「これだ!」という音を探し続ける「これだ!」という音を探し続ける

「ゲームがどうなっていたらうれしいか?」

大学生のころからパソコンやシンセサイザーで音楽制作をしていた私は、ゲームを遊ぶ中でインタラクティブなサウンド表現に興味を持ち、任天堂に入社しました。入社後は、主にゲームソフトの効果音を制作してきましたが、特に印象に残っているのが、『スプラトゥーン3』の有料追加コンテンツである『スプラトゥーン3 エキスパンション・パス サイド・オーダー』の効果音づくりです。

効果音は、操作の手ごたえを伝えるだけでなく、敵の接近を知らせたり、インク切れのタイミングを伝えたりと、プレイヤーが次に取るべき行動の指標となる役割も担います。効果音を制作するうえでは、「ゲームがどうなっていたらうれしいか?」を想像しながら、ゲームを遊ぶ人の視点に立って音の表現を考えることを大切にしています。

新しいインクの音をチームでつくる

「サイド・オーダー」は、『スプラトゥーン3』の中の新たな一人用の遊びとして開発されたゲームです。そのコンセプトに基づいてサウンド全体の方針を決めるために、チームで何度も話し合いを重ね、従来の「スプラトゥーン」との「世界の違い」を感じてもらえるような音づくりをめざすことになりました。

私はプレイヤーの動作に関わる音と、敵を倒すために使うブキの音を担当することになったのですが、お客様に「今までと違う世界だ」と感じてもらうためには、「スプラトゥーン」の象徴とも言えるインクの音を、再構築する必要があるのではないかと考えるようになりました。従来の音をそのまま使うと、「世界の違い」を十分に表現できないと感じたからです。シリーズとして受け継がれてきた音を変えることには不安もありましたが、多くの人と意見を交わせる環境があったことで、挑戦する決心がつきました。音づくりは、サウンド担当だけでなく、プランナーやデザイナーなど、さまざまな職種のメンバーと意見を交わしながらブラッシュアップしていくことができます。そうした安心感に支えられながら、「世界の違い」を感じられるインクの音づくりに挑戦することにしました。

単に「世界の違い」を表現するだけではなく、プレイヤーがうれしくなる音を作るにはどうすればよいかを考えるため、試作した音にチームで意見を出し合ったり、インクの見た目を観察したりと、手探りでの試行錯誤を重ねました。その過程で、ある先輩が「粒感」という言葉でインクの印象を表現していたのを聞き、今作の特徴的なラメ感のあるインクの見た目を粒っぽい音で表現するアイデアが生まれました。
そこから「粒っぽさが感じられる」「インクの音だとわかる」「従来のインクの音との違いが伝わる」という3つの軸で音の方針を定めて、実物素材を使った効果音収録に挑戦することになりました。

実験とフィードバックを何度も重ねて

本格的な効果音収録は初めての経験で、何から始めればよいかもわからない状態でした。まずは、従来のインク音がどのようにして制作されたのかを知るため、その収録を担当した社員に話を聞いたところ、水とスライムを使っていたことがわかりました。
それをベースにしつつ、異なる素材を加えてみようと考え、社内だけでなく外出先でも素材を探し回り、普段は手に取らないようなものにも触れながら、「どんな音が鳴るだろう?」と素材と向き合い、音のイメージを膨らませていきました。
そこからは、ひたすら実験の繰り返しです。収録中に直接聞く音と、収録後にスピーカーで聞く音は印象が大きく異なります。そのため、実験をしている間は良い音だと感じても、録音を聞いてがっかりすることも少なくありません。それでも「この素材は違った」という発見につながるので、実験するたびに一歩ずつ前進している感覚がありました。

水とスライムをベースに、発泡ビーズ、ペレット、スパンコール、ガラスビーズなど、さまざまな素材を試す中で、ようやく「これだ!」と思えたのがアイロンビーズです。手の動かし方や使う道具も工夫したことで、イメージしていた音にたどり着くことができました。これまで収録した音を聞いてくれていたメンバーからも「良くなった!」と言われ、試行錯誤した日々を思い出してうれしくなりました。壁にぶつかるたびに周りのメンバーがアドバイスをくれ、実験の様子を見ては「応援してるよ」と声をかけてくれるなど、みんなの支えがなければ決して完成できなかったと思います。

ゲームのサウンド制作は、一人で黙々と実験する時間もあれば、チームで協力して壁を乗り越える場面もあります。音やゲーム体験が良くなったときには、みんなで「良くなった!」と言い合える、そんな達成感や一体感が味わえる環境で音づくりにチャレンジできることが、この仕事の魅力だと感じています。

社員略歴

奥村さん企画制作部/2020年入社
2020年「サウンド系」入社。
サウンドデザイナーとして、『あつまれどうぶつの森』(2020年)、『スプラトゥーン3』(2022年)などの効果音制作に携わる。

↑