2. 硬派なゼルダっ子も

岩田

丸浪さんと保坂さんは、
『ゼルダ』を実際につくる側になって
どのようなことを考えるようになりましたか?

丸浪

わたしは『風のタクト』を触って、
「これはただカワイイだけのものではないな」
と思ったんです。骨太なゲーム性を核に、
細やかなつくり込みがされているゲームだと感じました。
というのも、たとえば、草を切ることができたり、
石ころにしても、そこに生えてる木にしても、
こちらが何かをすれば必ずと言っていいほど
リアクションが返ってきて、それがすごくうれしくて・・・。

岩田

モノがそこに、ただ置かれているわけではないんですよね。

丸浪

そうなんです。
それは『ゼルダ』ではおなじみのことなんですけど。

岩田

お客さんが、そこにあるモノに
何かをすると、まるで“おもてなし”をするように、
反応があって、驚かせてくれるんですよね。
以前、社長が訊く『ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D』のときに、
春花(良紀)さんが、そのことを
→襲いかかるおもてなし”と表現していましたが。

丸浪

そうですね。
まさにそのように“おもてなし”をすることが
『ゼルダ』の伝統になっていると思いますし、
自分が実際にオブジェクトをつくるとなったとき、
そのように、リアクションで感じられる
「モノ」としての手ごたえをできるだけ入れたいと思いました。

岩田

保坂さんはどうですか?

保坂

最初にも言いましたが、「没入感」ですね。
たとえば、『トワイライトプリンセス』を遊んで、
そのときに感じたことがあったんですけど、
女の子がさらわれて、リンクがそれを助けるという・・・
幼なじみのイリアだったかな?

一同

そうそう。

保坂

そのイリアを助けたときに、
「ありがとう。あなたは先を行って」
みたいな必要最低限のことを
淡々と言うんですけど、
すっかり没入しきっているわたしは
「えええーっ、そうじゃないでしょう!」と。
なんで、こう・・・(ハグする仕草をしながら)
「こうしないの!?」みたいな(笑)。

一同

(笑)

保坂

まぁ、それだけその世界に
のめり込んでいたんですけど、
つくる側になってからは
「そういう没入感を自分でもつくれたらな」と、
理由をさがしたりしました。
それでわかったことですが、
『ゼルダ』のキャラクターというのは
ひとりひとりに最初から設定ができあがっているわけではなく、
みんながいろんな工夫をして・・・。

岩田

開発している人たちが、寄ってたかって、
キャラクターに命を吹き込んでるんですよね。

保坂

そうなんです。
なので、たくさんのスタッフの考えが
そのキャラクターにどんどん積み重ねられていって、
最終的に、生き生きとした存在になるということが
つくる側になってわかりました。

岩田

なるほど。岩崎さんの『ゼルダ』歴は?

岩崎

わたしは昔からがっつり『ゼルダ』を遊ぶ子だったので、
最初に遊んだのは『神々のトライフォース』(※9)なんです。
小学校のときに買ってもらって、
「なんて面白いんだ!」と。

岩田

じゃあ、硬派なゼルダっ子だったわけですね。

※9

『神々のトライフォース』=『ゼルダの伝説 神々のトライフォース』。1991年11月に、スーパーファミコン用ソフトとして発売された、アクションアドベンチャーゲーム。

岩崎

そうです、大好きでした(笑)。
それこそ何回クリアしたかもわからないくらい、
何年も何年も遊び続けて、
『時のオカリナ』が出たときもすぐ買って、やっぱり
「なんて面白いんだろう!」と。

岩田

そこまで大好きだった『ゼルダ』を
初めてつくる側になったときは、
感慨深いものがあったんじゃないですか? 

岩崎

そうですね、うれしかったんですけども、
やっぱり、つくるとなると大変なんだろうな、とも・・・。

岩田

「あんなに楽しんだ『ゼルダ』と同じものを
 自分にもつくれるのか?」ということですね。

岩崎

そうなんです。
「あのクオリティのものを、わたしがつくれるのかしら」
という不安がありましたし、
でも、そこはもう、がんばるしかないなと(笑)。

岩田

つくってみて、何か発見はありましたか?

岩崎

丸浪さんも言っていたように、
やっぱりオブジェクトに、
ふと思いついて試してみたことに対する
リアクションがあるのがうれしいんです。
実際につくる側から見ると、
スタッフ同士が知らないようなことも、
誰かがこっそり仕込んでいるのに気づいたりして、
「そんな細かいところまで!?」という発見の連続でした。

岩田

それは今回、オブジェクトをつくるうえでも
活かされてるんですね。

岩崎

そうです。

岩田

廣野さんはどうですか?

廣野

わたしは
ファミコン版の『ゼルダ』(※10)が最初のゼルダでした。

岩田

さらに上をいく硬派なゼルダっ子が登場ですね(笑)。

※10

ファミコン版の『ゼルダ』=『ゼルダの伝説』。1986年2月に、ファミコンのディスクシステム用ソフトとして同時発売された、アクションアドベンチャーゲーム。

廣野

はい(笑)。で、スーパーファミコン版もプレイして、
その後、しばらくゲームをしなかった時期があったんですけど、
NINTENDO64で『時のオカリナ』が出たときに、友だちが
「すごく面白いよ」と言うので遊んでみたんです。
すると、当時のわたしは3Dゲームで遊んだことがなかったので、
ものすごいショックを受けて・・・。

岩田

『神々のトライフォース』の2Dの世界から
『時のオカリナ』の3Dの世界に触れて、
カルチャーショックのようなものを受けたんですね。

廣野

はい。なので、ものすごくあの世界に没入して、
ありとあらゆるものとたわむれました。
たとえば木があればぶつかったり、剣で叩いたり、
町の人には何度も話しかけて、
ゴシップストーン(※11)があれば無意味に打ち上げたりとか(笑)。

岩田

バクダンを置くんですよね。

※11

ゴシップストーン=ゲーム内でヒントなどをくれる石。

廣野

はい(笑)。
ロケットのように飛んでいくんですけど、
それを眺めながら
「なんて面白いんだろう・・・」と。
で、任天堂に入社してから、『風のタクト』のときに
スタッフとして少しだけかかわることになって、
どうやってキャラクターがつくられるのか、
はじっこから、ちらちら見る機会があったんです。

岩田

先輩の仕事をちらちら見ていたんですか。

廣野

はい。すると、キャラクターたちが
本当に生きてるという感じがしてきて、
ただ普通にしゃべるだけの人がいないというか・・・。

一同

(そろってうなずきながら)そうそう。

廣野

制作が進むにつれて、キャラクターたちに
背景が生まれたり、どんどん命が吹き込まれていく感じで
「ああ、こうやってつくられるんだ」と驚きました。
そして、今回の『スカイウォードソード』で
キャラクターをつくるときに心がけたのは、
見た目はおかしくても、親しみがありつつ、
かわい気も出したいなあと・・・。
丸浪さんと保坂さんも言ってましたけど、
「かわいい」というのはフックになると思うんです。

岩田

しかも“濃い”キャラクターに、ということですよね。

廣野

はい(笑)。
ちっちゃい子どもが見ても、
すぐに覚えられるようなインパクトも意識しながら、
親しみやすいデザインを心がけました。

岩田

・・・それにしても面白いですね。
みなさん、それぞれ過去に『ゼルダ』を体験した
感想を訊いたわけですが・・・
たとえばゴシップストーンを打ち上げるのが楽しいとか。

廣野

はい(笑)。

岩田

草を切るのが楽しいとか。

丸浪

はい(笑)。

岩田

「どうしてハグしないの?」とか。

保坂

はい(笑)。

岩田

そもそも『ゼルダ』というのは、剣を持って
怖そうなモンスターと戦うゲームですよね。
にもかかわらず、
「強そうな敵をやっつけて、スッキリしました」
というような声がまったくなかったことは
女性ならではなのかもしれませんし、
そういったことも、『ゼルダ』の幅広い魅力というものを、
じつは表しているということなんでしょうね。

一同

(そろってうなずきながら)そう思います!