3. ファーストメールをめぐって

岩田

清田さんを絞りかすにしてしまうほど、
高橋さんからのメールは、作曲家さんの個性を引き出す
とても巧みで的確なものだったということなんでしょうか。

高橋

実は、うちのスタッフを間に入れていたんです。

一同

えっ?

岩田

高橋さんがダイレクトにメールを送ったんじゃないんですか?

高橋

そうなんです。
というのも、僕が書いている内容をそのまま渡すと、
たぶん立ち直れないだろうなと。

岩田

(笑)

高橋

僕はこだわっていることに対しては、
けっこう言葉がキツくなる傾向にあるんです。
そこで、僕がリテイクを出した内容を
けっこうマイルドに書き直してもらったうえで、
それを音楽家さんたちにお送りするようにしていました。

清田・CHiCO

そうだったんですね・・・。

岩田

いま初めて知ったんですか?

一同

はい。

高橋

・・・あのファーストメールは見せられないです。

岩田

そんなにキツイ表現なんですか。

高橋

・・・はい。

CHiCO

あちゃー(笑)。

一同

(笑)

ともり

でも僕は、ほかの人が書いていると聞いて、やっとわかりました。
というのも、ひとりの意見じゃないような印象があったんです。

CHiCO

しかも、歯の間に何かが挟まったような感じで(笑)。

ともり

だから、ビックリマークひとつとっても、
「このビックリマークはどんな意味なのかな?」とか。

CHiCO

そうそう!「・・・」の数も、こっちは4個だけど
こっちは3個しかないのは、深い意味があるんじゃない?
とか言ったりして。

一同

(笑)

ともり

今日、この場で謎が解明されました。

岩田

やっぱりモノをまとめるときには、
いろんなことに対してすごく厳しくする必要があるんですよね。
もし判断の軸を甘くしてしまうと、
モノは簡単に悪い方向にどんどん崩れていくものですから。
ですから、ここも、あそこも、いろんなところに完璧を求めていき、
完璧じゃないものに対して、それをすごく強く否定しないと、
なかなか理想の姿には収束しないんですよね。

高橋

そうですね。

岩田

ただ、感じたことをそのまま伝えてしまうと、
人によっては立ち直れなくなったりするので、
間に人を入れて、オブラートに包む必要があったということなんですけど、
そうやって、マイルドにする役の人が間に入っても
清田さんの心にはけっこうグサグサと刺さっていたんですよね。

清田

(コックリうなずく)

一同

(笑)

岩田

そういったメールのやりとりは
開発の最後の最後まで続いたんですか?

高橋

開発の中盤過ぎたあたりから
わたしがキツイ表現で書くことも少なくなってきました。
おそらくみなさんが、お互いの曲調とか雰囲気を読んでくれて、
各自がそれに合わせてくれていたんじゃないかと思います。

岩田

CHiCOさん、実際はどうだったんですか?

CHiCO

そうですね。開発の中盤を過ぎてからは、
なんとか曲づくりの方向性が見えてきたんですけど、
最初の頃はやっぱり大変でした。
清田さんとお互い、日々泣きそうになる感じで。

清田

最初の頃は、励ましてもらったり、
わたしが励ましたりと、お互い励まし合っていたんです(笑)。

CHiCO

もともと音が異なるチームでしたので、
高橋さんは「バラバラの世界になっちゃいけない」
「統一感が大事だ」ということを繰り返しおっしゃっていて、
それはやっぱり曲調がバラバラだったからなんですね。
どうしてもはじめの頃は、清田さん節、ACE+節みたいに
なってしまったんですけど、
なんとか時間をかけてすりあわせていきました。

岩田

どうやってすりあわせをしたんですか?

清田

実はACEさんたちが家に来てくれたんです。

CHiCO

清田さんも家に来てくれました。

岩田

ああ、お互いの家を行き来したんですか。

清田

そうなんです、お互いに行き来して、
まず、音づくりの環境から見直すことにしました。
わたしがそれまで使っていた機材を見ていただいて、
「ここから出る音はどんなんだろう」と、
そんな細かなことまでチェックして。

CHiCO

やっぱり曲調をそろえるには、
同じ環境にしたほうがいいということになったんです。

清田

そこでソフトも買い換えることにして、
それまで馴染みにしていたソフトともお別れしました(笑)。

岩田

そうやって、だんだん同じチームになっていったんですね。

清田

はい。

CHiCO

最後のほうは、団結しまして。

清田

すごく仲良くなりました。

岩田

団結して、仲良くなって、
さっき高橋さんが言ったように、
開発の中盤から曲調が合ってくるようになったんですね。
でも、清田さんとACE+さんを
そこまで駆り立てたものは何だったんですか?

CHiCO

先ほど、清田さんが
「下村さんや光田さんと仕事ができてうれしい」という話をしましたけど、
それはわたしたちも同じなんです。
とくに尊敬している光田さんが高橋さんと
ずっと仕事をやってこられていたので、
その意味でも、高橋さんについていけば間違いないと思ったんです。

岩田

光田さん、そういうふうに見られていたのは知っていました?

光田

・・・いえ、ぜんぜん知らなかったです。

岩田

衝撃の告白ですね(笑)。

光田

衝撃です(笑)。

CHiCO

ということがあって、最後まで信じていけばいいと思っていました。
で、高橋さんはご自身で、音楽をいろんなシーンに
差し込むような編集をされているんですけど、
その当て方がめちゃくちゃお上手なんです。
わたしも演劇がきっかけで音楽の道を選んだので、
どのシーンにどう音を使うかにはこだわりが強いんですけど
最初に当て込んでつくった曲と、
違うところに曲を差し込んでいらっしゃることもたくさんあって、
「え、この曲はここ?」みたいな入れ方もあって・・・それが大変素敵で。
だからやっぱり高橋さんについていってよかったと思っています。

岩田

高橋さん、CHiCOさんはそう言ってますが。

高橋

・・・この場から逃げたいです。

一同

(笑)

高橋

でも、最初に「音楽に救われた」という話をしましたけど、
ゲームというのは手で触って、目で入ってきて、だけではなくて、
音からくる感覚がすごく大事だと思っているんです。

岩田

その「音楽に救われた」という想いは
今回の『ゼノブレイド』でも同じなんですね?

高橋

はい。今回はとくにそうです。
だから1音も無駄にしたくないという想いが強くありました。
もちろんこちらから「こういう曲をつくってください」
とは伝えているんですけど、
僕のキツイ意見に対して返ってきた曲を聴いてみると、
そこには新しい発見があるんです。
そこで「この曲はこういうことを表現したいんだな。
であれば、別のこのシーンに当てたほうがいい」みたいなかたちで、
かなり慎重に編集しました。