6. 『マリオ』の遊び方とつくり方

西村

あと、『マリオ』が変わらないなあと感じるのは、
開発にかかわる、いろんな人たちの考えや発想が
たくさん詰め込まれているところです。
それは、入社したての新人であろうが、
超ベテランの人であろうが、
「こんなのはどうだろう?」とか、
「こんな仕掛けはどうだろうか?」といったアイデアを
みんなで一斉に言い合うことができて、
それぞれの考えをぶつけ合うことで、
新しい遊びが生まれていくように感じています。
しかも、つくっている人みんなが、
すごく『マリオ』のことが大好きで、
その気持ちがシリーズに盛り込まれていると思うんです。

天野

それは僕も同感です。
それと、僕が『マリオ』が変わらないのは、
王道のアクションゲームであり続けている、
ということではないかと思います。ですから
「ほかのゲームに似る、似ない」といったことを気兼ねせずに、
「今度の『マリオ』ではこういうことをやりたい」と、
自分の考えていることを、ストレートに正直に言えるんです。

西村

そうですね。

天野

とくに『NewスーパーマリオWii』をつくったときは、
新人から、超ベテランの宮本さん、手塚さん、中郷(俊彦)さん(※18)までもが
「こうしたい、ああしたい」と、思ってることを
それぞれが本当に好き勝手に言っていたんです。

※18

中郷俊彦さん=株式会社エス.アール.ディー代表取締役社長。『スーパーマリオブラザーズ』制作者のひとり。

岩田

みんな『マリオ』について一家言あるので、
バラバラなことを言うんですね。

天野

そうなんです。もう、みんなが!(笑)
でも、それは、つくり手の全員が
『マリオ』のことを本当に好きだからだと思います。

岩田

ありがとうございました。
さて、みなさんはこれから『マリオ』の伝統を
つくっていくことになると思うのですが、
それぞれの抱負を訊いて終わりにしたいと思います。
藤井さん、先に答えますか?それとも後のほうがいいですか?

藤井

え、選んでもいいんですか?
じゃあ・・・後がいいです(笑)。

天野

そう来ましたか(笑)。
・・・ちょっと時間いただいていいですか?

岩田

はい(笑)。
じゃあ、西村さん、先にいってみますか?

西村

はい。『マリオ』については
いろんな人から話を聞く機会があるんですが、
「『マリオ』はこうだろう」みたいな、
口伝えの伝統がありまして。

岩田

→“マリオらしさ”に対する口伝(くでん)ですね。

西村

そうです。でもそれは文字では記せるものではないので、
そういうものをしっかりと、ひとつずつ自分で吸収して、
ゲームのなかでしっかり表現できるようにしたいと思っています。

岩田

“マリオらしさ”の口伝のなかで、
西村さんが「ああなるほど!」と思ったのはどんなことですか?

西村

たとえばデザインでいうと、
ひと目見ただけで、ダメージを受けて弱るだけなのか、
それとも一発でミスになってしまうのかを
ハッキリ表現することです。

岩田

状況や機能について、見た目でちゃんと
表現できていないといけないんですね。

西村

はい。たとえば『NewスーパーマリオWii』では、
ワールド5に登場する毒沼をつくったのですが、
「これでは、ここに落ちても一発でミスするようには見えないから、
もっと危なそうにして」と言われたことがあったんです。

岩田

そこに落ちたら危険だということが
たぶんわかりにくかったんでしょうね。

西村

そうなんです。
確かに、最初につくった絵は、
毒沼なのにきれいで静かな印象だったんです。
そこで、いかにも危なそうな感じにするために、
目につく紫色に変えて、表面のうねりを強調し、
ふつふつと湧き上がる泡の表現も足して、
ひと目で「危ない」とわかるように修正しました。
そんな風に、誰が見てもそのときの状況が
すぐに理解できるような絵づくりをすることが、
とても大切だと実感しました。

岩田

吉田さんはどうですか?

吉田

プログラマーの立場でいうと、過去作に出てきた敵を
新作で動かすことがあるんですが、
動きがおかしいときに、「ここをこう直して」ではなく、
「なんとなく動きが変」みたいに
ニュアンスで指摘されることが多いんです。

岩田

自分では同じようにつくったつもりでも、
見る人が見ると、違いがわかるんですね。

吉田

そうなんです。
ですから、どう直すかという部分での難しさはあるんですが、
僕としては、過去にいた敵でも、新しい敵でも、
みんなに違和感のないようにつくれるようになりたいと思います。
そのためには、自分が子ども時代に帰って、
子どもの目線で見ても「これなら大丈夫」というものを
しっかりつくれるように頑張りたいと思います。

岩田

それは言いかえると、つくり手の視点ではなく、
遊び手の視点に立ってものづくりをしたいということですね。

吉田

はい。

岩田

松浦さんの抱負は?

松浦

僕が初めて『マリオ3』を遊んだとき、
背景の山や雲に目がついているのに驚いて・・・。

岩田

それは手塚さんの仕業ですね(笑)。

松浦

はい(笑)。あれがあるのとないのとでは
印象がぜんぜん変わったものになると思いますし、
あのような“遊び心”があるからこそ、
誰からも好かれるんだと思うんです。
ですから時代や技術が変わっても、
そのような“遊び心”を忘れずに
新しい『マリオ』をつくれたらいいなと思っています。

藤井

わたしは自分自身が子どもの頃に影響を受けたように、
これから遊んでくださる方々が、ゲームを楽しんだ思い出といっしょに、
心にいつまでも残るような曲をつくっていきたいです。

岩田

自分の持っていないソフトでも、
思わず口ずさんでしまうような曲をつくりたい、ということですね?

藤井

はい。
あとは、プレイヤーの気持ちを自然に盛り上げるような演出を
どんどんつくっていきたいと思います。
そういう演出を近藤さんはずっと考えてこられていて、
たとえば、『スーパーマリオワールド』で
ような・・・。

岩田

そうですね。そういった音の工夫は、これまでも
『マリオ』のいろんなところでしているんですよね。

藤井

はい。ですので、遊ぶのがもっと楽しくなるような音の演出を
自分でいろいろ考えて入れていけるようになりたい、
というのがわたしの抱負です。

岩田

それでは最後に天野さんお願いします。

天野

はい。ものすごくありきたりの言葉になってしまうんですけど、
お客さんの期待を裏切らないものをつくりたいです。
たとえば、ダメージを受ける敵にはトゲがついているとか、
マリオが崖に来たら、その先に足場が見えるとか、
そんな細かい部分のひとつひとつに気を配ることが
結果的に遊んでくださるお客さんの期待を
裏切らないことになると思っています。

岩田

苦労して進んだら、その先に必ず
何かのご褒美があるようなこともそうですよね。

天野

はい。お客さんの期待を裏切らないようにするためには、
やっぱりお客さんが遊ぶ姿を、つくり手が想像しながら
つくらないといけないと思うんです。
その上で、お客さんが何を期待しているのかということを
イメージすることがとても大事なんだと思います。
そのようにして、お客さんの期待を裏切らないよう、
『マリオ』に限らずいろんな商品を
これからもつくり続けていきたいというのが、僕の抱負です。

岩田

ありがとうございました。
世の中には、ひとつの商品が一時的にポンと人気が出て、
ブームになるということはよくあることですが、
『マリオ』のように、25年も人気が保たれて、
しかも、ここ数年の『マリオ』を見ると、
もうひとつの新しいピークを迎えているのではないかと思えるくらい、
たくさんの人たちに遊んでもらえているということは、
ある意味、ちょっとした“奇跡”のような出来事のように感じています。
 
『マリオ』にはこれからも元気でいてほしいですし、
25年後の『スーパーマリオ』50周年のときも、
ここにいるようなみなさんの世代が
マリオの伝統を守っているはずですので、
その意味でも、“1980年代生まれの開発者たち”である
みなさんから話を訊くことができて、とても新鮮でした。
 
友だちといっしょに遊んだ人もいれば、
お兄さんの部屋に忍び込んで弟さんといっしょに遊んだ人、
それに「近所のお兄ちゃん」から
遊び方を教えてもらった人もいましたからね(笑)。
 
『マリオ』の遊び手としてリレーをしてきたみなさんが
いま、つくり手となってリレーをしている、
ということなんでしょう。
 
そのリレーの先頭を走っているのは
宮本さんたちベテランのみなさんです。
 
これまで4回にわたって
社長が訊く「スーパーマリオ25周年」のインタビューをしてきましたが、
次回は宮本さん、手塚さん、中郷さん、そして近藤さんをお迎えして
たっぷりお話を訊きたいと思います。
みなさん、今日はありがとうございました。

一同

ありがとうございました。

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