社長が訊く
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社長が訊く『新・光神話 パルテナの鏡』

社長が訊く『新・光神話 パルテナの鏡』

目次

※6章は、ストーリーに関する具体的な情報を含みますのでご注意ください。

6. メデューサ戦のあと

岩田

桜井さん、今回のパルテナは
メデューサを倒すことが本当の目的ではなく、
そこからまだまだ先があるそうですね。

桜井

そうです。
じつはメデューサ戦のあとのほうが
たくさんのボリュームを用意しています。
メデューサを倒してからの展開のほうが
間違いなく、面白いと思います。
やっぱり事前の情報がない状態で、
パルテナの世界に入ってもらったほうが
より楽しんでもらえるので、
これまで情報をおさえてきました。

岩田

そもそもストーリーモードは、
どれくらいのボリュームなんですか?

桜井

楽しみもあるのでノーコメントにしておきますが、
かなりの物量を太く短く詰め込んでいます。
メデューサ後の展開があるのですが、
今回のテーマのひとつに、
「メデューサ対パルテナのような
 単純な構図にはしたくない」というのがありました。

岩田

シンプルに
「“善と悪の戦い”という構図にはしない」
ということですね。

桜井

悪は悪でよいとは思います。
しかし今作には、
神さまが率いる軍隊が複数登場します。
それぞれに主張や考え方があって、
異なる目的で動いているんです。
 
序盤はピットが属するパルテナ軍と
メデューサが率いる冥府軍との戦いで、
ここまでは善と悪の構図なんですが、
そこに自然の秩序から外れた
人類を滅ぼそうとする「自然軍」が介入してきて、
三つ巴の争いになります。
 
その後、言葉も通じず目的もわからない
外来種、「 オーラム軍」が介入し、
ピットが自然軍と共闘することになったりと、
さらに入り組んだ構図になります。

岩田

まさに混沌とした状態になるんですね。

桜井

でも、争いだけが混沌とするのではなく、
世界そのものが混沌とする展開になります。
じつは、その原因が
パルテナにあったりするんですけど・・・。

岩田

え? 世界が混沌とするのは女神さまが原因なんですか?

桜井

はい(笑)。まあ、詳しくは
実際にゲームで体験してほしいんですけど。
今回、敵味方が入り組むシナリオを書いたのは、
お涙頂戴の物語を表現したいとか、
敵キャラクターを増やしたいからではありません。
単純に「敵を倒すだけ」という宿命を持った
シューティングを展開するなか、
敵が異なる敵を狙う意図や
所属軍の意志を見せることで、
単純にひとつずつ片付けていく展開に
ならないようにしたためです。
これは空中戦の本来のコンセプトとも
よく合っています。

岩田

なるほど。

桜井

でも、今回はそうしましたけど、
わたしはもともと、ゲームにストーリーを入れるような
主義ではないです。

岩田

はい、これまで長く一緒にやってきましたが、
ストーリー性を強く打ち出すことより
他のことを優先するのが桜井さんの主義ですよね。

桜井

実際、主人公をしゃべらすようなことも、
これまでほとんどやってきませんでしたし。

岩田

カービィも声はあてていますが、
意味のある言葉はしゃべりませんし。

桜井

せいぜい、かけ声程度のものでしたから。
でも今回は逆のことをしているわけです。

岩田

今回、桜井さんの主義とは異なることを
徹底して入れたのはどうしてなんですか?

桜井

それは、このソフトにその役割があったからです。
先ほども言ったように・・・。

岩田

あー、ニンテンドー3DSのソフトラインナップを見たとき、
ストーリーを入れたり、
主人公がよくしゃべるようなソフトを
つくったほうがいいと考えたからですか。

桜井

そうです。
じつは今回、すべてのシナリオを
自分で書きました。
そのときすごく気を遣ったのが、
「お話を語ること」ではなく、
「プレイヤーのシチュエーションを変化させ続けること」
だったんです。

岩田

つまり、
「お客さんの前に
 刻々と変化する状況をつくり出す」ということですか?

桜井

はい。たとえば 場面の転換という意味では、
空中戦はとても豊かになっています

同じ章でも、5分の間に見えかたがくるくる変わります。

岩田

たしかに敵と戦いつつ、空を飛びながら、
次から次へと、いろんな状況に変化しますね。

桜井

さらに章ごとに、
なるべく大きく雰囲気が違う舞台設定にしています。
なのでプレイヤーが新しい章に入って、
経験したことのない場面にいきなり入っても、
すんなりその世界に入っていけるように
会話をいろいろ考えました。

岩田

一般的なゲームづくりだと、
新しい局面を迎えたときにムービーを流して、
そのときの状況や目的を説明しますよね。

桜井

今回はそういうことを極力避けようと思いました。
やっぱりお話を語るムービーが長く入ったり、
物語を読ませようとすると、
どうしても遊びのテンポが壊されます。
たとえば、章をはじめる前の
ブリーフィング(簡単な指令)などはありません。
ピットはまず戦場に放り出されて、
空中戦をしながらその章の目的を聞くことになります。

岩田

パルテナさまがいろいろと
説明してくださるわけですね。

桜井

そうです。
また、攻略にも役立てています。
たとえば、 とても巨大な爆弾が人間界に落とされて、
それを食い止めるミッション
があります。

岩田

「何これ? どうしたらいいの?」
という感じになるんですね。

桜井

爆弾を探しながら、
それが自然王「ナチュレ」が街を滅ぼすために
落としたものであることを教えてくれますし、
近づいたら攻略法もガイドしてくれます。

岩田

つまり、めまぐるしく変化する状況に対して、
プレイヤーがその場、その場で対応できるよう、
会話の手法を使ったということなんですね。

桜井

そうすることで生まれる面白さ、
というものが確実にありますので、
今回はそこをうんと掘り下げてみました。

岩田

実際、会話は途切れることがないくらい、
豊富にやりとりされますけど、
ピットの掛け合いの相手に
なぜパルテナを選んだんですか?

桜井

たとえばマスコットキャラクターみたいなのを
ピットの横に置くようなことも考えてみたんですが、やめました。
すごく大まじめで、威を振るっているような女神が、
身近な距離感や言葉でサポートするという設定に
面白さを感じたんです。

岩田

どんなに激しい戦闘のなかにいても、
パルテナは冷徹に話してくるという、
そのギャップが面白いということですね。

桜井

はい。あとは、
「正しいと思えることが
 必ずしも良いわけではないことを、
 少し掘り下げることができないか?」
とも思いました。

岩田

それは、さっきの、パルテナのせいで
世界が混沌とする話とつながるんですね。

桜井

女神からの指示は、正しいものに感じられます。
ただミッションの指示をしてくれるからといって、
たとえば戦闘機の通信のように、
「あの方向に何々の編隊がいるぞ」「ラジャー!」とか
「◯◯に向かえ」「よしっ!」とか、
そういう感じではないですね。

岩田

実際、まるで漫談をしながら
戦っているようなところもありますしね。
「目が疲れたら3Dボリュームをオフにしてね」
みたいなことさえもパルテナは言いますし(笑)。

桜井

それはやっぱり、初代『パルテナ』が
ああいうテイストでしたから・・・。

岩田

「ヤラレチャッタ」テイストに代表されるように、
あんまりマジメじゃないということですか(笑)。

桜井

はい。だから、戦うにしても、
敵の首をとるためにがんばるわけではない、
ということです。
ただ、掛け合いの相手を神さまにしたことで、
敵味方ともにテレパシーで介在できるというのは
とてもプラスになりました。

岩田

たしかに神さまだからできることを
いっぱいしてますね、パルテナさまは。

桜井

そうなんです。

岩田

だから、設定のところで
「ここはどうしてこうなの?」と聞かれても・・・。

桜井

「だって神さまだもん」ということになります(笑)。