7. “もうひとつの人生をちょこっと体験”

岩田

さて、これから『X』が世に出て、
どんなことが起こることを期待されていますか?
藤澤さんはいかがですか?

藤澤

ゲームももちろん楽しんでいただきたいんですが、
それ以上に「中で人と出会って、自分の居場所を
見つけてもらうことが、ひとつの目的かな」と思います。
ふだんは、『ドラクエ』以外のゲームもやると思うし、
映画も見るし、学校や会社にも行く、という日常があって、
だけど『X』の世界に行くと知り合いがいる、
“行きつけのサロン”みたいな姿になれるのが、
究極の目的だと思います。

岩田

すごく長いレンジでつき合ってもらう、
居心地のいい行きつけの場、みたいな感じですね。
齊藤さんはどう思いますか?

齊藤

わたしもそれに近いです。
井戸端会議をしていて、そこでは『ドラクエ』の話題に限らず、
「今晩のおかず何にするの、お宅?」っていう
お母さん方がそこにいて、
子どもの帰宅まで時間があるから、
「何か倒しに行きませんか?」くらいの感じでもいいし。

一同

(笑)

岩田

「ふだんの生活をちゃんと残したまま、
 生活の余裕の範囲で、うまくつき合ってほしい」
ということですね。

齊藤

はい。がっつり、どっぷりってことを
あまり望んではいないんですね。
だから別に『ドラゴンクエストX』の中で
『テリワン』(※17)の話をしてもらってもいいですし、
ほかのゲームを話題にしてもらってもいいですし。

※17

『テリワン』=『ドラゴンクエストモンスターズ テリーのワンダーランド3D』。2012年5月、ニンテンドー3DS用ソフトとして発売されたRPG。

岩田

それに将来、『ドラゴンクエストXI』ができたときに、
『X』の世界で話しているかもしれないですね。
堀井さんが実現したかったのは、そういう世界ですか?

堀井

そうですね。人生にとって何がいちばん遊びかというと、
“もうひとつの人生をちょこっと体験する”ことだと思うんですよ。
映画を見るのもそうだし、それが感情移入だと思うんですよね。
そういう意味で『X』の世界がちょっと遊びにいける別世界、
「人の気配を何となく感じられる世界になれば楽しいなぁ」
と思います。
遊びに行ったら、違う人間関係があって・・・
あるいは、別の自分になれる・・・みたいな。

岩田

しかも人間関係をどうするかは
プレイヤーに自由度があって、
友達をつくってもいいし、1人で行動してもいいし、
人がいる気配が感じられる世界を提供することが、
『ドラゴンクエストX』のテーマですね。
遊び方が一通りじゃない感じが、
いまの時代に合っている感じがします。

堀井

『ジョーカー』(※18)や『テリワン』もそうですよね。
いろいろ特技やスキルがあって、
プレイヤー自身がいろんな必殺技を編み出して、
今度は誰かがそれを破っていくわけです。
今回の『X』も「お客さんがいろんなことを工夫して、
構築していくんじゃないか?」と思います。
あとから修正もできるので、こちらも対応していけますし。

※18

『ジョーカー』=『ドラゴンクエストモンスターズ ジョーカー』シリーズ。1作目は2006年12月、ニンテンドーDS用ソフトとして発売された。

藤澤

「お客さんといっしょに進んでいくからこそ、
 長く運営できるんだ」と思います。
もちろん、まだやってみないとわからないですけれども。

堀井

今回、やってみないとわからないことが多すぎるね(笑)。

岩田

ある意味、堀井さんをもってしても、
「これほど先が読めないことはない」
ってことでしょうか。

堀井

うん、読めない。今回は読めない(笑)。

岩田

でも一方で、先が読めないことに対して、
ワクワクしている堀井さんもここにいるんですよね。

堀井

ですね。
どんなふうになるか読めなくて怖いけど、
それが楽しかったりします。

藤澤

僕は心配ですけど・・・(笑)。

齊藤

それはそんなこといったら、運営する俺はもっと心配だよ!

一同

(笑)

藤澤

でもいろんなところでご意見をいただくんですが、
「『ドラゴンクエスト』って愛されているなあ」と感じます。

堀井

うん、ホントにそう思う。

藤澤

とくに今回はお客さんの声がダイレクトに届くので、
いままでとは違ったスケール感で、
「『ドラゴンクエスト』ってこんなに遊ばれているんだな」
と毎日感じています。

岩田

それは、どうしてだと思いますか?

藤澤

うーん、どうしてなんでしょうね?

堀井

やっぱり『I』(※19)から25年以上やっていると、
みんな、兄弟とやったとか、クラスで話したとか、
それぞれの思い出といっしょに
プレイした記憶があるのだと思います。
つまり思い出の一部になってる。
とても、ありがたいことだと思います。

※19

『I』=『ドラゴンクエスト』シリーズ第1作目のファミコン用ソフト。1986年5月に発売され、家庭用ゲーム機における「ロールプレイングゲーム」の代名詞ともなった。

藤澤

本当に“愛”っていう言葉を
使うしかないかもしれないですね。
だからみんなが味方になってくれるんです。

岩田

じつは『ドラゴンクエスト』のいちばんの武器は、
「その世界を好きな人が多いことじゃないか?」
って思うんですよ。
だからほかのオンラインゲームが簡単になし得ないことを、
違うアプローチでやってきた『ドラゴンクエスト』は、
「ひょいっと実現してしまうのかもしれない」
と思っています。

藤澤

フォーラムを見ていると、
少し荒れ気味なムードになっても、
「いや、『ドラゴンクエスト』はそうじゃない」
という意見がたくさん出てきて、
テスターのみなさんの力で解決されていくケースが多いんです。

岩田

それは“愛”がなければなし得ないことで、
そしてその正体は、25年以上遊んできた
『ドラゴンクエスト』の幸せな記憶なんですかね。

藤澤

そうですね。それがまさしく、
堀井さんが積み重ねてきたものなんだと思います。

岩田

でも、これほどの『ドラゴンクエスト』の粘りって、
どこからくるものなんでしょうか?
任天堂もそうとう粘りますけど、
『ドラクエ』も期限ギリギリで、いろんなことを、
何とかしてしまう粘り強さがありますよね。

堀井

確かに、ギリギリまで調整するよね。

藤澤

それは、堀井さんのDNAといいますか・・・(笑)。
いままででも、ゲームのマスターアップ後も、
「もしROMを差し替えることがあったら」って
差し替えデータをもらったこともあるんですよ。
それはけっきょく、製品にならなかったということもあるんですけど。
「これで大丈夫だよね」ってなってからの、
“堀井さんのワンエッセンス”って、
ものすごく大きいです。

岩田

本当に、最後の塩ひと振りみたいなことで、
ゲームってガラリと変わることがあるんですよね。
「いまさら変えるんですか?」
「変えたらデバッグやり直しですよ?」
って、宮本(茂)さんがときどき
開発チームから言われていますけど、
それと同じことが堀井さんの現場でも起きているはずです。

藤澤

あ、まったく同じことを先日、言いました(笑)。

岩田

だってここでこれを変えるってことは、
いままでのデバッグが無駄になるわけですけど、
でも、そんなことは関係ないんですよね。

藤澤

・・・まあ少しは関係あってほしいんですけど(笑)。

堀井

まあ、いろいろ反発はされますよね(笑)。

齊藤

でも面白いのは、堀井さんには
「時間がないので!」って言っているわりには、
この人(藤澤さん)、
自分のこだわりをスタッフにぶつけるんですよ。
けっこう矛盾してるでしょ、それって(笑)。

藤澤

ははは(笑)。
いやいや・・・なんで俺の批判になるの?

一同

(笑)

岩田

わたし、売れているものをつくっている人って、
諦めの悪い人が多いと思うんですよ。
そこが『ドラゴンクエスト』の、
粘りの秘密なのかもしれません。

堀井

そうですね、しつこさは大事ですね。

藤澤

粘りの秘密といえば、
ひとつ象徴的なエピソードがありまして、
どこかで一度、話したかったので話すんですけど、
『IX』のとき、ある程度、形ができていた段階で、
堀井さんが
「すれちがい通信で、宝の地図を交換したい」
とおっしゃったんです。
でも、もともとはすれちがい通信と宝の地図って、
ぜんぜん別のシステムで、関係がなかったんですよ。

岩田

ええっ? そうだったんですか?

藤澤

「いや、堀井さん、それはちょっと・・・!」って、
僕はディレクターという立場で散々言ったんですけど。
でも、それでどんなことが起こるか、
堀井さんには見えていたんでしょうね。

岩田

その鉱脈をその段階で見つけて言い切るのが、
堀井さんですね。
でも、その堀井さんをもってしても、
まさゆきの地図(※20)があれほど話題になるとは
予想できなかったですよね?(笑)

※20

まさゆきの地図=『ドラゴンクエストIX 星空の守り人』の「宝の地図」の一つにつけられた愛称で、メタルキングしか出ないフロアがある。

堀井

そう(笑)。地図をリンクさせた意図としてはね、
単純に、「ボスを強くした地図を配り合って、
その作成者を有名にしたい」ってことだったんだけど、
あれはいろんな奇跡が重なったんですよ。

藤澤

しかもちょうどいい感じに、
2週間後ぐらいに出てきて(笑)。

堀井

そうそう(笑)。

岩田

でも諦めがよかったら、その奇跡は起きなかった。

藤澤

そういうところが、
堀井さんといっしょにものづくりをしていて、
「ぜんぜん敵わないな」って思う部分ですね。