2. 有名マンガを最初にイメージ

岩田

もし、このゲームのことをまったく知らない人が
いきなり藤岡さんの前に現れて、
「『モンスターハンター』とはどんなゲームですか?」
と聞かれたら、ひとことで何と答えますか?

藤岡

ひとことですか?
何なんでしょうね。難しいですね。
やっぱり、「狩りをするゲーム」・・・、
と言ってもピンと来ない人も多いでしょうね・・・。

岩田

「狩りのゲーム」と言われると
ちょっと殺伐とした印象があったりしますしね。

藤岡

そうなんです。
狩りをするというと
どんどんストイックなイメージになってしまうんです。
僕がこのシリーズをつくりながら
いちばん気にしていることは、
殺伐とさせたくないところなんです。

岩田

ゲームがひたすら殺伐としていたら、
すごくしんどい世界になってしまいますからね。
居心地がいい場所にはなりえませんし。

藤岡

ただ、このゲームのなかでやってる行為自体は
それなりにヘビーなこともあるんです。
そういう世界でありながらも、
自分に楽しみがいろいろと返ってきて、
殺伐としない世界を実現したいなあと思いながら
つくっているんです。

岩田

何をしていてもいいので
殺伐としたものが薄められていくような。

藤岡

そういう感じのイメージです。
もちろん大きなテーマは“狩り”で
それにぶら下がってみんなは動くんですけど、
なんかもうちょっとゆるくて自由というか・・・。

岩田

釣りをしててもいいわけですしね。

藤岡

とくに据置機のシリーズがそうなんですけど
とにかくゆる〜いんです。
そもそも恐竜って、子どもだけでなく
大人さえもワクワクさせられますよね。
それをキッカケにこの世界に入ってきて、
するとそこには、けっこう楽しい世界がある、
そういう感じがいいなと思ってるんです。

岩田

なるほど。

藤岡

別の言い方をしますと、
僕はいつもこのゲームを
テーマパークのようなものだと思っているんです。
そこに入ると楽しい世界があって、
その世界で何かをするだけで楽しいと。

岩田

テーマパークで狩りですか?

辻本・藤岡

(笑)

藤岡

テーマパークで狩りをすると怒られますね(笑)。
でも、僕はテーマパークが大好きなんです。
入場すると異空間があって、
何かの利益が得られるわけでもないんですけど、
そこにいるだけでも楽しいじゃないですか。

岩田

なるほど。
まるでテーマパークのように
居心地のいい世界がまずあって、
そこにはモンスターが住んでいる。
それらを狩ってもいいけれど、
狩りをしたくない人は釣りをしててもいい。
ひとりでは倒せないような強いモンスターは、
みんなで力を合わせると倒すこともできる。
倒したあとはご褒美がもらえて、
それが面白いのでやり続ける人がいっぱいいる。
『モンスターハンター』とはそういうゲームなんですよね。

辻本

ありがとうございます。
そこまで説明していただいて(笑)。

岩田

だいたい合ってますか?

藤岡

合ってます(笑)。
僕が言いたいのはそういうことなんです。

岩田

でも、たぶんぜんぜん知らない人にとっては
いつも強制的に狩りをしていなければいけないと
そんなイメージがあるかもしれないですね。

藤岡

まったくそうじゃないんですけどね・・・。
あ、そうそう、思い出しました。
『モンスターハンター』をつくりはじめたとき
イメージした世界があったんです。
昔、「はじめ人間ギャートルズ」(※2)という
マンガがありましたよね。

岩田

ああ、あの骨肉が出てくる・・・

藤岡

はい(笑)。

岩田

原始人マンガですよね。

藤岡

はい(笑)。

※2

「はじめ人間ギャートルズ」=小学館の学年誌に1974年から連載された、原始時代が舞台のギャグマンガ。園山俊二原作。同年にはテレビアニメ化された。

岩田

へえ〜、それは意外ですね(笑)。

藤岡

あの世界もすごくゆるいじゃないですか。
マンモスがドンドンと歩いていて、
その肉を輪切りにして食べたりしてますけど
そんなに殺伐としていないんですよね。

岩田

殺伐どころか、ほのぼのとしてますからね。

藤岡

スパッと肉を輪切りにして、
うまそうに食ってる、みたいな。
そういった大らかさが
すごく人間らしいなあと思うんです。
食いたいから食ってるというあの感じがいいなあと。
そういったことが楽しいんだよという雰囲気を、
このゲームでも表現できたらと思ってるんです。

岩田

だから、みんなで
大らかに狩りを楽しみましょうということなんですね。

藤岡

はい、そうです。

岩田

ちなみにどうして
『モンスターハンター』というタイトルを
付けることになったんですか?

辻本

もともとは開発コードだったんです。

藤岡

ただ商標がとれるかどうかわからなくて。

辻本

というより、
絶対にとれないだろうと思ってたんですね。

岩田

普通、そう思うでしょうね(笑)。

藤岡

すごくシンプルなタイトルですから(笑)。
だから、いつかはちゃんとした名前を決めないといけないよね
と言いながらも、なかなか新しい名前が思いつかなくて、
ずっと『モンスターハンター』と呼んでたんです。
そこで、とれないだろうと思いながらも、
「いちおう確認してみてください」と頼んだら・・・。

辻本

「とれました」と(笑)。

藤岡

「じゃあそれで行きましょう!」と(笑)。
開発をはじめた頃からずっと
『モンスターハンター』と呼んできましたので、
僕たちがつくりたいゲームのイメージが
この名前に込められているところもあるんですね。
もちろん愛着もありますし、
その意味でもそのままタイトルにできたのは
すごくよかったですね。
一度聞くとずっと残るような感じもありますし。

岩田

耳に残りますよね。

藤岡

やっぱり語感とかは、すごく大事ですよね。

岩田

わたしも宮本(茂)と何度も話していたんです、
「すごくいい名前だね」と。
覚えやすくて印象に残りますし、
何をするゲームなのか、パッとわかりますから。

藤岡

ありがとうございます。
『モンスターハンター』というタイトルが付けられたのは
すごく幸運だったと思います。