「それ、できますよ」と言うために「それ、できますよ」と言うために

相談から始まる開発

ゲーム制作現場では、「こういうこと、できないかな?」という声が日々飛び交っており、デザイナーやプランナーなどのゲーム開発者が思いついたアイデアを実際の制作に落とし込むには、開発ツールや仕組みでのサポートが欠かせません。私たちは、任天堂のプラットフォーム向けに社内外で広く利用される汎用的な開発ツールだけでなく、任天堂社内のゲームプロジェクトに特化した専用ツールも開発しています。
社内のゲーム開発チームとは同じフロアで仕事をすることも多いのですが、開発チームのメンバーから相談があったときに「それ、できますよ」と言えるように心がけています。

ある日、ゲーム開発チームのテクニカルアーティストから「Maya(※1)で編集中のアニメーションを開発機で同期再生するシステムを実現できないか?」と相談されたことがあります。
そのときすでに、私たちが開発しているミドルウェアには、開発機と通信してリアルタイムで編集結果を確認するアセット編集ツールがありました。そこで、その通信部分を切り出してMayaに組み込めば、既存の仕組みを活かしながら、低コストですばやく通信機能を実現することができると考え、私は自信をもって「それ、できますよ」と回答し、開発にとりかかりました。
もちろん、このような対応をするには、DCCツール(※2)の構造や動作を理解していることが必要不可欠です。先ほどの例ではMayaを中心に対応しましたが、Houdini(※3)やPhotoshop(※4)など、ほかのツールでも同様の知識が活かされる場面は多くあります。
私はMayaの内部仕様を把握しながら、C++やC#、Pythonといった言語を使って、既存のツールと連携させるための実装を進めました。また、ゲーム開発チームとのやり取りを通じて、どのような操作がデザイナーにとって自然か、どんなUIが求められているかを細かく確認しながら、仕様の調整やGUIの作成、パフォーマンス改善を行いました。

作成したMayaツールのGUI
Mayaの編集画面と開発機の動作画面を同期

試作から数日後には、Mayaで編集中の3Dモデルを開発機の画面に同期して表示することができ、短期間でゲーム開発で実用可能な状態に仕上げることができました。その後さらに機能追加を行っており、今ではアニメーションだけでなく、頂点やマテリアルの編集にも応用できるようになっています。
スピード感のある対応が可能だったのは、ゲーム開発チームと同じ部屋で仕事をしていることで、例えばデザイナーから開発ツールでのちょっとした困りごとや新機能の要望を聞いたり、ワークフローの相談を受けたりするなど、いつでも会話できることが背景にあります。物理的にも心理的にも距離感が近いため、ツールの開発と改善のサイクルを最大限に加速させることができていると実感しています。

  • ※1 Maya・・・Autodesk社のCG制作ツール
  • ※2 DCCツール・・・ゲームやCG業界で使用される3DCGモデルやアニメーション、エフェクトなどを制作するためのソフトウェア
  • ※3 Houdini・・・SideFX社のCG制作ツール
  • ※4 Photoshop・・・Adobe社の画像編集ツール

技術をつなぎ、社内外の開発現場を支える

ミドルウェアのツール開発では、実装のしやすさやメンテナンス性も重要ですが、それ以上に私たちが最も重視しているのは、使う人の視点です。ここでいう「ミドルウェア」とは、ゲーム機の基本機能とゲームソフトの間をつなぐ中間的なソフトウェアのことです。たとえば、グラフィックスの描画やサウンド、ネットワーク通信など、ゲーム開発に欠かせない機能を提供し、開発者が一から仕組みを作らなくても効率的にゲームを制作できるようにします。ツールを使うデザイナーやプランナー、プログラマーなどのゲーム開発者が、迷わず、ストレスなく目的を達成できるようにすることが、最終的にゲームの完成度を高めます。
「どうなっていたら便利か」「どんな形なら自然に使えるか」といった視点を持つことで、現場が本当に必要としている機能が見えてきます。実装の難しさや保守性は後から工夫できることも多いため、まずは開発者の理想に寄り添うことを最優先にしています。
先ほどは社内向けツールの事例を挙げましたが、私たちはソフトメーカーさんや個人開発者の方が使われるゲーム開発ツールも開発しています。そのためこの仕事では、社内で培われた技術やノウハウを社外の開発者の方々にも提供したり、逆に世界の最新技術を取り込んだりといった、技術の橋渡しも重要な役割となります。ミドルウェアを通じて任天堂プラットフォーム全体に技術を共有できることは、この仕事の魅力の一つだと思います。社外の開発者の方とお話をすることもよくありますが、「ゲーム開発がしやすくなって面白いものが作れた」と直接言っていただけたときは、まさに感無量でした。

「それ、できますよ」という言葉には、技術的な引き出しの多さ、柔軟な発想、そして現場に寄り添う姿勢が込められています。日々多くのリクエストを受ける中で、すべてをゼロから作るだけではなく、既存の機能を組み合わせたり、少しの工夫で実現できる方法も探したりして、現場の課題を技術ですばやく解決していくことにも努めています。
私は、こうした積み重ねが、ゲーム制作の現場を少しずつ楽にし、任天堂のプラットフォームから面白いものが自然と生まれてくる環境づくりにつながると信じています。ミドルウェアのツール開発は、自分たちが直接ゲームを開発するわけではありませんが、その土台を支える役割として、確かな手応えとやりがいを感じられる仕事です。

社員略歴

西方さん技術開発部/2012年入社
2012年「理工系(ソフトウェア)」入社。
入社後はWii UのSDK開発を経験した後、NintendoWare(任天堂プラットフォーム向けのゲーム開発に使われるミドルウェア)のグラフィックスツール開発を担当。
職種データ

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