4. みんなで批評し合った「おてほんプレイ」

岩田

それでは話題を変えて
→おてほんプレイ」のことも訊いてみようと思います。
そもそもどのようにして
「おてほんプレイ」が生まれることになったんですか?

足助

そもそもは、DS版の『Newマリオ』が
「簡単だった」とおっしゃる方が多くて・・・。

岩田

ゲームが上手なお客さんにとっては、
「もの足りない」と感じられたケースが少なくなかったようですね。

足助

しかし、その一方で、
ゲームが苦手な方からは、
どうしてもワールド3のボスが倒せないから、
その先に進むことができなくて、
そこであきらめて、遊ぶのをやめてしまったと。

岩田

DS版の『Newマリオ』は、しばらくゲームを遊んでおられなかった方や、
まったく初めての方にも楽しんでいただけるようにつくろうとしたのに、
それでも最後まで遊ぶことができない方がいらっしゃったんですね。

足助

そうなんです。
そこで、そういう人たちに
クリアできないコースはどうしているのかと聞いてみると、
うまい人に代わってクリアしてもらっている、
という方がおられたんです。
たとえば子どもに代わりにやってもらって、
「ああ、そうやればクリアできるんだ」というのを見て、
その先に進むのは自分でも納得できるとおっしゃるんですね。
そこで、難しいコースがあったときに、
希望する人にはクリアする映像が見られるようにして、
しかもそこから先に進みたい人には
クリアしたことにしてあげようということで、
今回の「おてほんプレイ」を入れることにしたんです。

岩田

つまり、自分の代わりにクリアしてくれるような
うまい人が身近にいない人にとっては、
ゲームがその代わりをやってくれるということなんですね。

足助

その通りです。
どうしても倒せないボスがいたりすると、
そこでやめてしまう人も少なくないですから。

岩田

なるほど。

足助

そこで、見ている人が「なるほど」と思えるようなプレイ、
しかも、自分でも後で自力でやってみたくなるようなプレイ、
そういう映像がほしいと思って、
「そんなプレイをして収録してください」と、
向尾さんにお願いしたんです。
言い方を変えると、「投げた」とも言います(笑)。

岩田

投げたんですか? それだけの指示で?

足助

ある程度のガイドラインはつくったのですが、
ほぼ、それだけの指示で向尾さんに投げました(笑)。

岩田

それはまた、ひどいことをしますねえ(笑)。

一同

(笑)

岩田

向尾さん、
「なるほどと思えるプレイを録って」と言われても、
途方に暮れてしまったんじゃないですか?

向尾

そうですね(笑)。
そこで、デザイナーやサウンドのスタッフら20名ほどで
手分けして録ることにしたんです。
ところが「それぞれ録ってください」となると、
どうしても腕のうまいヘタがありますので、
基準がバラバラなものになってしまうんですね。
なので、まずはリーダーを5名決めて
プレイの質やレベルを定めるようにしました。

岩田

それはどうやって定めたのですか?

向尾

まず最初に、足助さんから、
たとえばハテナブロックがあったら叩くのかとか、
コインは全部取っていくのかとか、
基準になるたたき台を出してもらいました。

岩田

まず、ディレクターが基本になるプレイ方針を決めたと。
でも、「おてほんプレイ」が超絶にうますぎても、
それを見たお客さんがやる気をなくすかもしれませんし、
かといって、あんまりヘタそうなプレイだと、
ちょっとイライラするかもしれませんし、
そこのバランスが難しいですよね。

向尾

はい。やっぱりダッシュで
ピョンピョン跳んでいくようなプレイを見せても、
「おてほんプレイ」を見た人が
自分でできるとは思わないだろうと思いました。
そこで、ダッシュや壁キックはあまり使わずに、
ゆっくりと落ち着いたプレイでクリアするようにしました。
ですので、「うまくプレイしすぎない」とか、
「無駄な動きはしない」とか、いくつかのルールを決めて、
スタッフで録っていくようにしたんですが、
それでもやっぱりバラツキがあったんです。
そこで、全員を集めまして、
みんなのプレイを見るための会議を開きました。

岩田

みんなで「おてほんプレイ」をいっしょに見て、
批評し合ったんですね。

向尾

「この人はちょっとうますぎますね」とか。

岩田

うますぎて文句言われたらたまりませんね(笑)。

向尾

「いまのキノコは取らなくてよかったのに」とか。

岩田

・・・それはどう考えても変な会議ですね(笑)。

一同

(笑)

向尾

「ブロックはもうちょっとキレイに叩こうよ」とか、
足助さんの基準がけっこう厳しかったんです。
でも、そのように批評会をやったことで、
バラバラだった基準が共有化できるようになりました。
また、先輩の1人がすごくいいことを言ったんです。
「温かいプレイを心がけましょう」と。

岩田

温かいプレイ・・・ああ、つまり、
「こうすれば、あなたにもできるかもしれませんよ」とか
「お客さんを勇気づけるプレイをしましょう」ということですね。

向尾

その通りです。
そこで温かいプレイを心がけるようにしまして、
ですから、難しいプレイはほとんど使っていないんですね。
ダッシュだったり、壁キックだったり、
すごいタイミングで跳ぶとか、そういう技はできる限り使わずに、
なおかつ無駄な動きもせずに、ということで。

岩田

でも「無駄な動きもせずに」と言われると、
逆に緊張してしまって、
「ああ、また無駄な動きをしてしまった。もう1回」
ということの繰り返しになってしまって、
けっこう泣きそうになりながら
収録していたような気がするんですけど。

向尾

その通りなんです。
なかにはすごく長いコースがあって、
最後の最後でちょっとミスをしてしまうと・・・。

岩田

「またやり直し」ということになるんですね。

向尾

だから「録ってるときは、声をかけないでね」と。

一角

また、おてほんプレイを収録するスタッフそれぞれの
プレイスタイルの問題もありまして・・・。
例えば僕の場合ですと、ピョーンと前方にジャンプした後に、
後ろ向きに十字ボタンを入れて、
ちょっと垂直に落ちてくるような感じでプレイするんです。
その癖がなかなか抜けなくて。

足助

そういう癖のあるプレイは禁止なんです。
だから「いまのプレイは禁止でお願いします」
と言ってました。

岩田

そうか、みんなを笑顔にするというのは
それくらい大変なことなんですね(笑)。

向尾

でも、そういったプレイをすることで、
僕もゲームはうまいほうではありませんけど、
ダッシュを使わずにプレイするのは
「ああ、こんなに難しいんだなあ」というのが、
開発する側として、とてもよい勉強になりました。
それに、最終的には20名くらいのスタッフが
プレイしたようには見えないほど、
レベルはほぼ統一されたように思います。