4. 「ありがとう」が飛び交う世界

岩田

ベータテスト版の手ごたえはいかがですか?
堀井さんにとって、そもそもこういうつくりかた自体、
はじめてですよね。

堀井

ボクもベータテスト版をプレイしているんですけど、
「ああ、『ドラゴンクエスト』だな」
「うまくつくってくれたな」って思います。

岩田

ご自身が「『ドラゴンクエスト』だなぁ」って
感じながらプレイできたということですね。

堀井

そう、やれましたね。

藤澤

その言葉を、はじめて聞けたんで、よかったです(笑)。

堀井

ちょっと話が変わるかもしれませんが、
最近、「時代だなあ」と思うのは、
ソーシャルゲームなんかでも、自分1人でやるより、
“みんなとつながっていたい感”がすごくあると思うんです。
『IX』もテレビを見ながらできるとか、
「社会とつながっている感じがよかったのかな」
と思うんです。

岩田

社会とつながりながら、ゲームができたんですね。

堀井

そう、だからツイッターが流行る時代だと思うんです。
逆に言えば、みんなさみしいのかもしれないですよね。
そういう意味で、まだベータですが
「『X』があったかい世界でよかったなぁ」と思います。

岩田

わたし自身、ベータテスターさんたちから感じる気配ですけど、
「あったかい世界で居心地がいい」と
みなさんが感じているということが伝わってきます。

藤澤

ベータテスト版でびっくりしたんですけど、
よくオンラインゲームにあるシチュエーションで、
1匹のモンスターを、
2人のプレイヤーで取り合いになってしまう場合があるんです。
でも『X』の世界では「→おうえん」という機能を使って、
先にモンスターを取った人を、取れなかったほうの人が応援するんです。
それで、おたがい気持ちよく去っていくんですね。
「こういう使いかたをするんだなぁ」って、
僕らはまったく想定していませんでした。

堀井

本能的にやっちゃうんだろうね。
で、「ありがとう」「どういたしまして」って、
お礼を言っちゃうんだよね。

藤澤

はい。その世界にいる→プレイヤーの頭上に、
フキダシで台詞が出る
んですけど、
それはまわりの人からも見えるので、歩いているだけで、
あちこちで
「ありがとう」って言葉が飛び交っているんです。
実際に人が入ってくるまで、
どんな雰囲気の世界になるかわからなかったんですけど、
テスターさんたちがつくった『X』の世界は、
「ありがとう」が飛び交う世界だったと気づいたとき、
「これはすごいことが起きているなぁ」と感じました。

岩田

ネットゲームって、わりと荒れやすいですよね。
それが「怖い」というイメージをつくってきた
原因なんですが、『X』のベータテスト版が
なぜそうならないと思いますか?

堀井

ある程度、つくりかたで
方向づけはしているんだと思います。
「ありがとう」を言いやすいとか、
雰囲気的に荒れないような感じとかね。

齊藤

見た目も大きいかもしれません。
→プクリポっていうかわいらしいキャラクターとか、
殺伐としない感じですかね。

堀井

あとね、キーボードで打たなくても、
→ちょっとボタンを押すだけで言える台詞
いくつか用意してあるんですよ。

藤澤

あの台詞は、堀井さんがこだわられていましたよね。

齊藤

それから、→ジャンプ
ポオンって跳ぶだけで、意味はないんですけど、
「ありがとう、っていうのもあれかな」ってときに、
ジャンプするだけでやさしい意思が伝わるんです。

岩田

画面の向こう側に、意思を持った人間がいることが、
言葉ではないけれど、伝わってくるんですね。

齊藤

最初は手持ち無沙汰感があるので、
「何かボタンを押して反応するだけでもいいので入れてほしい」
っていう話をしたのがきっかけなんですけど。

堀井

うん。ジャンプは、すごくよかったと思う。

齊藤

実際やっていてジャンプしちゃうもんね。
ピョンピョン。

藤澤

無駄にしますね。

齊藤

楽しいです。雰囲気が楽しくなります(笑)。

岩田

文字だけのコミュニケーションって、
声の調子や表情やしぐさで表していることが
落ちてしまうので、気持ちを伝えることが難しいですよね。
でもそういうことを補完するうえで、あの世界の絵や、
ちょっとしたしぐさが全部、
印象として効いてくるんでしょうね。

堀井

あと、スタッフが頑張って、
しぐさをいっぱいつくってくれたんですよ。
→さそうおどり」とかよくできていて、
みんなで踊ったりするんですね(笑)。

藤澤

はい。ベータテスト期間中、
フェーズのおわりのタイミングになると、
なぜかみんな町に集まってきて、
裸で踊るんです(笑)。
あ、もちろん、単に全部の装備をはずした状態ってことですが。

齊藤

それも、ちょっとした敷石の上に
50人くらい乗って踊るんですよ。
「なんでみんな、ここに乗るんだ!?」みたいな。

岩田

まるで、お立ち台のようにですね(笑)。

藤澤

僕たちは必要なシステムを入れているだけなのに、
中で遊んでいる人たちが自分たちで遊びを発明してくれるんです。
「そういう場が提供できているのはいいことかな」
と思います。

岩田

1人でプレイするゲームの場合は
遊びにならなかったようなことでも、
単純なシステムを用意しておくだけで、
人の意思と工夫で、新たな遊びが広がっていくんですね。

堀井

ボクね、若いころに「月刊OUT」(※10)というアニメ誌で
「ゆう坊のでたとこまかせ」という、
読者コーナーを連載していたことがあるんですが、
毎月、読者に投稿テーマを用意するわけですよ。
テーマの出しかたがけっこうポイントではあるんですが、
ひとつのテーマにとにかくいろんなハガキがきて、
こちらが想像もつかなかった広がりかたをする。
そのときに「大勢の頭ってすごいな」と、いつも思っていたんです。

※10

「月刊OUT」=1977年から1995年にかけて発行されていた月刊アニメ雑誌。

藤澤

ああ、本当にそうですよね。
まさにいま、フォーラム(※11)がそういう形で、
「ああいう集合知(※12)がなかったら、到達できないなぁ」
と思います。

※11

フォーラム=ベータテスト版の不具合や要望などを投稿できる掲示板。

※12

集合知=多くの人の情報が集まって、意見や議論を交わすことにより生まれた、新たな付加価値を持つ情報のこと。

岩田

そうか。
堀井さん流のおもてなしの技に、
集合知が加わり、また違う発展をしているんですね。

藤澤

でも、堀井さんって、昔からそうですよね。
堀井さんの“人をもてなす気持ち”プラス、
いろんな人の意見をとり入れながらつくっていく、
そういったところがありませんか?

堀井

まあ、そうかな、うん・・・うーん。
まあ、聞かないことは聞かないけどね(笑)。
だいたい100あったら5ぐらい、
有効な意見があるんですよ。
そのへんをうまく拾っていく感じですね。

岩田

深いですね・・・100に5。
でもその5を、みんなが拾えるわけじゃなくて、
ときには間違った5を拾ったり、
大事なものを見落としたりするんです。
でも「なんでわかるんですか?」って聞かれても・・・。

堀井

わかんないですね。感覚です。

藤澤

本当に感覚なんですよね。

堀井

うーん・・・感覚なんですよ(笑)。

藤澤

堀井さんとはずっといっしょに仕事をしていますけど、
あまり言葉で何かを教えてもらったことってないですよね。
「堀井さんの感覚はこうなんだろう」というのを、
僕の中の感覚で判断している感じです。

岩田

8割とか9割は当たるんですけど、
やっぱり1割2割は、裏切られるんじゃないですか?

藤澤

・・・ああ、何割ぐらいですか?(笑)

堀井

8割ぐらいかなあ・・・。

齊藤

おー、それ、合格点じゃないの。

堀井

合格点(笑)。充分だよ。
100%合うってことは無理だと思う。
たぶん、違う2割はボクにはない、
別のいいところを持っているからね。

岩田

そこに堀井さんがハッとするところがあるんですよね。

藤澤

あるといいんですけども(笑)。