4. 仮説検証装置

岩田

まず、“お茶の間”と“カレンダー”がキーワードになり、
Miiを使うことが決まり、
それでちょっと面白い構造ができそうだということが
見えてきたわけですね。
でも、「それをどうやってビジネスにするの」という
とても大きな課題がありますよね。
趣味でやるわけじゃないですから(笑)。

湯川

そうですね。

岩田

そこではどんなやりとりがあったんですか?

別府

任天堂としては、
商品のなかに広告が含まれるというのは、
大きな決断になると思いました。
これまでの商品のなかには
実際にそういった広告はいっさい入っていませんでしたから。

岩田

いや、大昔に永谷園さんの『マリオ』(※4)がありました。

別府

ああ、そうでしたね。

※4

永谷園さんの『マリオ』=正式タイトルは『帰ってきたマリオブラザーズ』。ファミコンのディスクシステム用書き換えソフトとして、1988年発売。

岩田

あれ、確か電通さんとやってたはずですよ。

湯川

そうなんですか? すみません、勉強不足で。

岩田

『マリオブラザーズ』というゲームがあって、
それに永谷園さんの広告を入れて、
通常より100円安い400円で
ファミコンのディスクシステムで発売したんです。

湯川

そんな歴史があったんですね、
知りませんでした。

岩田

何しろ、20年以上も前の話ですからね(笑)。
ちょっと話が脱線しちゃいましたけど、
別府さん、広告モデルの話を続けてください。

別府

はい。
『Wiiの間』は無償のサービスですから、
当然ビジネスとしてはそれだけでは成立しません。
ただ、広告モデルとしての新しいチャレンジだと思っていまして、
世の中にあるいろんな商品やサービスを通して
それが日常生活に本当にお役に立つご提案をストレートにしましょう、
ということだと思います。

岩田

本当にいいモノが
必要な人のところにうまく伝わって、
使った人はハッピーになり、
売れた人もハッピーになり、
それを媒介した、わたしたちもハッピーになり、
言ってしまえば夢のような環境をつくることで
経済も回るようにするという、
とても難しいパズルを解こうとしたわけですね。

別府

はい。テレビ広告の場合、
視聴率が広告の効果をはかる物差しになるんですが、
実際に何人の人が見て、その人たちはどのような性別や年齢で、
映像を最後まで見たのか、内容に満足したのか、
などを実数で把握することは残念ながらできないんですね。

岩田

でも『Wiiの間』だと、それができるんですね。

別府

できるんです。
そういった反応をしっかりと分析できれば
新しい価値を創れるんじゃないかと。

岩田

ここでちょっと補足しておきますと、
そもそも別府さんは、広告代理店時代に
調査・分析に関してはすごく経験してきた人なんですよね。
わたしが以前から興味があったことを
具体的にどうすれば調べられるのかを知っている
プロフェッショナルだったんですよ。
わたしが別府さんと出会わなければ、
任天堂はクラブニンテンドーを
はじめていないんじゃないかと思いますし、
今回『Wiiの間』でやろうとしていることも
全部おんなじなんですね。

別府

はい、同じだと思います。

岩田

そもそも、わたしたちは
お客さんにウケたいと思って仕事をしているんですが、
ウケるというのは、
お店で何個売れるということじゃないんです。
お店で何個売れるかは、確かに大事です。
企業の活動はそれによって収入を得ているわけですから。
ですが、お店で何個売れるかということだけでなく、
買ってくださるのはどんなお客さんで、
ひとつの製品を何人の人たちで共有して、
どのように遊んでくださって、すぐにやめちゃったのか、
それともずっと遊んでくれてるのか、
そのことを人におすすめしたくなるくらい好きになったのか、
「何だガッカリ」と思って終わってるのか、
どっちも1個の売上げなんですけど、
それを知るのと知らないのでは
次のステップで考えることがぜんぜん違ってくるんですね。
もっとウケたいという欲望を追求する上でも、
こういうことがわかるようにならないと
任天堂は先に進めないと思ったんですね。

別府

だから、岩田さんから質問されましたよね、
「こういうことはできないの?」
「ああいうことはできないの?」と。

岩田

そうでしたね。
ここでちょっと鈴木さんに訊いちゃいますけど、
テレビでドラマをつくっていて・・・。

鈴木

やっぱりウケたいですよね(笑)。

岩田

ウケたいですよね(笑)。
テレビの世界ではやっぱり視聴率が
番組への評価の基本なんですけど、
わたしみたいに、どんな人にウケてるのか、
もっと詳しく知りたいという人はいるんですか?

鈴木

もちろんいます。
そう思ってる人のほうが多いです。
とくにドキュメンタリー系のスタッフがそうですし、
ドラマ系にも多いですね。
ただ、実際にそれを調査までかけてという話になると
あんまり聞いたことがありません。

岩田

やっぱりモノをつくっている以上は
知りたいに決まってますよね。
知りたくないはずがないんです。

鈴木

そうですね。
でも、現状で視聴率をとってるスタッフにとっては、
むしろ知るのが恐いというところはあるんです。
それに、そういうことを知りたがってると、
「当たってないからだろ、お前は」
と言われそうな空気があると思うんです。

岩田

ああ、なるほど。

鈴木

で、当たってきちゃうと、
今度は「知りたい」と言いにくくなってくるというのが
現状としてあるんじゃないかと。

岩田

でも確かに、わたしが社長になったときに
任天堂であらゆる商品が売れまくっていたら、
わたしはこんなことを考える必要がなかったんですよね、きっと。

一同

(笑)

岩田

もっと売れてもいいと思うのに、
もっとウケてもいいと思うのに、
「どうしてこういう結果になるんだろう」
というのが、そもそもの原動力になっていて。
それに、ウケても本当の意味で
ちゃんと響いているのかというのは心配ですし、
その背景をちゃんと知りたくなるんです。
で、いったん知る面白さがわかってしまうと、
どんどんそっちの方向に行くんです。

鈴木

そうですよね。わかります。
たとえ1等賞になったとしても、
なぜそうなったのか、知ることは大事だと思いますし。

岩田

だから、わたしは
『Wiiの間』が新しい広告メディアというよりも
“新しい仮説を検証する仕組み”、
“新しい仮説検証装置”と言ったほうが
正しいと思うんです。

別府

たとえば新しい商品を出すとき、開発者は
どのようなお客さんにどのように使っていただけるかを
仮説を立てながら考えて考えて開発しますが、
発売したあとにその仮説をお客さんに受け入れてもらえているか、
買ってよかったと思っていただけているか、
また次回も買いたいと思っていただけているかを
検証することが次につながると思うんです。

岩田

そうです。
それをしっかり検証することで、
もっとウケる商品開発に結びつくと思っているんです。

別府

でも、意外と検証する手段が少なくて。
だから『Wiiの間』で
そういうことがお手伝いできればと。

岩田

でも、いきなり“新しい仮説検証装置”と呼んでご紹介しても
「カセツケンショウソウチ?」と
聞き返されちゃうかもしれないですね(笑)。