4. リビングとリビングの空気がつながる

野上

2つめの軸にしたのはWi-Fiコネクションを使うことです。
DS版で実現できたから、
というわけではないんですけど、
やっぱりインターネットを使って
友だちの村におでかけできるようになると楽しいだろうな
ということで、今回も対応することにしました。

岩田

DS版のWi-Fiコネクションではできなかったことがあって、
Wii版ではできるようになったこともあるんでしょう?

野上

ええ。たとえば、イベントを
友だちと一緒に楽しめるようになりました。
DS版のときは、携帯ゲーム機というハードの制約があって
通信をはじめるとイベントがストップするようになっていたんです。
でも、今回はクリスマスとかカーニバルなどのイベントを
友だちの村に集まって一緒に楽しめるようになりました。

岩田

じゃあ、「今日は○○があるから、みんなでオレの村集合!」
というようこともできるんですね。

野上

そうです。週に1回、ギターを弾いてくれる犬がいて・・・。

岩田

→とたけけですね。

野上

はい。彼は、DS版のときの通信中は出なかったんです。
友だちが自分の村に遊びに来ている間は
土曜の8時になっても
演奏を聴くことができなかったんですね。
でも今回は4人でとたけけライブを楽しめるようになりました。
だから、そういったイベントをキッカケにして
みんなに集まってもらえるようになるとうれしいですね。
しかも、全世界で同時にイベントは起こるようにしていますし。

岩田

つまり、12月24日は、世界のどこへおでかけしても
クリスマスを楽しめるんですね。
でも、ひとくちにイベントとは言っても
それぞれ国の文化が異なりますので
イベントの内容を合わせるのが大変だったんじゃないですか。

野上

おかげさまで、世界のイベントにはかなり詳しくなりました(笑)。
たとえば月見というイベントがあるんですけど、
日本ではお月見というと
中秋の名月ということになりますよね。
同じ時期にアメリカでも
月に関するイベントがあるんですけど
内容がまったく違うんです。

岩田

どんなふうに?

野上

アメリカでは、秋の収穫の季節に、
月明かりがあると夜間も農作業ができるということで、
満月をお祝いするお祭りになってるんですね。

岩田

へえ?、それは知らなかった。

京極

そもそも、日本ではお月見と言えば、
月見だんごとススキを飾ってみたいな感じですけど、
海外では理解されないんです。
だから、どうぶつのセリフを変える必要が出てきて。

野上

イベントが起こると村長さんが出てきて、
「キミにこれをあげよう」と言って記念品をくれるようになっていて、
月見のときは、月見だんごがもらえるんです。

岩田

でも、アメリカの人が月見だんごをもらっても
「何これ?」って感じですよね。

野上

そこで、アメリカでは記念品を入れ替えて、
麦の束がもらえるようにしました。
日本人の僕たちからすると
「どうして麦の束なの?」って感じですけど(笑)。

京極

月見のときに麦の束を飾る習慣があるみたいですね。

野上

で、月見のイベントが開かれているときに
海外の友だちの村へ遊びに行くと、
自分にもちゃんと麦の束をもらえるんです。

岩田

つまり、海外にWiiフレンドがいると
日本では手に入らないアイテムが手に入ることもあるんですね。

野上

ええ。だから、海外の村におでかけするときは
月見だんごをお土産に持って行くといいかもしれませんね(笑)。
DS版と比べるとWi-Fiコネクションはかなり充実して
より楽しめるようになったと思います。

岩田

さらに今回、おでかけ中に→Wiiスピークを使って
友だちと会話することもできるようになりました。
実際に『どうぶつの森』で使ってみて、どんな感じですか?

小林

ずっと会話をしながらプレイするというより
それぞれの室内の音が聞こえていて
ときどき「あっ!」とか声が聞こえたりして
すごくおもしろいんです。

岩田

友だちがとなりにいるような?

野上

空気がつながってるような感じです。

岩田

リビングとリビングの空気がつながっている感じですね。

野上

ええ。頭に装着するようなヘッドセットタイプではありませんし、
「さあ、会話するぞ」って感じで気合を入れなくても、
テレビの前に座るだけで気軽に会話ができます。
それに、無理に話をする必要はないんですよね。
何もしゃべらなくても、「ああ、そばにいるんだ」って
一緒に遊んでいる人の存在感が強く感じられるような気がしますね。

小林

開発スタッフ内でのデバッグ作業を見ていておもしろかったのが
Wiiスピークで直接会話ができるのに
文字によるチャットも同時に楽しんでる人が多かったんです。
つまり、直接声に出したほうがいいことは
そのまま言って、でも会話はチャットという感じで
いろいろ使い分けていたんですね。
だから、Wiiスピーク対応になって
文字によるチャットが必要なくなったかと言えばそうではなくって
コミュニケーションの方法がもうひとつ追加された感じなんです。

野上

そもそも、ゲームを通じて会話ができるとは言っても
ちょっと気恥ずかしかったりしますしね。

岩田

電話で話すと恥ずかしくないのに
なぜかゲームだとちょっと照れるようなところがありますよね。
電話は会話するのが目的で
ゲームは楽しむのが目的、という違いがあるんでしょうね。

野上

たとえばワイヤレス通信で
顔をつきあわせてやってるときって
しゃべる必要もないのに声が出ちゃうじゃないですか。
そういう感覚で遊んでもらえたらいいかなって思ってます。
だから、積極的に会話をしてもらうというよりは
「あっ!」とか「あれ?」とか、短い声を発するだけでも
つながってる感じが増して楽しく遊べるようになるでしょうね。

岩田

人によっては
どうしてWiiスピークにカメラを付けなかったのって
思ってる人もいるかもしれないんですけど
それについて、野上さんはどう思いますか?

野上

僕はカメラを付ける必要性は感じませんでした。
それに、DS版で通信をするだけでも
気が重く感じられた方がいらっしゃったくらいなので、
カメラが付くとなると、余計に気が重くなると思うんです。

毛呂

たとえば4人でつながったときに、
あとの3人分の顔がテレビに映るようになると
ゲーム画面の制約が大きくなりますしね。

小林

しかも相手の顔が見えちゃうとゲームに没頭できないですし。

京極

わたしもカメラがあるとちょっと困ることが・・・。
今回、自宅に持って帰って
Wiiスピークのテストをやったりしたんですけど、
忙しかったので部屋の中がすごいことになってるんです(笑)。

岩田

毛呂さんの街のモデルルームに展示されるほど
ゲームのなかの部屋はきれいなのに
現実の部屋は・・・(笑)。

京極

部屋もそうなんですけど、
自分の顔も気が抜けないじゃないですか。

一同

(笑)

京極

いまからお化粧するから待っててね、とか。

野上

それで1時間くらい待たされたりして(笑)。

京極

だから、マイクだけでよかったなあって(笑)。

野上

テンションをあげて、
「いまからWiiスピークをやるぞ」っていうのではなく
基本的に友だちの家に遊びに行ったときと同じように
気を張らずに遊んでほしいんです。
実際、友だちの家に遊びに行っても
マンガを読みながらだらだらとすることって結構多いですよね。

岩田

リビングとリビングの空気がつながるというのは
そういうことなんですね。
そもそも『どうぶつの森』って
いかに気合いを入れずに遊んでもらうかということが
すごく意識されながらつくられているソフトですし。
それでは、そろそろ3つめの軸について訊くことにしましょうか。

野上

はい。3つめの軸は、DSを使った仕組みを入れたいと。
最初にお話しましたけど、
通信ができないお客さんが正直いらっしゃるかなと。

岩田

いくらWiiConnect24やWi-Fiコネクションで
おもしろいことができるようになると言っても、
家にインターネットの環境がなくって
Wiiをつなぐことができないお客さんもおられますからね。

野上

でも、そのようなお客さんにも
できればおでかけするという体験を楽しんでいただきたいと。
おでかけはこのシリーズのキモですので。

岩田

N64版(※4)ではコントローラパックを使い、
ゲームキューブ版(※5)ではメモリーカードでしたが・・・。

野上

Wii版ではDSでおでかけできるようにしました。

※4

N64版=2001年4月発売の、ニンテンドウ64用ソフト『どうぶつの森』。シリーズ第1作目。

※5

ゲームキューブ版=『どうぶつの森+』(2001年12月)と『どうぶつの森e+』(2003年6月)の2作が発売。