株主・投資家向け情報

2008年10月31日(金)経営方針説明会/第2四半期(中間)決算説明会
質疑応答
Q 16  DSiはゲームボーイアドバンスのソフトに対応していないが、今後DS Liteやゲームボーイアドバンスは、並行して売り続けるのか。
A 16

岩田:

 これは市場のニーズということがポイントになってくると思います。先般、(ニンテンドーDSiの)発表のあと、流通関係の皆様にいろいろお尋ねしますと、DSiとDS Liteの二つの差を理解した後だと、これからはDSiが中心の商材になっていくのではないかという見方をされている方が多かったです。年内どれだけ必要ですかというような見通しをお聞きしても、「DSiのほうがDS Liteよりはるかに大きな数が必要だ」ということでした。もちろんDS Liteの必要数もゼロではなかったんですけれど。今はそのような反応と理解しています。

 ですからマーケットで求められないのに、つくり続けても、それは不要な在庫ができるだけですから、そうならいようにしないといけないでしょうが、一方で明らかにニーズがあるということであれば、DS Liteは別につくれなくなるわけではありませんので、つくったらいいと思います。ただ私たちも小売店さんの見解と一緒で、かなりの割合がDSiのほうに、特に日本のマーケットでは早く移行されるのではないかなと感じています。ただわれわれが、ニーズがあって、お客様が欲しいとおっしゃっているのに、一切DS Liteをつくらないということを考えているわけではございません。

 ゲームボーイアドバンスは、しばらく流通さんからご注文いただいておりませんので、しばらく新規に製造はしていません。

Q 17  ゲームがというか、任天堂の商品が必需品になるためには、任天堂には何ができるのか、何をするのかというのを教えてほしい。その背景を説明すると、われわれは投資家なので、基本的には利益にしか興味がない。それからあと、御社は打ち出の小槌があるので、2〜3年ぐらいは、どちらかというと利益の出し方をどうするのかというところと考える。今日のプレゼンテーションを拝見して、一つ違和感があったのは、もはやわれわれ投資家は、任天堂が今回のオリンピックで勝ったというのはわかっているし、続くワールドカップは勝ち続けるというのはわかっているので、次のオリンピックで勝てるのかどうかというのにもう視点がいっていて、今日の資料のようにWiiとプレイステーションやXboxを(別々に)比較するのではなく、もうすでにプレイステーションとXboxを足して、それとWiiを比較して、われわれは分析を始めている。そういった視点で考えると、次のステージのためにも任天堂の商品は必需品にならないといけないと思う。配当に関しても、安定配当ではなく配当性向の方針を打ち出しているので、利益も安定して出したいという思いも経営陣の中にはあるかと思うが、それを踏まえて、任天堂の商品が必需品になるためには何ができるのか、何をしようとしているのかというのを、もう少し長期的な観点で教えてほしい。
A 17

岩田:

 まず私は娯楽製品が必需品になるとは、あまり考えておりません。また必需品にする仕組みをつくったら、未来が安泰だともまったく思っていません。

 というのはどんなものも、一見ある時期には必需品のようになったものも、何らかの破壊的なテクノロジーが現れて、イノベーションがバーンと起こると、そんなビジネスはあっという間に壊れるわけです。だから会社の寿命は何年だといわれたり、かつてエクセレントカンパニーだ、ビジョナリーカンパニーだと褒め称えられた会社が、5年後、10年後におかしくなることが多いわけです。ですから必需品になるために頑張って、必需品になったら、その構造でずっと安定して儲かるという発想でいると、たぶん任天堂は長期的には栄えないと私は思っています。

 ですから、むしろそうではなくて、娯楽企業の本質に立ち返って、われわれは究極には、なくても生きていけるものをつくっているんだけれども、なくても生きていけるものなのに、優先して買っていただけるものというのは何だろうということを意識して、つくり続けないといけないと思っています。それができなくなったら、任天堂がいまどんなによい状況だと言っていただけても、たちどころにおかしくなるわけです。

 外から、「打ち出の小槌を持っている」とまで言っていただけることは大変光栄なことなんですが、私にはそういう自覚はありませんし、毎年必死にやりながら、いまの状況があります。確かにこのスケールのビジネスが、年商5000億から九千何百億になって、1兆6000億円になって、2兆円になるというようなペースで拡大するということは、歴史にあまり例がないとは思いますが、打ち出の小槌を持っているという自覚もございません。

 当然いつか次のラウンドというのがやってくるわけです。私は単純にこれまでと同じプラットフォームサイクルにはならないはずだと申しあげてきましたが、一方でDSやWiiは永遠にプラットフォームとして栄え続けるとも思っていません。いつかは何かが必要でしょう。そのときに何をするかですが、それをどうやって勝つのということで、仮に私がいまアイデアを持っていたとしても、公の場では絶対にしゃべれません。なぜならば、それをいまからしゃべれば、当然、皆さんが対抗される準備をするからです。

 予想もしないものが出てくるから驚いていただけるわけで、2画面で携帯ゲーム機をつくるなんて、夢にも思わなかった。棒状のリモコンを振り回して遊ぶゲーム機をつくるなんて、だれも思わなかった。体重計を1年で1000万台も売ってしまうような会社が、突然ゲーム屋さんの中に現れるとはだれも思っていなかった。だからわれわれの作戦が効いたわけですね。

 ですからその意味では、今日いまのご質問に対して、具体的に任天堂はこうだから、5年後も絶対に安泰だから、いまも投資をしてくださいというふうに申しあげられる材料はないですし、(未来のことをお話ししても)それはむしろ任天堂の株主の方々の共同の利益を害することになってしまうと私は思っておりますので、どうかご容赦ください。

Q 18  DSiの販売戦略に関して解説、補足してほしい。ゲームボーイアドバンスのSPのとき、見た目が思いっきり変わっていて手に取った方が多かったかと思う。実際に手に取ってみれば、画像や音声を手に取って触れるというのは本当におもしろいと思うし、口コミの効果も徐々に出てくるとは思うが、スローな立ち上がりになる懸念はないのか。特に既存のユーザーさんの買い替え需要をどういうふうに盛り立てていかれるのかに関して解説してほしい。
 ハードウェアの投入後、数年経って値下げで需要喚起というのは、かつてどのメーカーさんも、もちろん御社も使ってきた販売戦略の一つの要だと思うが、今後の考え方を解説してほしい。
A 18

岩田:

 現状でDSiの予約状況というのを、報告を聞いているんですが、予約状況は悪くないですから、私はスローな立ち上がりになるとは思っていません。そして、どんなテレビ宣伝やキャンペーンよりも、自分の友だちが横でDSiを触って一緒に写真を撮ったり遊んだりすることのほうが、たぶん魅力を感じていただけると思っています。

 ですから、新しいお客様にアピールするだけではなくて、いままでもDSは遊んできて付き合ってきたけど、「これなら自分は新しいのにしよう」と思っていただけるかどうかも、その最初に買っていただいた方が身の回りの方とどのようなインタラクションを起こして、DSiの魅力を感じていただけるかにかかっているなということを感じています。

 DSというのはこういうものだということで、箱が、長方形が二つあって、その中に液晶パネルの絵を描いたら、それはもうDSに見えるというぐらいの、アイコンのようなものでありたいということを意図して、今回のデザインをしたんですが、変化をつけて、「デザインが変わったからもう1台買ってください」ではないところに今回は商品企画上のポイントを置きましたので、そういう意味ではデザインの変化でものを売るのとは違う、触ってわかってくださった人が身の回りの人とやりとりをすることで魅力を理解していただくという売り方になるんじゃないのかなと思っています。

 あともう一つは、過去のゲームビジネスでは、ハードの投入時は値段が高く、そして時間が経つほどだんだん安くなるというモデルが機能していましたし、またソフトにおいても、いわゆる廉価版といわれるものが、発売後一定期間経つと出るというのが半ばお約束のようになっていると思います。また、そういう販売方法が向いている商品というのも、きっとあるんだと思います。そこで任天堂が考えたのは、それは一見業界の常識のようになっているけど、本当にそれ以外の売り方はないのかということでした。私自身、一人の消費者として自分の買ったものが後から値下げされて売っていると、率直に言って不愉快なわけです。

 ちょっと例が違いすぎますけど、マンションを先に買われた方が、同じマンションの別の部屋が売れ残ったんで、すごい安い値段で売っているということを聞くと、ものすごく心情を害されます。一生に滅多にない回数の買い物と、ゲームソフトやゲーム機を同列に語るのは間違っているかもしれませんが、本来同じ価値のものを買っているはずなのに、どうして先に応援した人ほどたくさん負担するのがこれほど常識になっているんでしょうか。しかもそれがずっと続いてきましたから、お客様はどんどん学習するわけです。で、いまやゲームソフトが出て、特にピーキーな売れ方をするタイプのゲームソフトで、発売後何カ月後か経ってからちょっとそのソフトに興味を持っても、「もうちょっと待ったら安くなるかもしれない」と思うと、もう買えないわけですね、気持ち的に。これは何か間違っているんじゃないかということをずっと考えていまして、そうでないあり方は追求できないだろうかというようなことを、私は波多野とも宮本ともさんざん相談をしまして、なるべく最初の値段を維持するモデルでチャレンジしたいと思っています。

 もちろんそんなことを言っていられない状況に追い込まれれば、あるいは環境が大きく変われば、値段を改定せざるを得ないこともありえますので、未来永劫そういうことはしませんということは申しあげられないんですが、どうも「段階をもって値下げをしながら需要を喚起するというモデルは、お客様にどんどん見透かされてしまって、いまは以前のように効かないんじゃないか」ということを感じていて、逆に任天堂は、この間ずっと自社ソフトの廉価版というのをほとんどやらずに来ています。

 ごく一部例外としてゲームボーイアドバンスの末期、あるいは最近ですとゲームキューブ用につくったソフトをWiiでつくりかえた「Wiiであそぶセレクション」で、ある種廉価版的な位置づけのものがありますが、出してからそういうものが出るまでの期間が非常に長いですから、通常の、ほとんどのものが中古でグルグル回ってしまうから、それを止めるために廉価版を発売するというのとは違う構造で動いておりますので、逆に任天堂のものはいつ買っても、先に買って損をしたということが少ないという信頼をお客様と任天堂の間につくることができたら、それは長期的に見て大きなメリットがあるんじゃないだろうかということを考えています。今回のラウンドは幸運にもそのやり方でうまく回っているということだというふうに思っております。

Q 19  これまでの話を聞いて、任天堂は磐石の体制ではないか思い、この状況に死角はあるのかということを考えているが、社長は先ほど次のラウンドがやってくるだろうというような発言があったが、その中でDSiという新しい用途を提案するゲームを出し、また売上高も2兆円突破する勢いということで、この勢いを止めるものがあるとすれば、どういうものがあると考えているのか聞かせてほしい。
A 19

岩田:

 私は自社が磐石だと考えたことは一度もございませんし、また磐石という考えを万が一持ってしまったとすれば、それこそが非常に危険なことではないかと思います。これから任天堂では、ゲームキューブやNINTENDO64のときに、結果的にマーケットでメインストリームになれずに苦しんだ経験をした人は会社の中で減っていきます。逆に言うと、その苦しみを知らない人の割合が会社の中で高まっていくわけです。そうなったとき、すなわち、われわれが前回のラウンドと今回のラウンドで何が違って、どんな些細な、小さなことがその命運を分けるのかということがまったく自覚できない人の割合が高まってしまったときに、どうやって組織全体が緊張感を持って運営ができて、どうやって大事なことを忘れずに、どうやって企業が自滅的な行動を取らないようにあれるのかが問題です。これはよい状況が続けば続くほど、チャレンジのハードルは上がっていくと思います。

 まあ、産業、ビジネスの歴史の中で永遠に好調が続いた会社は見たことがないので、そのチャレンジが来たときに、なるべく辛い時期をうまく乗り切れるようでありたいと思います。

Q 20  欧州市場が最大市場になったということだが、岩田社長が主導でいろいろ欧州市場の開拓をしたということだが、実際に、欧州は日本と同じような戦略だったのか、どのように欧州で拡販していったのかということと、欧州市場はかなり国によって濃淡があると思うが、そういう国別の事情みたいなこと教えてほしい。
A 20

岩田:

 まず、われわれ日本人はついヨーロッパとひとからげに考えやすいのですが、まったく違う価値観や、まったく違う個性を持つ国々の集合体で、ある国で常識とされることが別の国では常識にならない、ある国で商戦期のときは別の国ではそうでないということが山ほどあります。

 いまおっしゃったほど、私だけが何かをしたというよりも、私もいろいろなことをしましたし、商品の中でどこをアピールしてほしいのかということを伝えるということにおいては、かなりたくさんのことをしたつもりなんですが、どうやって売るかとかいう意味では、逆にヨーロッパの人たちの中で、日本が先行してゲーム市場を拡大した過程をよく研究して、日本のコマーシャルはどうして効いたんだろうなとか、この商品はどうして受け入れられたんだろうなということについて、非常に彼らは貪欲にそこから学んで、自分たちの市場に応用できるところを探そうとしてくれたという部分も大いにあるというふうに思っています。

 これは本当に日本が先行してゲーム人口を拡大させるということが実現できていなかったら、ヨーロッパは絶対にこうなっていないというふうに私は言い切れるとさえ思います。

 それからヨーロッパが非常によくなった大きな要因でもあるのですが、ヨーロッパの中でだいたい全体の3分の1はイギリスの市場なんですけれども、実はイギリスの市場におけるプレゼンスは、任天堂は2005年時点ではほぼ皆無でした。年間のヒットソフトベスト20の中に任天堂プラットフォームのソフトはゼロで、こんな地域は世界中でイギリスだけでした。そのときに、まだ日本やアメリカが今日のような状況でなかったとはいえ、必ず上位には任天堂のソフトがありましたから、それがまったくプレゼンスがない状態、当然お店の店頭でもプレゼンスはありませんし、人々の認知も非常に低い状態です。ですが、非常に個性の強い商品、それはDSと「脳トレ」の組み合わせや「ニンテンドッグス」の組み合わせであったり、あるいは「Wii Fit」や「Wiiスポーツ」とWiiの組み合わせであったりというようなことがありましたので、その非常に個性の強いものを軸にヨーロッパの中の最大市場であるイギリスで大きなマーケットが生み出せたことによって、全体のムードが非常に大きく変わったというふうには思います。

 でも、あえて申しあげますが、魔法はないです。本当に小さなことの積み重ねで、気がついたらすごく変わったということです。私も今回のプレゼンのグラフをつくりながら、ヨーロッパの市場の変化というのを、改めて自分たちがやってきたことに少し驚いたりしたんですけれども、でも何か一つの魔法があってこうなったんじゃなくて、小さなことを積み重ね続けた結果だなというふうに感じました。


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