野横断で遊びをつくったり、ゲームの「つくりかた」自体からから大きな変化・・・ワンダーがあったということですね。