財務部の仕事は、会社が保有する現預金を中心とした金融資産の管理や運用です。同じお金を扱う部署として、経理部と混同されやすいのですが、当社の場合、家計に例えると、「家計簿をつける」のは経理、「お財布の管理をする」のは財務、と考えると分かりやすいと思います。
財務部に配属後、まずは送金業務を担当しました。送金業務は、取引先へ正確に資金を支払うための手続きであり、会社の資金がどのように動くのかを理解する財務部の基本となる重要な仕事です。日々の業務を通じて、為替や金融市場の情報に触れることで、金融に対する知識や感度を高めることができます。若手時代のこうした経験が、専門性を磨く第一歩となったと思います。その後、いろいろな業務を経験し、現在は主に資金運用を担当しています。すぐに使う予定のない会社の資金を、国債や金融機関債といった安全性の高い債券で運用し、将来の投資に備えて管理しています。
これまでを振り返り、責任の重さを強く実感したのが、入社3年目(2021年)から担当した「外貨資金繰り」の仕事です。これは、外貨建ての資金の流れを管理し、必要な時期に必要な通貨・金額を準備できるよう調整する業務です。任天堂は無借金経営ですが、だからといって資金繰りが不要というわけではありません。海外売上比率が高いため(下記グラフ参照)、「入金はユーロ、出金はドル」といったように、入ってくるお金と出ていくお金の通貨が異なることは珍しくありません。通貨ごとに必要な資金を計算し、適切に配分する仕事は、グローバルビジネスを円滑に進めるためになくてはならないものです。
特に印象に残っているのは、コロナ禍での経験です。サプライチェーンの混乱により、工場の稼働がストップしたり、船便が止まったりするたびに、予定していた入出金の時期や金額がずれてしまうため、常に資金繰りの見直しが必要でした。また、金融市場の急激な変化にも対応が求められます。海外の金利政策が変更されれば、預金の利息や為替リスクの状況も一変します。そのため、市場環境の変化を敏感に察知し、会社の資産を守るために通貨の保有バランスを調整するなど、常に難しい判断が求められました。ビジネスが続く限り、資金繰りに終わりはありませんが、不確実な状況の中でも必要な資金を確保し、資金不足を起こすことなく乗り越えられたことが、大きな自信につながりました。
任天堂のビジネスは、在庫を積み上げる時期と大きな入金のある時期の波が大きいため、事業部門と連携してビジネスサイクルを細かく把握する必要があります。また、財務部内の情報共有や、世界経済の動向の理解も欠かせません。さらに金融機関等の社外とのコミュニケーションも非常に重要です。これらは単なる連絡業務や調整作業ではなく、多角的な判断に基づく意思決定の連続であり、難しい局面も少なくありません。しかし、こうした日々の積み重ねによって「何事もなくビジネスが進む」状態をつくることこそが財務の成果です。後から振り返って、不確実な状況の中でも最大限合理的な運用ができていたことが数字で確認できたとき、『見えないところでビジネスを支えている』という満足感があります。
また、私がこの仕事に魅力を感じるのは、お金の流れを通じて会社全体の動きをダイナミックに把握できるところです。若手のうちから大きな金額の管理を任され、予測と検証を繰り返しながらお金の流れをコントロールする経験は、洞察力を磨くトレーニングになりました。同時に、日々の仕事では「慎重さ」も大切です。銀行への送金依頼など、締め切りのある業務が多く、ひとつ間違えれば大きな損失につながる可能性もあります。何重にもチェックし、ミスなく処理しなくてはいけません。この「細部と大局」の両面性も、この仕事の面白さです。目立ちにくい仕事ですが、任天堂のグローバルビジネスを支える大きな役割を担っていることを日々実感しています。