6. 『スーパーマリオ』が完成しても

岩田

さて、無事にクリボーも登場することになって(笑)、
最初の『スーパーマリオ』ができあがりました。
そのとき、どんな手ごたえがありましたか?

手塚

正直言いまして、
世界中でこれほど多くの人たちに
遊んでいただけるとは思っていませんでした。
ただ、発売前にいろんな人に
モニターをお願いして遊んでもらったんですけど、
そのときの反応を見て、宮本さんが
「『ドンキーコング』のときと似ている」と言ったんです。

岩田

それほど盛り上がったんですね。

手塚

ええ。宮本さんは『ドンキーコング』のときに
そんな体験をされていましたので、
「ひょっとしたら、すごいことになるかもしれへん」
と言っていたのは、すごく覚えています。

岩田

ちなみに、『スーパーマリオ』ができた頃、
わたしは『F1レース』(※21)の仕上げで
任天堂に来ていたんです。
で、そのときに感想を聞きたいと言われて、
発売前の『スーパーマリオ』のロムを
おあずかりしたんです。
そのロムをHAL研に持ち帰ったんですけど、
それから2週間は、開発スタッフが
まったく仕事にならなかったんですよ。
スタッフ全員が『スーパーマリオ』を遊び続けたんです。

中郷・手塚

(笑)

※21

『F1レース』=1984年11月に、ファミコン用ソフトとして発売されたレースゲーム。

岩田

だから「どえらいモノができたな」というのが、
発売する前のわたしの印象なんです。
ただ、その時点でも
これほどの社会現象になるとは思ってないんですが、
だけど、それまでに味わったどんなゲームとも違う、
強烈なものがあったという感じはしました。

中郷

でも、できあがったとき、
わたしたちの間では、あんまり実感がないんですよね。

手塚

つくってるとわかんないですね。

岩田

わかんなくなるんですね。

中郷

「終わった!」というのだけですよね。

岩田

もう、コースを直さなくていいと(笑)。

中郷

もう、次の仕事の話をしてましたし。

岩田

さあ、『ゼルダ』を仕上げなきゃと。

中郷

『ゼルダ』が同時にはじまりましたから、
次の日から『ゼルダ』の話をしてました。

岩田

じゃあ、『スーパーマリオ』のロム出しをしたら、
そのことはすぐに忘れて
『ゼルダ』を必死につくっていたんですか?

中郷

『スーパーマリオ』ができたとき、
宮本さんからクギを刺されたんです。
「うれしいとか、やった!とか言うのは、
できて3時間かなあ」と。

岩田

完成して喜ぶのはたった3時間(笑)。

中郷

で、「次もがんばろう」と宮本さんに言われて、
「はい、そうしましょ」と、当時はそんな感じでしたね。

手塚

そうでした。

中郷

ですから、すぐに『ゼルダ』の仕事に
移っていきました。

岩田

今回は『マリオ』がテーマですので
『ゼルダ』についての質問は控えますが、
印象深いエピソードをひとつ挙げるとしたら、
それはどんなことですか?

中郷

手塚さん、
ハートの器を4分割したときの話は覚えてます?

手塚

・・・覚えてないです。

中郷

(笑)。
『ゼルダ』のときは取れるアイテムがとても少なくて、
それで本当に困ってしまったんです。
で、手塚さんと1日中、パズルゲームを遊びながら、
その相談をしたことがありまして。

岩田

パズルゲームを遊びながら、
アイテムを増やすための相談をしていたんですね(笑)。

中郷

ええ。そしたら宮本さんは
何も言わないで帰られたんですよ。
で、翌日に宮本さんが来たとき、いきなり
「昨日の1日の成果はよくわかる」と言うんです。

岩田

皮肉を言われたんですか?
1日中、パズルゲームで遊んでいたから。

中郷

いえいえ、実はパズルゲームを遊びながらも、
ホワイトボードに
十字に割ったハートの絵を描いていたんです。
すると、宮本さんは、僕らが何も説明してないのに、
その絵を見ただけで、ハートのかけらに
イメージを結びつけることができたようなんですね。

岩田

ああ、なるほど。ハートを4分割することで
不足したアイテムも補えると。

中郷

そうなんです。
ホワイトボードにちょこっと描いただけなんですけどね。
だから、不思議な人やなあと思いました。

岩田

なるほど。

中郷

不思議な人やなあと思ったのは
手塚さんに対しても同じで。

岩田

それはどんなところですか?

中郷

→『マリオ3』(※22)をつくったときの話なんですけど、
→しっぽマリオがいますよね。

※22

『マリオ3』=『スーパーマリオブラザーズ3』。1988年10月に、ファミコン用ソフトとして発売されたアクションゲーム。

岩田

マリオにしっぽと耳がつくと、
空を飛べるようになりましたよね。

中郷

あれ、最初につくったときは
空中をずーっと飛んでいく仕様だったんです。
でも、そうすると、つくった地上のコースが
全部台無しになるので、
僕は「やめてほしい」と言ってたんです。
ところが、手塚さんはすごく気に入ってたんですよね、
あのしっぽマリオを。

手塚

はい(笑)。

中郷

それでミーティングをやっていたら
手塚さんがおもむろに手を動かしはじめて、
しっぽマリオが飛ぶ動きを再現しながら
「こうやって、こうなると飛ぶでしょう。
これ、すごく楽しそうって思わへん?」と。

岩田

「空」には熱い想いをもってる手塚さんが
とても熱く語ったんですね(笑)。

中郷

手塚さんの考えだけでいくと、
しっぽマリオはずーっと飛んでいくんですよ。
ずーっと飛んで、ゴールのところまで行って、
それで終わるんですよ。「そんなアホな」と。

岩田

マリオは、飛び続けられたらゲームが成立しません(笑)。

中郷

でも手塚さんは
「これだけは何とか実現させたい」と言うんです。
そこで、制限をつけようという話になりまして、
→8キャラ分走ったら、はじめて飛べるようにしようと。

岩田

空を飛ぶためには
ある程度の平地を必要にしたんですね。

中郷

僕らは、誰が名付けたか
「滑走路」と呼んでました。
そこで、飛んでいい場所を再検討して、
マップを一気につくりなおして、
最終的には、→「パタパタの羽根」というアイテムを取れば、
コースをずっと飛べる
ようにもしました。

岩田

手塚さんの「空」にかける
執念が伝わったんですね(笑)。

手塚

はい(笑)。

中郷

僕もそうしてよかったと思っています。
飛んで早く先にいきたいお客さんも
やっぱりいらっしゃると思うんです。
それに、『マリオ3』のときの「パタパタの羽根」は、
今回の『New スーパーマリオブラザーズ Wii』の
「おてほんプレイ」にもつながりましたから。