社長が訊く
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社長が訊く『スーパーマリオ 3Dワールド』

社長が訊く『スーパーマリオ 3Dワールド』

目次

2. 「機能が先」

岩田

それにしても、今回新たに登場した
ネコマリオって、ちょっと反則じゃないですか?
壁を登り、ひっかき攻撃もできて、
ゴールのポールまで自分で登れるっていう。
あそこまで何でもありだと
『マリオ』のゲームバランスが
崩壊してしまうんじゃないかと心配なんですが、
そのあたりはどうなんでしょう。

宮本

『3Dランド』をつくってるときからの
テーマなんですけど、わりと
「楽しいからいいか」ということを
最優先にしていろんなものをつくってるんです。

林田・元倉

そうですね。

宮本

競争をテーマに本気でバランスをとるなら、
性能のエディットのような、
こっちを伸ばしたらあっちを落とすというような
パラメーター調整が入ってくるんですけど、
そうすると結局種類はちがっても、
トータルの能力は平均的に
つくらなければいけなくなるんです。

岩田

まあ、バランスをしっかりとろうとすると
急にかしこまって、きゅうくつな感じは
出てきてしまいますよね。

宮本

そうですね。
でもそういうことはつくり手が押しつけずに、
遊ぶ人が自由に決めてくれればいいと思うんです。
「どれだけ楽しいことを矛盾がなく、
たくさんつくって詰め込めるか」
というのを楽しみながら考えて
つくったところはあります。

岩田

あの、素朴な疑問なんですけど、
毎回マリオは新しいものに
変身しますけれど、ずっと考え続けていて
ネタ切れにはならないんですか?

元倉

うーん・・・。
あと1000個くらいは、あると思います。

一同

(笑)

林田

1000個というのは冗談ですが、
みんなで「変身マリオのアイデア会」をやるので、
ネタはそれこそ山のようにあるんです。

岩田

ああ、山のように出た中から
選ばれてるんですね。
じゃあ、ネタ切れの心配は
しばらくしなくても大丈夫ですね。

林田

そうですね。実際に最後まで残るのは
50個のうち1個くらいなんですけど、
それでもネタが切れるということは、まだないです。

元倉

今回はもともと「走る」「ジャンプする」といった
気持ちよさを求めた検証を先にしていて、
その過程で通常のマリオにはない
「4本の脚で駆けるアクション」と
「壁を登るアクション」のネタが、
きっかけになっているんです。

元倉02

岩田

ということは、もともと別だった2つのネタを、
くっつけてひとつにしたんですね。
それで「これが当てはまるのはネコだ」になったんですか?

元倉

そういうことですね。

岩田

ああ・・・「機能が先」なんですね!
そうだ、忘れてましたよ、
ここはそういうチームでした。
ネコという表現自体は、
機能が決まったあとで決まるんですね。

小泉

わたしはネコに決まる前の検証から
見せてもらっていたんですけど、
検証段階では、あのキャラクターたちがそのまま、
4本の脚で走りまわってるわけです。
それを見てものすごく不安になってしまって。
ピーチ姫も、あらぬ格好で・・・(笑)。

岩田

ピーチ姫があの格好のまま、ですか?

宮本

サササーッていう具合に、動いてました。

一同

(笑)

小泉

まるでホラーでしたね、あの時は。
でもネコに決まってからは、
本当にしっくりと、いろんなピースがはまって。

林田

そうですね。最終的には、
「まねきネコマリオ」まで、行き着きました。

岩田

えっ、「まねきネコ」ってあの招きネコですか?

元倉

はい。
地蔵マリオ(※7)と対になった変身で、
特定の条件で変身したネコマリオは、
ヒップドロップでボーナスコインを
出してくれる
んです。

※7
地蔵マリオ=『スーパーマリオブラザーズ3』や『スーパーマリオ 3Dランド』に登場した変身マリオのひとつで、敵に存在を気づかれず、ダメージを受けない。また、ふだん踏めない敵を踏みつけることができる。

岩田

ははは(笑)。
でも、海外で招きネコってわかるんですかね?

元倉

ローカライズ(※8)チームに聞いたんですけど、
一応、アメリカでもLUCKY CAT(ラッキーキャット) という
言葉があるそうです。

※8
ローカライズ=特定の国を対象につくられたものを、別の国でも利用できるように言語などを対応させること。

岩田

へえ、海外にも似た由来はあるんですね。
ところで、変身ではないんですけど、
ダブルマリオもこれまでありそうで
なかった発想ですよね。

宮本

あれができる前にも、
「1人で複数のマリオを動かす」という構想は
ずっとあったんですけど、
実際1本のスティックで
複数キャラクターを同時に動かすのは、
「操作的にけっこうしんどいだろう」
ということで、試してはいなかったんですよね。

岩田

そうですよね。わたしもはじめて見たとき、
「えっ、これは自分で操作できるの?」って
思ってしまいましたから。

宮本

複数操作といっても、
ユニゾン(※9)のような動きで、
昔あったシューティングゲーム(※10)のように、
本体がそのままもうひとつくっついた状態を、
操作するようなスタイルなんです。

※9
ユニゾン=音楽で同じ高さの音を示す。転じてここでは、プレイヤーの動きと寸分違わぬまったく同じ行動を取ることを指している。
※10
昔あったシューティングゲーム=ここではナムコ(現バンダイナムコゲームス)が1981年にリリースした『ギャラガ』を指す。敵に捕獲された自機を取り戻すと、自機の横に並び、自機の動きに同期して通常の2倍の攻撃ができる。

岩田

自機が2機になって「おれ強い!」感が
味わえたやつですね。

宮本

あれが予想外に3Dでも有効で、
操作する感覚もけっこうわかりやすいんです。
動かすことによって起きる結果は複雑なんだけど、
プレイヤーがすること自体は単純なので、
直感的に工夫しやすいんですね。

宮本02

岩田

そのダブルマリオも、山のようなネタ出しから
生まれたものなんですか?

元倉

それがじつは・・・、
配置ツールでスタッフがまちがえて
プレイヤーのマリオを2人置いてしまって
みつけたものなんです。

岩田

えっ・・・
まちがえて置いたのに、動いてしまった?

元倉

はい。それを見て、
「これ、おもしろいんじゃないか!」
ということで、
そのままゲームに入れてしまいました。

岩田

そんなことが、あるんですね(笑)。
その配置ツールが、マリオを2人置いても動くように
組んであったというところも
じつはすごいことですよね。

宮本

まあ、よく動きましたよね。

一同

(笑)

元倉

本当に偶然なんですけど。

岩田

偶然というより、担当者の設定ミスから
生まれたというのが、また何とも・・・。

林田

ある意味
『マリオ』らしいですよね、すごく。

宮本

そうなんです。いわゆる
“ウラ技”みたいな感覚ですよね。
もし担当者が「まちがったから直しとけ」って
事務的に処理してたら、
いま世に出てないわけです。

岩田

いや・・・、本当にそうですね。

元倉

ダブルマリオは、
ファイア、ブーメラン、タヌキなど
以前からある変身と組み合わせて動かせる
ので、
またそれが不思議な感じを受けるんですよ。

小泉

やたら、意味なく
ファイアボールを投げたくなりますね(笑)。

岩田

見ているとうれしくなるんですね。

元倉

それと、コインがものすごく取りやすいですね。
たくさんのコインをがばっと取る気持ちよさもあるし。

林田

これまでの『マリオ』だと、
どんなにハードの性能が上がって、
たくさんのものや敵が表示できても、
マリオは1人なので、基本的には
単体で対処するしかなかったんですよね。

岩田

じゃあ、「増やしちゃえ」と(笑)。

元倉

そうですね、
味方が増えれば、遊びかたが広がるわけで。
マルチプレイで4人乗って動かすパネルといったネタも
ダブルマリオを増やせば対応できます
し、
ミスから生まれたネタを活かして、
おもしろいものができたと思います。