2. 「止めたらええねん」

岩田

Wiiモーションプラスでつくるにあたって、
どのようなことが壁になっていくんですか?

小林

『Wiiスポーツ リゾート』の場合は
キャラクターがMiiなので、
つくりがシンプルなんですけど、
リンクはリアルな人型ですから・・・。

岩田

しかも、盾とかも装備していますしね。

小林

そうなんです。それに、
『Wiiスポーツ リゾート』の「チャンバラ」は棒なので、
どんな向きで斬っても、軌跡さえ合えば問題ないのですが、
リンクが持っているのは剣ですから、
平たいところでペタンと叩くわけにはいかないんです。

岩田

ああ、そうか。
刃先がちゃんと、斬る方向に向いていないと
二枚目リンクがかっこ悪くなってしまうんですね。

青沼

そうなんです。
リンクがかっこよく剣を振ってくれないと困るんです。
手の先に剣がくっついていて、
それをただ動かすだけじゃあダメなんです。
そこで、最初の頃は、いろいろ実験をして。

小林

実験は何度も繰り返しましたよね。

藤林

ヒジとか、骨格の研究もずいぶんしました。

青沼

当初は、人の動きを忠実に表現しようと、
すごくマジメにつくろうとしていたんです。
すると、リンクがなかなか、かっこよくならなかったんです。
そこで、あるところではウソをつくことも必要だろうと。

岩田

つまり、動きのある部分にウソが入っても、
脳のほうでちゃんと補完してくれるんですね。

青沼

そうなんです。
むしろ、そのほうが自然な動きになって、
それで「これで剣戦闘はなんとかなる」と。
しかも、思った方向に剣が振れるようになって、
敵と戦うときも、「どういう方向で斬ろうか?」と
意識しながらプレイできるようになりました。
ところがギラヒムという、とんでもないボスがいて、
こいつはそれを読むんですよ。

岩田

「読む」というのは、
どんな方向から斬りつけられるのか、
そのボスが先読みするということなんですか?

青沼

そうなんです。
しかもギラヒムは素手なんですけど、
「よし、こっちから斬ろう」とすると、
それを読んで、→リンクの振った剣を
手でピシッと止めたりする敵
なんです。

岩田

宮本さんが任天堂カンファレンス(※7)で、
「僕も苦しめられました」と言ってたヤツですね。

※7

任天堂カンファレンス=「ニンテンドー3DSカンファレンス 2011」。2011年9月13日に開催された、ニンテンドー3DSの発表会のこと。

青沼

そうです。宮本さんからは
「こんなん倒せるかっ!」って何度も言われました(笑)。

岩田

“プレイヤー宮本、怒る”ですか(笑)。

青沼

怒るというか、猛烈に抗議されました(笑)。
でも、「ダメ」とは言わないんです。
だから、手ごたえは悪くなかったんでしょうね。
「どうしたら、倒せるようになるのか、
もっと直感的にわかるようにしてほしい」と。

岩田

フェイントをすると倒せるんですよね。

青沼

ええ、そうなんです。ギラヒムは
リンクの剣の動きに合わせて素手を動かすので、
そこでフェイントをかけるんです。
細かくはここでは言えませんが
「こいつをどうごまかして斬ればいいんだろう?」と
考えながら戦ってほしいんです。
 
あと剣の動きといえば、それよりも前に、
剣を「止める」というアイデアが出てきて・・・。

岩田

つまり、剣というのは振って敵を倒すものだけれども、
止めて使うことができるようになった、ということなんですね。
その「止める」というアイデアは
誰が考えたんですか?

青沼

宮本さん・・・だよね?

藤林

僕、いまだによく覚えているんですが、
夜中に突然、宮本さんに呼ばれて、
「止めたらええねん」と言われたんです。
「え、何をですか?」と聞いたら「剣」だと。
「止める」と聞いて、「そんなバカな」と思ったんですけど、
「止める・・・? ああ止めるんや。なるほど!」と、
しばらくして納得したんです。
 
で、深夜の話にはまだ続きがあって、
宮本さんは「止めたらええねん」と言ったあと、
→それでWiiリモコンを上にあげるんだ。
そしたら止めてる間にエネルギーがたまっていって・・・
そんで・・・剣ビーム
だ」と言われたんです。

岩田

「止める」が「剣ビーム」のアイデアに?

藤林

はい。もともと宮本さんの頭のなかでは
「止める」ということと「剣ビーム」のアイデアは
まったく別だったと思うんです。
ところが、剣を自在に操るアイデアとして
「止めたらええねん」と言ってから、
「それで剣ビームだ」と、
その場で、別のふたつのことがつながったのが、
話を聞いている自分にもよくわかったんです。

岩田

アイデアがその場でつながったということですね。

青沼

そんなときはすごくうれしそうな顔になるんですよね(笑)。

藤林

ええ、どや顔をされてました(笑)。

一同

(笑)

岩田

まさにひとつのアイデアが
複数の問題を解決するという、とてもいい例ですね。

青沼

そうなんですよね。
しかも、剣ビームが出せるようになって、
剣を振った方向に輪っかみたいなものが飛んでいくので、
「そういう方向に剣を振った」ということが
視覚でハッキリわかるようにもなりました。

岩田

なるほど。

青沼

それに、天に剣を掲げられるようになって、
『スカイウォードソード』というタイトルになりました。

岩田

「スカイウォード(SKYWARD)」というのは
「空のほうへ」という意味ですが、
それだけでなく、もう少し深い意味があるそうですね。

青沼

そうです。
NOA(※8)のローカライズチームから聞いた話によると、
「Ward」という言葉には「何かを保護する者」という意味もあって、
「スカイウォード(SKYWARD)」というのは、
「空の保護者」または、「空に守られる者」の意味合いも
あるんだそうです。

※8

NOA=Nintendo of America(任天堂のアメリカ現地法人)。

岩田

へえ〜、深いですね。
それにしても、
高速に反応するWiiモーションプラスを使って
高速に動かす遊びを実現するだけではなくて、
「止める」ことを遊びにすることを考えた人は
すごいなと思ってたんですが、
宮本さんが言い出したことだったんですね。

藤林

そうなんです。

岩田

ちょっと悔しいですね、みなさん(笑)。

藤林・小林・田中

はい。

青沼

あー・・・悔しいなあ・・・。

一同

(笑)

岩田

で、今回は「止める」が画期的だと思ったんですが、
もうひとつは「Aボタンが空いた」。

青沼

はい、空きましたね(笑)。

岩田

これまでのシリーズでは、
Aボタンで剣を振るのが当たり前になっていましたけど、
Wiiモーションプラスを使うことで
「Aボタンが空いた」ことも今回の重要なポイントですよね。

青沼

ええ、Aボタンを押さなくても
剣が振れるようになりましたから。

岩田

その空いたAボタンを
どうやって活かそうと思いましたか?

藤林

新しい『ゼルダ』をつくるときは、
毎回、宮本さんから課題が出されるんです。
「何か1個、新しいアクションを追加しなさい」と。
で、僕は開発にかかわっていないんですけど、
たとえば『夢をみる島』(※9)では、羽根でジャンプすると。

岩田

はいはい。

藤林

で、『神々のトライフォース』(※10)では、
草を持ち上げられるようになりました。
そんな感じで、新しいアクションを追加することが、
新しい『ゼルダ』をつくるときのお題になっていたんですけど、
今回は、宮本さんから「今回はどうなの?」と言われる前に、
何かひとつ入れておこうと思って、
「ダッシュ」ができるようにしようと。

※9

『夢をみる島』=『ゼルダの伝説 夢をみる島』。『ゼルダ』シリーズとしては初のゲームボーイ用ソフト。1993年6月発売。また、1998年12月には、ゲームボーイカラー用ソフトとし て、リメイク版の『ゼルダの伝説 夢をみる島DX』が発売された。

※10

『神々のトライフォース』=『ゼルダの伝説 神々のトライフォース』。1991年11月に、スーパーファミコン用ソフトとして発売された、アクションアドベンチャーゲーム。

岩田

それを空いたAボタンに割り振ったんですね。

藤林

はい。もともとリンクは
ダッシュができても、壁や障害物に当たると、
ピタッと止まってしまうところがあったんです。

岩田

『神々のトライフォース』のときは
木や家にドシーンとぶつかって、
ひっくり返ったりしていましたよね。

藤林

そうなんです。
そうなると、そこでゲームの流れが止まってしまうので、
「今回はどこに当たっても、何かしらリアクションができたり、
スピードを殺さない動きにしたい!」と強く思っていましたので、
→「駆け上がり」というアクションをつくりました。

青沼

その結果、剣で敵と戦闘したあとにすかさず、
Aボタンで壁を駆け上がるというようなアクションも、
ふだん剣でAボタンを使っていないからこそ
スムーズにできるようになったんです。

岩田

実際、映像なんかで、→敵の上を駆け上がって、
背中に回り込む
のを見たりすると
カッコいいですよね。

青沼

小さな崖や急な坂道を、タタタタッと
軽やかに駆け上がることもできますし。

藤林

ただ、エネルギーが切れてしまうと、
リンクは息切れして、
肩でゼーゼー息をするんですけど(笑)。

岩田

(笑)