社長が訊く
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社長が訊く『The Wonderful 101』

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社長が訊く『The Wonderful 101』

神谷 英樹さん 篇

目次

5. 「ゲームの神様が降りてくる」

岩田

神谷さんは毎回、わたしから見て
まったく新しいものをつくり続けている
印象があるんですが、そのインスピレーションは
どこから出てくるんですか?

神谷

うーん・・・。
正直、自分ではよくわからないですね。
すみません(笑)。

岩田

いや、わりとみなさん自分のことを整理して、
語ってくださる方はけっこういらっしゃるんですが、
逆に「よくわからない」ということを
すぱっと言い切る方は、そうそういないです(笑)。

神谷

そうですよね。

岩田

でも「それが神谷さんなのかなぁ」と
今日のお話を訊いて、すごく感じました。
自分のこれまでのゲーム体験と重ね合わせながら、
物事を決めていって、
それが増幅されていくような
もののつくりかたも含めてですね。

神谷

僕は運に助けられているというか、
本当にまわりの人や環境に
恵まれていると思うんです。
『バイオ2』で大きな失敗をしたあとも、
『ジョー』でも『大神』(※27)でも迷走して
試行錯誤をくり返して時間を費やしてるんです。
そこで正解をみつけられたのは、
そういう環境があったからこそなわけで。

※27
『大神』=2006年4月にカプコンより発売されたアクションアドベンチャー。神谷さんは当時カプコンの子会社だったクローバースタジオ株式会社に在籍しディレクターとして開発を手がけている。2009年10月にはWiiに移植された。

岩田

正解をみつけるときって、
いろいろ試したり、やってる中で
「あっ、これだ!」って思うんですか?

神谷

そうですね。たとえば『大神』は企画当初、
写実的なグラフィックでつくっていたんです。
僕が信州の生まれなので
「ゆたかな自然が見たい」という郷愁の念で、
癒しのゲームがつくりたくて。
でもやっぱり広大な自然を舞台にしたら、
そこを駆け抜けたいじゃないですか。
そうなるとより広大なステージが必要になって、
必然的に描写の密度もうすくなるんですね。

岩田

たしかに、際限がなくなってきますよね。

神谷

そんな時に、スタッフのひとりが
主人公のアマテラス(※28)のデザインを
筆のタッチで墨絵風に描いてきたんですよ。
それを見た時に、
「ぜんぶ日本画のタッチならどうだろう」って
ピンとくるものがあったんです。

※28
主人公のアマテラス=白い狼の姿をした主人公キャラクター。

岩田

重なったんですね、そこで。

神谷

和風のテイストで自然を描くというのは
あまりなかったし、すごく新鮮に感じたんです。
そこでプロデューサーの稲葉(※29)
「こんなふうにドラスティックに変えたいんだけど」
って言って、思い切って変えたんです。
でもそこからまたさらに、
「どんなゲームにするのか」という落としどころが
なかなか決められなくて・・・。

※29
稲葉=稲葉敦志さん。プラチナゲームズ株式会社プロデューサー。『The Wonderful 101』でもプロデューサーを務める。カプコンにプログラマーとして入社後、プロデューサーに転身。『大神』開発時のクローバースタジオ時代は代表取締役社長を務める。

岩田

ビジュアルイメージの方向性はかたまったけれど、
それだけではゲームにならないですからね。

神谷

途中、シミュレーションみたいになって
自分で畑や道をつくって、家を建てていく
みたいな要素も盛り込んだりしたんですが、
ぜんぜんおもしろくはならなくて。
「これはどうしたものか・・・」って日々が、
しばらく続いてしまいました。

岩田

その経緯は、『どうぶつの森』(※30)と似ていますね。
『どうぶつの森』もかなりの迷走をして、
ハンパじゃなくいろんな試行錯誤があって、
いまの姿になっているんです。

※30
『どうぶつの森』=2001年4月にNINTENDO64用ソフトとして発売された、コミュニケーションゲーム。

神谷

あっ、そうなんですか。

岩田

見た目はほのぼのしていますが、
第1作を開発中のときは
かなり苦労していたと聞いていますよ(笑)。

神谷

同じですね(笑)。
それでさすがにある時、見かねた稲葉が
「おまえら、これどうするんや!」
ってキレて怒ったわけです。
もちろんそれまでも考え続けていたんですけど、
こう着状態になっていたんですね。
それで、ちょうど3連休に入る直前だったので、
主要なスタッフ10人くらいで集まって、
休みの間に集中して考えよう、ということになって。

岩田

プチ合宿、みたいな感じですかね。

神谷

そうですね。1日目のミーティングルームの
雰囲気は、とにかく最悪でした。
いいアイデアがぜんぜん浮かばなくて。

神谷7

岩田

どよーん、としますよね。
具体的にはどんなところで悩んでいたんですか?

神谷

いちばん最初につくった
PV(プロモーションビデオ)で、
原野を主人公のアマテラスが駆け抜けると
一気に草花や木がバーッと育っていくという
映像をつくっていたんですね。
そういうダイナミックな、
夢のあるゲームをイメージしていたんです。
「アマテラスは狼だけど、本当は神様」
というイメージが根っこにはあって、
「じゃあ神様なら何ができるんだろう?」
というところで、ずーっと悩んでいたんです。

岩田

なるほど。

神谷

変わったのは2日目ですね。
誰かが言った「神様だから何だってできる」という
言葉に、ピンときたんです。

岩田

あっ、「何ができるか」じゃなくて、
「何だってできる」に変わったんですね。

神谷

そうなんです。
「別に草花を生やすだけじゃなくていいんだ」って。
これも本当にその時のひらめきなんですけど、
たまたま画がああいう墨絵調だったので、
「木を描いたら木ができる。
 何なら風の軌跡を描けば風が吹くとか、どう?」
って、言ったんです。
そしたらミーティングルームの雰囲気も一変して、
「それはおもしろいね!」って盛り上がって、
その日のうちに、企画書を書きあげたんです。
2~3ページの少ないものですけど、
企画書としてはそれで十分だったんです。
その前の迷走してるときの企画書は
分厚く何十ページもあったのに(笑)。

岩田

どんどん足さないと、心配になりますからね。
でもいい企画は、むしろ少ないページで
「これが軸なんだ」ってわかるんですよね。

岩田5

神谷

そうですね。余計な説明なしでも、軸を中心に
ゲームが自然に広がっていくんですよね。
3日目はその企画書をもとに内容を詰めていって、
週明けにチームに説明したら、
みんなの顔がぱあっと明るくなったんです。
「これは絶対おもしろくなるぞ」という確信が
その時ようやくできて、
いまの『大神』ができたわけです。

岩田

稲葉さんがキレてくれたおかげですね。

神谷

ははは(笑)。『ジョー』の時も稲葉に
「ええかげんにせえ!」って怒られて。
土日でみんな集まっていろいろ考えた結果、
VFXパワー(※31)のシステムが、生まれたんです。

※31
VFXパワー=時間や空間にまつわる映像のさまざまな演出効果を利用しアクションを行う能力。

岩田

えっ、あれはそんなふうに生まれたんですか!?
だってVFXパワーって、
あのゲームの核じゃないですか!?

神谷

はい、それまではなかったんです。
僕のゲームはだいたいそんな感じで、
最初から企画書に核が入ってることが
まずないんですよ。
それこそ運とひらめきでつくるというか、
がんばっているとどこかで
ゲームの神様が降りてくる感じで。

岩田

へぇ・・・。
でも、ゲームの神様が降りてくれるのは
本当にギリギリの、休日限定なんですね。

神谷

そうですね(笑)。
「もっと早く考えろ」って、話なんですけどね。

岩田

いやでも、きっと神谷さんは
重要なここぞというタイミングで、
ひらめいたり、みつけたものを逃さない能力が
すごく高いんじゃないですかね。

神谷

よく言えばそうかもしれません。
『ジョー』のスロー(※32)のきっかけが
まさにそんな感じですね。
あれはたまたま僕の隣にいたプログラマーが、
モーションチェックをしていて、
スローモーションでジョーのアクションを
動かしていたんですよ。

※32
スロー=画面全体の動きを遅くすることで、特定条件で敵を吹き飛ばすことができる。

岩田

えっ、あれもそうなんですか!?

神谷

「おっ、それ何やってんの?
 おもしろいじゃん!」
って言って、やらせてもらったのが
きっかけだったんです。

岩田

やっぱり、そういうまわりの状況から、
重要なきっかけをつかむのが上手なのが、
神谷さんの特長なんでしょうね。

神谷

まあ、自分の頭からは
あんまり出てこないですかね(笑)。
でもそういう意味では、
今回の『101』はわりと企画書に近い形で
仕上がっているめずらしいケースかもしれません。

岩田

はい(笑)。今日は1対1でお話を訊いて、
神谷さんがどのような経験を経てここにいたったのか、
わたしがお訊きできたのは
ごくごく表面だけかもしれませんが、
とてもよくわかりました。
そしてすごく、おもしろかったです。
第2部、『The Wonderful 101』のお話も
たっぷりお訊きしたいと思います。
ありがとうございました。

神谷

こちらこそありがとうございました。