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2011年6月29日(水) 第71期 定時株主総会
質疑応答
Q 4-1  Wii Uについて、はずしてしまった時は立て直しが難しいと思うがどうか。これは、3DSについても言えると考える。
A 4-1

岩田:

 「Wii Uをはずしたらどうするんだ」というご指摘についてです。私たちは、最も打率が高くなるように最善の努力をするわけですが、人間のやることですので、「任天堂のやることは100パーセント当たります」とは申しあげられません。言うと嘘になってしまいますし、私は皆さんの前で嘘はつきたくないので、なるべく打率を上げるように努力いたします。また、任天堂の経営陣の過去の実績を見ていただいて、「相対的に一定以上の打率の高い人たちだ」と信頼してお任せいただきたいと考えておりますが、先ほどお話がありました通り、「はずすと覆すのが難しい」というポイント、それから、「一度付いたイメージというのは簡単に変わらない」というポイント、これは全くご指摘の通りでございまして、非常に重要なポイントだと思っています。

 ですから、私どもとしては、3DSについても、これは外的な要因もありますが、われわれ自身が、「今すぐニンテンドー3DSをほしい」と思っていただけるようなソフトをもっと用意して発売ができていたら、たぶん今よりも良い状況で3DSは推移していたはずですから、そこが不十分というご指摘に関しては、われわれ自身、反省しなければならないポイントです。

 一方で、娯楽の製品というのは、「最初に考えた仕様の通りに作れば絶対に面白いものができる」ということはなくて、ある程度作ってみて、実際に手触りを確認して初めて「ここをもっとこうしたら、もっと面白くなる」とか「ここは面白さを阻害する別の要因が入っている」ということが、ある程度作ってから分かるものです。これは、専務の宮本の「ちゃぶ台返し」などと言われていまして、開発の終盤になってから、ちゃぶ台をひっくり返すように仕様の変更を要求することがあります。ただこれは、スケジュールはどうでもいいというわけではなくて、一番大事なのは任天堂の商品を買って遊んでいただいたら「確かに面白かった」と感じていただける方が多数派にならないと、当社のブランドなど一瞬で瓦解してしまいますので、それを維持するために必要でやっていることなんですけれども、そういうことがある関係で、常に切れ目なくヒット商品が出続けるということはなくて、波が出てしまいますので、その波と今回の3DSの発売がうまくかみ合わなかったということは、私どもの反省点ですし、Wii Uではそういうことがないように、最初に何をそろえるのかということについて、以前にも増して具体的に取り組んでいます。

Q 4-2  体感ゲーム全盛だが、コアゲーマーというのは保守的で、なかなかそういうところについてきてくれないのではないか。HD(高解像度)のハードは初で、今までノウハウがない分野になるが、どのようにソフトを安定して提供していくのか。
A 4-2

岩田:

 ゲームを熱心に遊ばれる方が、保守的だと言い切れるかどうかは別としまして、今までのコントローラの、たくさんのボタンやスティックがある操作に慣れておられるわけですから、「リモコンを振る」とか、「コントローラそのものを動かす」ということに対しては、いわば自分が得意だったことを使わずに勝負することになるので、どうしてもその点において心理的な抵抗があったのかもしれません。Wiiを受け入れていただいたお客様と、Wiiを最終的にはあまり深く受け入れていただけなかったお客様の間にあった差というものの中に、そういう要因があるのではないかということを、私たちも分析いたしました。

 Wiiに関して、(最終的にはあまり深く受け入れていただけなかったお客様に)ご満足いただけなかったポイントというのは、大きく分けると二つございまして、一つは画質です。2006年に新しくゲーム機を出した時点で、世の中にまだHD、高解像度のテレビというものの普及率はそれほど高くない状況でしたし、HDの水準のグラフィック、より解像度の高いきれいなグラフィックスを表現するために必要なコストと、それによって得られるメリットのバランスが良くないという判断で、Wiiは従来のテレビの基準の解像度で作られていましたので、他社さんのゲーム機と比べると、絵のきれいさとか解像度という点で劣っていたと思います。その代わり、任天堂は予算を別のところに割り当てて、ユーザーインターフェイスを刷新した、Wiiリモコンであったり、Wiiのバランスボードであったり、そういう娯楽を提案することで、(これまでゲームをされておられなかった)新しいお客様に大量にゲーム機のプレーヤーになっていただけたわけです。これが間違っていたというのではなくて、そういう選択をしたということなんですが、その一つのポイント、すなわち画質の問題があって、もう一つが、この新しい操作法というのは、今までの得意な操作法をお持ちの方にとっては、あまり歓迎されなかったというポイントがございました。Wii Uのコンセプトに「Deeper and Wider」、すなわち「より深く、より広く」というものがあり、「より深く」の部分は、例えば、ゲームをもっと深く遊びたいので、「絵はきれいな方がいい」、あるいは、「自分の慣れた操作体系で遊びたい」、すなわち「ボタンがたくさんあってスティックがたくさんあって、という操作体系の方が良いんだ」という方には、その方のリクエストに応えられるようにしようといたしました。ですから、先ほどから何度かお見せしたWii Uのコントローラに、スティックやボタンがいっぱいついているのは、そういう方たちの操作体系の経験をそのまま活かしていただけるようにしようということです。一方で、実際このコントローラを持っていただくと、第一印象で感じるほど、大きくて邪魔で重いものではないんですけれども、心理的な抵抗をお持ちの方はやはりいらっしゃるかもしれないので、そういう方にはどういう提案を用意するかということも、われわれ自身は併せて考えなければいけないということも議論しています。

 それから、任天堂はこれまでHDのゲームを作ってこなかったので、ノウハウがないのではないかというご指摘ですが、先ほどWii Uのビデオの後半に『ゼルダ』のシーンがありましたが、この『ゼルダ』のシーンは、お付き合いしている開発会社さんと一緒に、E3前の比較的短い時間で作ったデモソフトなんですけれども、実際に会場でご覧になった日本の他のソフトメーカーの方が、「この絵は他社さんのゲーム機ではなかなか出せないですよね」ということを言っていただけましたし、品質的には「一定以上認めていただけるものができた」と思っているんですが、これが比較的短い時間でできたということで、われわれが極端に後れをとっていて、どうしようもない状態であるということではないということは、ご安心いただいても良いのではないかと思います。

 ただし、任天堂のソフトだけでWii Uが世界中で受け入れられるとは思いません。特に、いま西洋においては、日本ではあまり好まれない、戦争系の銃を撃つゲームが非常に人気でして、そういうものが年間1,000万本売れるというような市場があることも事実で、それもまたビデオゲームなのです。私は、ビデオゲームがそれだけになってしまうのは寂しいですけれど、一方で、それはゲームからなくなるべきだとも思いません。両方ビデオゲームで、いろんな方が自分の責任の下で、自分の楽しみたい娯楽を幅広く楽しんでいただけるのがWii Uの目指すところです。ですから、最終的に、そういう商品を得意とされる海外の大手ソフトメーカーさんと、Wii Uについていろいろお話をさせてもらっているんですが、(Wii Uでの開発に)大変前向きなご意見をいただいていますし、そういうソフトメーカーさんにも積極的にソフトを作っていただけると思いますので、先ほどお話いただいたようなご懸念については、発売までに払しょくできるのではないかと考えています。

Q 4-3  現在のゲームの主流は、CEROのレーティングでいえばDやZに該当するものが多い。こういったゲームを国外では既に発売されているそうだが、国内のハードでも投入してしまうと任天堂のイメージにかなり影響があるのではないか。
A 4-3

岩田:

 CEROというのはコンピュータエンターテインメントレーティング機構という日本の団体ですが、ソフトの内容によって、例えば「暴力的な要素がないか」とか、「血が出てどうだ」とか、場合によっては「性的な表現がないか」、これは映画などで、何歳以下の人は見ないようにとか、両親同伴で見なさいとか、これは成人向けですよとかというレーティングがあるように、ゲームにもそういうレーティングがございます。具体的には、全年齢対象の「A」、12歳以上の「B」、15歳以上の「C」、17歳以上の「D」、そして18歳以上のみ対象の「Z」というのがございまして、この「Z」に関しては、さらに法的な規制、あるいは条例等で規制をされる場合があって、販売店での販売ができないケースも存在します。アメリカでは、同じような機構でESRBという業界団体が決めているレーティングがございまして、そこに「M」とか、これはMatureの「M」なんですが、あと「AO」のAdults Onlyとかいう、やはりこれも、表現がより極端になってきますと、これは子供向けではないということで、そういう規制がされております。

 ご質問の趣旨は、任天堂はこれから「C」以上のものとどう付き合っていくのかということかと思います。当然、任天堂が「A」や「B」、すなわち、世の中の多くの方にお楽しみいただける商品、例えば『スーパーマリオ』や『ポケモン』が代表だと思いますが、そういう商品を軸に展開していくことは当然で、そういう商品がなくなってしまうと、これは任天堂は任天堂でなくなってしまうと思います。ただ、そういう商品しかない任天堂のプラットフォームは、「子供っぽい」とか、「自分たちが楽しめない」と、大人の方に思われるということもあるわけです。そこで、私どもは、「C」以上のレーティングの商品については、店頭ではっきりと区分けがわかるようにしています。もともと、CEROのマークというのがついて「A」とか「B」とか「C」というのはパッケージの表に表示されているのですが、やはり、全体のパッケージの面積の中でごく一部ですので、私たちが今Wiiなどで取り組んでいるやり方では、「C」以上の商品については、パッケージを白基調ではなくて黒基調にすることによって、「これははっきり違いますよ」と、そして「売り場もはっきりと分けてください」とお願いをすることによって、そういう商品が任天堂のプラットフォームで出せないという状況ではないようにしていきたいと考えています。

Q 5-1  私は株は持っているけれども任天堂の商品は持っていない。基本的に、「ゲームは時間の無駄づかい」と思っているので、私にも結局買わせるような付加価値のある商品を作ってもらうことを最も望んでいる。3DSについて、自分の子供にあげる時には、マイナス要因というのは基本的にあってもらっては困る。そのマイナス要因を払しょくするには、付加要因を足すしかない。このゲーム機だったらほかのゲーム機や携帯電話の画面よりも目に優しいから子供にとって害が少ないとか、携帯電話の機能を付けるなりして、結局3DS 1台持っていればゲームもできるし携帯の役目もするから、親としては子供に連絡もとれる、という何かしらの付加価値がないと買わないのではないか。
A 5-1

岩田:

 まず、「ゲームは時間の無駄」ということに関しては、どう思われるかは個々の方の自由でございますが、世の中にはそう思っていらっしゃらない方もたくさんいるので、任天堂がこのように存続させていただいていると思っています。また、確かに、「ゲーム=部屋にこもって一人遊び」という部分が世の中ですごくネガティブに取り上げられがちで、今でも、私は一時よりずいぶん改善されたと思うんですが、例えば何か青少年の犯罪が起こると、「容疑者はゲームをしていました」みたいな話が公然と報道されたりする状況を、私は何とか変えたいと思ってきました。これは、今日も冒頭でちょっと申しましたが、「ゲームの社会受容性」と呼んでいるんですが、ビデオゲームという娯楽は、まだ映画とかテレビとかに比べると、「これは自分は認めます、自分はそれを楽しんでいます」という人の割合が小さいんですね。この間の取り組みで、ずいぶん高まったと思いますが、でも、まだまだです。ですから、株主様がおっしゃっていた「私はゲームは時間の無駄だと思う」、「私みたいな大人でもぜひ遊んでみたいと思うものを作ってほしい」ということそのものが、私自身が目指している「ゲーム人口の拡大」であり、ゲームの社会受容性を高めていくことそのものであるので、ぜひそれに向けて努力をしたいと思います。

 それから、3DSに限らず、いろいろな付加要因があってはどうかというのは議論があります。例えば、先ほどWii Uのビデオの中でお見せしたシーンの一つなんですが、離れた場所の人たちと特別なことがなくてもビデオ電話ができる、あるいはホームページを閲覧したり、あるいは手元のコントローラで何かホームページで面白いものを見つけたら、それを大画面に飛ばしてみんなに見せたりというような、リビングルームでのテレビの見方が変えられるようなお役に立つ要素も併せて提案することで、「自分はゲームには興味がない」とおっしゃる家族の方がいらしても、その方にとってもWii Uのコントローラは全く無関係ではないという未来を志向しています。

 また、先ほどの携帯電話と携帯ゲーム機の融合の話は当然、そういうことについて一度も考えたことがなかったら逆にわれわれは怠慢だと思うんですが、一方で携帯電話というのはどうしても、月額の費用がかかりますので、そのこととゲーム機ということの相性をどうとるのか。どういうバランスでやっていったらいいのか。また、携帯電話会社さんというのは、基本的には国ごとに分断していますので、世界中でビジネスを展開する時に、どういう条件なら世界中のそういう携帯電話会社さんと組めるのか、いうことも併せて考えねばなりませんので、本件についてはまだ研究途上であるとお考えください。

Q 5-2  去年3DSが6月に発表された時に「お、これはすごいものが出るな」と思ったが、結局は今年の2月に発売された。開発が遅過ぎるというか、発表したらなるべく3カ月か半年ぐらいで出さないと熱が冷めてしまうので、発売するまでの期間をもっと短くできないか。
A 5-2

岩田:

 「発表されてすごいと思っても、半年や9カ月も経ったら熱が冷めてしまう」ということは、同じことがWii Uについても感じられるのかもしれません。任天堂が、任天堂だけで誰の力も借りずに一つのプラットフォームを維持できる、あるいは、過去のソフト資産が全くそのまますべて新しい機械で活かすことができる、例えば過去のDSソフトを3DSでプレイしたら素晴らしい立体に見えて絵がきれいになるのであれば、われわれは黙ってプラットフォームの準備をして、発表して、「明日から発売です、どうぞ買ってください」ということができます。ですが、残念ながら、ニンテンドー3DSで立体を活かしたソフト、あるいはきれいなグラフィックや新しい通信機能を活かしたソフトは、新規に作っていただかないといけません。それは、社内だけではなくて、社外の方にも言えるんですね。

 かつて、任天堂が今ほどご注目をいただけていない時は、皆さんがあまり興味をお持ちでなく、任天堂の機密情報は世の中に価値がありませんでしたから、機密保持の点で、そんなに広まる心配をしなくてもよかったんですが、DSやWiiによって大きな社会現象が起こりましたので、「次の任天堂の一手は」というのが異常な注目を浴びて、異常なニュースバリューを持ってしまうわけです。すなわち、情報を機密保持契約の下に受け取った方が、やっぱり言いたくて仕方がない、どこかで漏らしてしまう、ということが、われわれはそういうことがないようにいろんな努力をするんですが、起きてしまいます。Wii Uに関しても、インターネットでお読みになった方がいらっしゃると思うんですが、デマと真実が入り混じった形で情報がインターネット上に発表前に出てしまっていました。ですから、このような状況になりますと、われわれが完全に「発表して明日発売」ということをいくらやりたいと思っても、実は新ハードに関してはなかなかそれができません。

 逆に、ソフトウェアにおいては、発表してから発売までの期間がすごく短いケースがよくあるんですが、「期間が短すぎて買うのが検討できないじゃないか」とお客様からお叱りをいただくケースさえもございます。このように、ハードのように周りのたくさんの人を巻き込まないとできない種類のことと、(自社ソフトのように)任天堂の自社だけでできることとで、発表してから発売までのタイムスパンが大きく変わることは、ぜひご理解いただければと思います。

Q 5-3  これからはヨーロッパやアメリカだけでなく、アジアの中国やインド等に攻めていかなければいけないと思う。そうした地域はコピー天国と言われ、似たような製品を作られたりすることも考えられるが、作られてもいいやという姿勢で出しに行くのか、それとも、作られないようにセキュリティーをすごく厳しいものにするのか、どのように考えているか。
A 5-3

岩田:

 世界の人口という観点で見ますと、日本の人口の伸び率はマイナスですし、アメリカやヨーロッパは増えてはいますが、やはりアジアほどではありません。そして、経済成長率もアジアの方が高いわけで、いわゆる中流階級以上といわれる、衣食が足りて、次は娯楽であり、生活をより豊かにすることを求めるお客様の数が猛烈にこれから増えていくということを考えますと、アジアでビジネスを拡大するということは必ず必要になると思います。一方で、アジアでビジネスをする時に、日本やアメリカやヨーロッパでやっていた方式をただそのまま持って行けば通用するのか、ご指摘があったようにコピー天国と言われる状況の中でどう取り入れていただけるのかということについては、いろいろな議論があると思います。ですから、なおのこと、現地の言語にしっかりローカライズし、現地の文化を理解し、現地の人たちにどういうものになら価値を認めていただいて対価を払っていただけるのかということを、われわれ自身がしっかり認識することが必要です。われわれが生活必需品を売っているのであれば、「より安くより良いものを作って出そう」でいいんですが、たぶん娯楽はそれだけではダメだと思いますので、現地の方に特に楽しんでいただける娯楽を研究し、その上で結果を出していきたいと思います。こうしたことがこれから数年のサイクルにおいては最も重要なことの一つだと思っていまして、これからアジアに展開するためのさまざまな投資であるとか、チームの編成であるとか、商品の計画であるとかを進めておりますので、より具体的になった時点で事業報告等でご説明できるようになると思います。

Q 6

 私はE3ショウに行っており、先ほど「Wii U」に関して大変評判が高かったという説明が岩田社長からあったが、全くその通りで、日本に帰って、日本とアメリカの温度差に驚いたことを、まず報告したい。世の中では、具体的な企業名を挙げるとディー・エヌ・エーやグリーが展開しているソーシャルゲームと呼ばれているものがはやっており、それに対して、「家庭用ゲーム機を作っている任天堂というのは、もしかしたら時代遅れになるのではないだろうか」という懸念が広まっている。「われわれはソーシャルゲームを作るのだ」と発表している大手のソフトメーカーの経営者もいる。ソーシャルゲームにはよい部分と悪い部分が両方あり、よい部分としては、初期の段階から安くゲームを始めることができ、ユーザーが納得した状態でものを買っていくというところがあり、悪い部分は、これが行き過ぎて激しいアイテム課金がなされる面だと思う。任天堂の全体のネットワーク戦略について、また、ソーシャルゲームに対する考え方について聞きたい。

A 6

岩田:

 まず、E3の反響につきまして、現地におられた、発表した当事者ではない方からの分析というのは、株主の皆様にWii Uの価値を認めていただけるご発言として、本当にありがとうございました。

現状の任天堂に対する市場の懸念

 現状の任天堂に対する市場の懸念というのはおそらくいくつか存在して、今日既にお話をしました「ニンテンドー3DSがもう一つ勢いがない」ということと「Wii Uは本当に革新的な製品なのか」ということのほかに、私はあと2つあると思っています。1つが為替の問題で、「この間、急激に円高が進んだために、外貨で売上の多い任天堂の業績が悪化するのではないか」ということです。そして、ご質問いただいている「高性能の携帯電話、スマートフォンがどんどん普及して、別にゲーム機を買わなくてもゲームは遊べるようになってきたので、(将来)任天堂のゲーム機をあえて買う人はいるんだろうか」という話です。そして、今おっしゃった、日本ではディー・エヌ・エーさんとかグリーさんがモバゲーとかグリーというブランドで展開されている「無料で遊べます」というゲームの影響です。無料で遊び始めることができて、遊ぶためにはお金を払うともっと便利になったり、もっと先に進めたり、というような仕組みになっているようですが、「そういう無料で始められるソーシャルゲーム等の影響を受けて、任天堂のソフトがこれまでのように売れなくなるのではないか」、そして、「任天堂のビジネスモデルは時代遅れになるのではないか」というご懸念が市場に存在するのではないかと思います。

 現実に、任天堂の業績が一旦ピークを打って、このところ少し下り坂であることと、ソーシャルゲームが世の中に認知されてユーザー数が増えていった時期が重なっているものですから、世の中には、この両者には因果関係があるのだというふうに説明される方が非常に多く、いま任天堂のことを書かれている経済記事の8割ぐらいには「ソーシャルゲームの影響で任天堂は業績が低迷した」というような書き方がされていたりします。ですが、物事には、「同時にたまたま起こったこと」と「因果があって起こること」があって、このどちらかを見極めることが私は非常に大事だと思っています。もし因果があるなら、例えばDSのお客さんの中で、ソーシャルゲームを遊ぶ人はよりソフトを買わなくなったり、DSを遊ぶ頻度が減ったりすることになります。お客さんの可処分の時間や使えるお金がそっちへ取られていくということになりますから、ソーシャルゲームで遊ぶかどうか、スマートフォンで遊ぶかどうかで、DSの稼働率に有意な違いが出るはずです。

日本 DS稼働状況

 私どもは、年に2回、日本でもアメリカでも大規模なお客様の調査をしていまして、これは任天堂が「ゲーム人口の拡大」を標ぼうする以上、「そもそも今ゲーム人口は何人おられるのか?」、「DSやWiiのお客様は何人おられて、他社さんのプラットフォームはどれぐらい使われているのか?」ということを知らないままでは、私どもの判断が的確にできませんので、そういう調査をしています。その中で、ここしばらくは、「ソーシャルゲームにはお客様がどれぐらいおられて、そのお客様の中で、ソーシャルゲームを使うか使わないかでDSの稼働状況は変わるのかどうか?」ということも調べました。これがそのグラフです。一番上はDSのお客様です。DSも発売されて(国内で)3,000万台以上が世の中に売れて、そして最近もうしばらくほとんど遊んでないな、とおっしゃるお客様もいらっしゃるわけで、ここで見ていただくと、大体4分の3の方は今も遊んでおられますが、4分の1の方は今はあまり遊んでおられないという結果が出ています。その一つ下ですが、これは、DSのお客様で、かつモバゲーさんまたはグリーさんで遊んでいるという方で、ご覧になっていただくとお分かりのとおり、モバゲーさんやグリーさんを遊んでおられるお客様に絞った方が、実はDSの稼働率は高いです。これは、多くの記者の方やアナリストの方が書かれている文脈とは全く逆の現象です。ニンテンドーDSに関して、一時ほど任天堂からお客様に魅力を感じていただけるソフトが出せていないことについては、私は事実だと思っていまして、その結果全体的に稼働が下がり、世の中でのDSのプレゼンス(存在感)が下がったということと、モバゲーさんやグリーさんが出てきて、世の中でお客様を増やされたということとが、タイミングが重なったのだと思います。さらに、モバゲーさんやグリーさんの中には、その中で全体として割合は高くないですが、有料で遊ばれる方がおられます。すなわち、無料ですよといって始めた後、お金を払ってアイテムを買ったり、ゲームを進めやすくなるようなさまざまな追加のお金を払って遊ばれている方が一部おられるんですが、その方だけに絞ると、上から3つ目のグラフですが、実はDSの稼働率はさらに高まります。これも通常のイメージと逆だと思いますが、結局、これを説明しようとすると、「(これらの方々は)ゲームがお好きな方であるから」としか説明できません。モバゲーさんやグリーさんとDSとの両方により時間を費やされているわけです。それから、無料ゲームだけ遊ばれている方というのも取り出してみましたが、DSのお客様全体とほとんど変わりがありません。これも私も調べてみて意外だったのですが、モバゲーさんやグリーさんで遊んでおられないお客様の方が、むしろDSの稼働率が若干低いのです。ですから、何か社会的な大きな変化が起こっていて、お客様がDSからモバゲーさんやグリーさんへと地殻変動のように動いているということではないのではないかと思っています。また、有料のソーシャルゲームを遊んでおられる方は、DSソフトの年間購入本数も通常の平均より高くなるんですね。DSのお客様全体だと年間1人当たり1.2本ですが、有料ゲームを遊んでおられる方は1.5本買っておられます。これが日本の状況です。

米国 DS稼働状況

 ではアメリカはどうなのかということですが、アメリカではモバゲーさんやグリーさんというのはまだ大きな存在ではなくて、facebookという世界一大きなソーシャルネットワークサービスの中でゲームを遊ばれる方がいま非常に増えていると言われています。アナリストの方の中にも、「ひと昔前『Wii Fit』で遊んでいた人は今facebookのソーシャルゲームで遊ばれており、任天堂は時代遅れになっている」ということを主張されている方がいらっしゃいますが、「実はそうではないですよ」というデータを今日はお見せしたいと思います。ソーシャルネットワークサービスは、基本的には大人のためのサービスですので、19歳以上に絞って全体を見ました。DSの稼働率の高いお子様を除いていますからDSの稼働率は先ほどの日本より若干低くなり、70%弱ぐらいです。facebookを使いDSを遊んでいる方だと、ほとんど変わりません。facebookのゲームを遊んでいる方は、むしろDSの稼働率は高いです。次の列がiPhoneで、iPhoneという端末は大変たくさん普及しており、日本以上にアメリカではたくさんの方が持っておられますから、iPhoneを持っているかどうか、あるいはiPhoneでゲームを遊ぶかどうかでDSの稼働率に変化があるかということですが、これも有意な差とは言えない、ほとんど変わらない数字です。一番下にはスマートフォンと書いていますが、これはiPhone以外の高機能の携帯電話という意味なので、Android携帯やWindows MobileやBlackBerryのようなものがこれに入りますが、これらを使っている人を見てもほとんど変わりません。すなわち、今のところ、お客様はこういうサービスを使うかどうか、ソーシャルゲームを遊ぶかどうかによってDSを遊ばなくなる、任天堂のゲームから離れるということではないということをまずご理解ください。

 一方で、私は、未来永劫大丈夫ということを申し上げたいのではありません。ゲームというのは、基本的に始めるのはタダ、という状況がどんどん生まれています。始めるのはタダというのは、たくさんのお客さんを呼び込むということにおいては非常に強力な手段ですが、一方で劇薬でもあります。先ほど株主様が「行き過ぎる(Q6)」というお話をされておられましたが、同時に起こり得るのがゲームという娯楽の価値の破壊です。すなわち、今まで「スーパーマリオ」を楽しむためにはこれだけのコストを払う、それで自分の得ている価値と自分が支払っているお金が釣り合っているとお客様が考えてくださっていて、そういう形でゲーム業界というのは進歩し、非常にリッチな体験ができる凝りに凝ったソフトを作ってもそういう対価を払っていただけるお客様が世界レベルで見ると数千万人、数億人の単位でいらっしゃるからビジネスが成立してきたのですが、「ゲームというのはタダだよ」ということになってしまいますと、これは非常に大きな問題です。私は、3月にGDC(ゲーム・ディベロッパーズ・カンファレンス)というゲームの開発者の会議がアメリカのサンフランシスコでございまして、ここで光栄にもお誘いを受けて基調講演をさせていただいたのですが、その中で、「ソフト開発者というのはこれからますます自分たちの作るものの価値を高く維持することをちゃんと意識していないと、簡単に低いものに引きずり降ろされていくのではないか、そこに注意すべきだ」というお話をしました。これがなぜか「任天堂はソーシャルゲームはけしからんと言った」とか、「無料ゲームを批判した」とか、そのような文脈で残念ながら報道されてしまって、実際に何としゃべったかはホームページに来ていただければ一字一句書いてあるんですが、残念ながら、歪めて報道する人たちに対してまだ勝てないでいる面もあります。いずれにしても、そういうことを申し上げまして、そういう環境の中で、われわれはビジネスモデルの変革をどう考えるのか、また、もう一つは、今後も価値を認めていいただけるソフトをどう作るのかということがポイントになります。当然、例えば「ポケモン」、「スーパーマリオ」、あるいは「ゼルダの伝説」の新作のような、看板になるようなプレミアム価値のある商品は、その価値をお客様に認めていただけるような努力を続けるべきだと思っています。私や宮本が中心になって、それを全身全霊かけて実現していくというのが、任天堂がこれから目指さなければならない一つのポイントだと思います。しかし一方で、娯楽の中には、あらゆるものが今までのパッケージ型の売り方で向いているのだろうかということも思うわけです。ですから、任天堂も例えばニンテンドー3DSでは「ニンテンドーeショップ」という仕組みを作りまして、これはかつての総会で、「任天堂はデジタル販売のショップの作り方をもっと改善しなさい」というご意見をいただいたことがあり、「ニンテンドーeショップ」ではそれに対して一定の前進はできたと思います。また、ニンテンドー3DSやそしてきっとWii Uにもそういう機能が付くと思いますが、任天堂が特に、皆様にお薦めしたい新しいものをちょっとお試しいただきたいという時には、インターネットにつないだゲーム機にお客様の承諾を得た上で任天堂が新しいソフトを送り届けて、「ちょっとこれを試してみてください。試してみて面白かったら、お金を払って、実際に楽しんでいただけませんか」というようなご提案をすることで、いわば未知のものとの出会いを作っていかなければいけないと思っています。既に価値が確立したものであれば、最初から5,000円単位のお金を払っていただくことにまだ納得がいただきやすいと思いますが、名前も聞いたことがない任天堂の新しいチャレンジというソフトに、世の中の方全員が最初からまとまったお金を払っていただけるとは限らなくなっていくでしょうから、そのことに私たちが対応できる準備を今しなければいけないと思っています。そういう形で、先ほどの任天堂に対する懸念には応えていきたいと思います。


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