7. 恐竜に乗った絵への執念

岩田

ある意味、手塚さんの執念深さが
『マリオ3』のしっぽマリオを生んだんですね。

中郷

ええ。でも、執念深いということでは
宮本さんのほうが何枚も上なんです。

岩田

それは具体的にどんなことですか?

中郷

宮本さんの机のまわりには
いろんなメモとか絵が貼ってあるんですけど、
『マリオ3』をつくっていたときから
恐竜に乗る絵があって、それがずっと貼ってあったんです。

岩田

恐竜というのはヨッシーのことですよね?(笑)

中郷

ヨッシーです(笑)。
でも、そのときは恐竜に乗った絵だったんです。
で、→『マリオワールド』(※23)で初めて恐竜に乗りまして。

※23

『マリオワールド』=『スーパーマリオワールド』。1990年11月に、スーパーファミコンと同時発売されたアクションゲーム。シリーズ4作目。

手塚

宮本さんはカントリーウエスタンが大好きなので、
馬に乗るとか、そういうことにすごく憧れをもっていたと思うんです。

中郷

そうなんですよね。
いまはなくなってしまいましたけど、
会社の近くにカントリーウエスタンのパブがあって、
そのお店に連れていかれることも多かったですし。

岩田

ああ、なるほど。
ウエスタン好きからヨッシーは生まれているんですね(笑)。

手塚

たぶん、そうだと僕は思ってるんですけど(笑)。

中郷

きっとそうでしょう。

岩田

この2人が言うんだから、きっと間違いないですね(笑)。

中郷

そもそも『エキサイトバイク』のとき、
バイクに人が乗ってましたよね。

岩田

ええ。

中郷

ヨッシーに乗るのはそこからつながっています。
でも、ファミコンではそれができなかったんです。
たぶん、『マリオ3』のときも
恐竜にマリオを乗せたかったと思うんですけど、
それがハードの制約上、できなかったものですから、
手塚さんが→タヌキとか、→カエルとか、
マリオが単体でパワーアップできるものを考えたんです。

岩田

タヌキやカエルに変身したり、
しっぽがはえて、空を飛べるようになったのは
マリオが恐竜に乗れなかったからなんですね(笑)。

手塚

(笑)

中郷

で、スーパーファミコンが出ることになって
「よっしゃー、コレや!」と。

岩田

よっしゃー、ヨッシーに乗れると(笑)。
でも、本当に宮本さんが
「よっしゃー、コレや!」と言ったんですか?

中郷

いや、あくまでイメージです。

一同

(笑)

中郷

でも手塚さん、そんな感じでしたよね?

手塚

ふふふ(笑)。

岩田

(笑)。
それにしても宮本さんは
「これは」というものを見つけたときに、
いつか必ず時が来ると思うんでしょうか。
あそこまで諦めないでいられるというのは・・・。
実際、似顔絵の「Mii」も、実に長い間、
執念深く追いかけてましたし。

中郷

Miiもすごく長かったですね。

岩田

5年レンジのものはザラですよね。
でも、今頃くしゃみしてるでしょうね、きっと(笑)。

中郷・手塚

(笑)

岩田

執念深いことで言えばマルチプレイもそうですね。
今回の『New スーパーマリオブラザーズ Wii』で実現しましたけど。

中郷

『マリオ3』のときも、
「やっぱり2人で遊びたいよね」
「多人数でやりたいよね」というのがあって、
でも、実際、2人になってしまうと・・・。

岩田

収拾がつかなくなってしまうんですね。

中郷

そうなんです。それでけっきょく
『マリオブラザーズ』系統の、
→1画面で戦うというミニゲームに全部変えたんです。

岩田

だから、毎回あげられるテーマのひとつなんですよね。
わたしも、ずいぶん前の話になりますが、
→『星のカービィ スーパーデラックス』(※24)の提案を
宮本さんにしたことがありまして、そのとき、
「毎回『マリオ』でチャレンジしてもできないので、
『カービィ』でマルチをやってみませんか?」という
お題を与えられたことがあるんです。

中郷

提案に行ったのに、
宮本さんから逆提案されたんですね(笑)。

岩田

そうなんです。
それがきっかけで、当時はカービィのディレクターで
いまプロジェクトソラで仕事をしている桜井さんが、
→2人で遊ぶヘルパーシステムを発案して
実現することになったんです。

※24

『星のカービィ スーパーデラックス』=1996年3月に発売されたスーパーファミコン用ソフト。シリーズ初の2人協力プレイ(ヘルパーシステム)を実現。

手塚

ああ、そういうことだったんですね。

中郷

なるほど。
こちらは『マリオ3』のときにチャレンジしてダメで、
スーパーファミコンが出てきたとき、
「モード7」(※25)と言われるものができるようになりまして。

岩田

画面を拡大縮小したり回転したりできる機能ですね。
これで、画面を引いてみることができるようになったんでしたよね。

※25

「モード7」=背景の拡大・縮小・回転の機能をサポートするモードのこと。読み方は「モードセブン」。

中郷

はい。
「これならそこに2人がいても画面を引けるやん」と。
そこで、『マリオワールド』のときに、
コースのマルチプレイをさんざんテストしたんですけど、
処理時間がぜんぜん足りませんでしたし、
ヨッシーに乗ることになったので諦めたんです。
で、それから15年くらいたって
DSが出てきたので、「これや!」と思ったんです。
2画面になりましたし、これでマルチプレイで
コースでいっしょに遊べるようになると、
テストをはじめたんです。

岩田

ところが、→DSの『Newマリオ』(※26)でも
実現できなかったんですよね。

※26

DSの『Newマリオ』=『New スーパーマリオブラザーズ』。2006年5月に、ニンテンドーDSで発売されたアクションゲーム。

中郷

そうなんです。
コースがすごく複雑になりましたので、
やりたくても、できなかったんです。
そこで、専用ステージをつくりまして、
→マリオとルイージの対戦プレイ ができるようにしたんですけど、
やってみたら、やっぱりマルチで遊ぶのは面白いと。

岩田

そうして今回の『New スーパーマリオブラザーズ Wii』で、
ようやく4人プレイを実現することができたわけですね。

中郷

ひとつの画面だけでなく、
スクロールするコースを4人で遊べるようになりました。
だから『マリオ3』から数えると
およそ20年越しに実現したと言えますね。

岩田

だから、似顔絵にも匹敵する長い期間、
ねばってきたんですね。

中郷

本当にねばりました(笑)。

岩田

手塚さんには、
4人同時プレイに対するこだわりは
宮本さんのようにあったんですか?

手塚

やっぱり「実現できたら」という思いはありました。
でも、ずっと前から何度トライしてもダメだったので、
「今度こそは」というほどではなかったんです。

岩田

いつかチャンスが来たら使える
スジのよいネタであるという意識だけがずっとあったと。

手塚

はい、その通りです。

中郷

でも、DS版でテストしたことが
今回の『New スーパーマリオブラザーズ Wii』での
マルチプレイの実現にすごく役立ったんです。

岩田

そのときは捨てたように見えても、
いずれは役に立つチャンスが
必ずやってくるということなんですね。

中郷

本当にそう思います。