汗を「書く」汗を「書く」

プレイヤーの立場になって遊ぶ

知的財産部の業務は多岐にわたり、特許権や意匠権、商標権、著作権などを、いくつかのグループに分かれて担当しています。そのなかで私は、特許権に関わるグループで、社内で生み出された発明の発掘、先行技術調査、出願、出願後の特許庁審査対応といった発明の権利化に関わる一連の業務や、他社が保有する特許を侵害していないかについて調査をする業務などを行っています。

発明の権利化にあたっては、開発者から、特許になりそうなアイデアを事前に提案してもらうことがあります。基本的には、開発者が意識的にこだわった特徴がゲームの良さに直結するものであることが多いため、そのような特徴に関して特許を取得していくことが重要と言えます。いうなれば、開発者の汗を文章にして特許にすることが、我々の業務です。一方で、それ以外にも、開発者が気づかないような発明が、埋もれているケースもありますので、私たちが実際に開発中のゲームをプレイして、見落とされた発明がないかをチェックすることも大切な業務だと考えています。

Nintendo Switch用のソフト『リングフィット アドベンチャー』は、RPGとフィットネスが融合した、新機軸のゲームです。だからこそ、これまでにない斬新なアイデアが詰め込まれており、事前に開発者から、多くのアイデアについて特許出願の提案を受けていました。私は、開発者から提案を受けたアイデアについて検討を行いつつ、トレーニングウェアを会社に持ってきて、先輩と一緒に開発中のソフトをプレイし、提案されたアイデア以外にも、特許になりそうな発明がないかを検討しました。このゲームの良さを理解するためには、自分自身でしっかりと運動を行う必要があるので、検討をするなかで体力を使い果たしてしまうこともありましたが、自分自身で汗を流して、このゲームの良さを実感することで、良い発明を発掘することができました。

意外なものが特許に

そのように汗を流して発掘できた発明はいろいろあるのですが、たとえば、『リングフィット アドベンチャー』の基本となる戦闘システム(敵のHPがなくなるまで、運動の選択と実行を繰り返す)に、「ゲームを進めるなかで経験値を得て、自分の分身である主人公がレベルアップし、攻撃力などのステータスが上がる」という仕組みを組み合わせたアイデアはその1つです。もちろん、この仕組み自体は、従来のRPGで一般的に用いられています。しかし、この仕組みと、運動の選択と実行を繰り返して敵を倒す、という『リングフィット アドベンチャー』ならではの戦闘システムの組み合わせは特許になり得るのではないかと、実際にこのゲームをプレイする中で考えました。なぜなら、このゲームにおいて運動を行った結果、プレイヤー自身の身体とプレイヤーの分身である主人公のうち、少なくともどちらか一方は成長し、これらの掛け算によって強い敵キャラクターを倒せるようになるため、運動へのモチベーションを維持・向上しやすいという、従来のRPGとは異なる特徴があると考えたからです。プレイヤーに運動を継続してもらうことは重要な課題ですが、実際のプレイヤー自身の身体の成長はすぐに実感できるものではなく、モチベーションを失いがちです。『リングフィット アドベンチャー』はそのような課題を独自の仕組みで解決していると考えました。このような観点から出願を行った結果、このアイデアに関して、特許を取得することができました。

また、従来のRPGでは、強力なワザを連続して使えないようにするための待機ターンというシステムが導入されているケースもあります。『リングフィット アドベンチャー』では、同じ運動を連続して選択できないようになっているのですが、このゲームの基本的な戦闘システムと、待機ターンの組み合わせは特許になり得るのではないかと考えました。なぜなら、このゲームにおける待機ターンには、まんべんなく身体の部位を鍛えることができるという、従来のRPGにおける待機ターンとはまったく異なる特徴があると考えたからです。このような観点から出願を行った結果、このアイデアに関しても、特許を取得することができました。

このように、『リングフィット アドベンチャー』に隠れていた発明を権利化できた事例があることを記事にまとめ、社内で共有しました。それを読んだ開発者から「思いもよらないものが特許になるのですね。勉強になりました。」といった感想をいただいたときは、流した汗は無駄ではなかったと実感できました。このように、特許と関係がなさそうと思われるようなアイデアについても見逃さずに権利化することは、私たちにとって重要であるとともに、やりがいのある業務の1つです。

社員略歴

知的財産部/2017年入社
2017年「事務系」入社。
社内で生まれた「発明」を各国で特許化する業務や、開発部門から相談を受けてクリアランスを行う等、特許に関する幅広い業務を行っている。Nintendo Switch『リングフィット アドベンチャー』(2019年)の特許出願などを担当。
職種
  • 事務系
  • 理工系(ソフト/ハード)
  • 知的財産

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