私は大学で情報工学を専攻していましたが、昔からゲーム音楽が好きで、任天堂にサウンド系で応募しました。入社以来、いくつかのゲームの作曲・編曲を担当し、Nintendo Switch 2 向けの『マリオカート ワールド』では、コースBGMなどを制作しました。
いくつか担当したコースのなかでも、特に印象に残っているのが「DKうちゅうセンター」です。このコースは、1981年にアーケードゲームとして開発された『ドンキーコング』をモチーフにしており、その要素を活かした工夫が随所に盛り込まれています。
スタートしてしばらく走ると、『ドンキーコング』の鉄骨のステージを模した構造物が目の前に現れ、巨大なロボットのドンキーコングが登っていく様子を目にします。その後つづら折りのコースを走り抜け、ファイナルラップではタルを次々と投げてくるドンキーコングと対峙し、その足もとを走り抜けてゴールするという構成になっています。
こういったコースの構成から、BGMの内容も、『ドンキーコング』のBGMを活かしたものにしたいと思いました。
最初に思いついたのは、ファイナルラップの部分です。ここには『ドンキーコング』でマリオがハンマーを持った際に流れるBGMを使いたいと考えました。
ハンマーのBGMは『ドンキーコング』を印象づける特徴的なメロディで、テンポの良さがドンキーコングに向かって走るシーンにマッチすると感じたためです。この部分の制作はスムーズに進めることができました。
ハンマーのBGM
アーケード版『ドンキーコング』より
レース開始からファイナルラップが始まる手前までの部分のBGMをどうするかについては、試行錯誤がありました。
最初は、ファイナルラップ以外の部分ではずっと同じ曲が流れ続けるような構成を考え、その曲を作ってみました。しかし、実際にこの曲をゲームの中で確認し、それを先輩に見てもらったところ、「もっとできることがあるのではないか」というコメントをもらいました。
このコースは、ずっと同じ場所を周回するのではなく、鉄骨の構造物を登っていくにつれてどんどん場面が変わっていく構成になっています。そのため、BGMもそれにあわせて変化していくほうが、次々と新しい場所に進むお客様の気持ちをより盛り上げることができるのではないか、というわけです。
この意見をもとに、試行錯誤が始まりました。最初に作った曲は、コース全体の雰囲気をイメージして作ったものでした。しかし、コースの場面に応じた展開を作るとなると、コースのその場その場の特徴や感じ方を取り入れた曲にする必要があります。
コースのところどころの特徴を見返し、どういった部分をBGMで表現するのかを検討していきました。
このコースは、構造物に入る前後で大きく二分されます。前半はコース全体を見渡すことができる導入部分と捉え、最初に作ったコース全体の雰囲気をイメージした曲が役割的にも当てはまると判断しました。そして後半、構造物に入ったところからは、「アーケード版『ドンキーコング』のゲームを追体験しているような気分にできないか」と考えました。前半とは明らかに雰囲気が変わったことが伝わりやすくするために、構造物に入ったところからはいったん『ドンキーコング』の印象的なメロディのみが聞こえるようなアレンジにしました。
その後、ファイナルラップに近づくにつれて曲のアレンジも緊張感を増していくものに変化させるようにしました。こうして、場面がどんどん変化するコース内容にふさわしいBGMを作り上げることができました。