社長が訊く
IWATA ASKS

社長が訊く『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇

社長が訊く『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇

第10回:『モンスターハンター3(トライ)G』

目次

3. メインテーマは、母のように

岩田

『モンスターハンター』の音楽は、
画づくりとならんで、
とても重要な役割を果たしていますよね。

藤岡

ええ。『モンスターハンター』の音楽は、
基本的に環境音とプレイヤーやモンスターが出す音だけで、
大型モンスターと対峙したときだけ曲が流れるんです。
一気にテンションが上がったり、
モンスターが離れると音楽がすっと止んで緊張感がほどけていく。
そんなプレイヤーの気持ちとリンクした演出にかかわる部分なので、
音楽は本当に大事だと感じています。
開発中、無音でテストプレイすることも多いんですが、
やはり音楽の有無で、まったく印象が違いますから。

辻本

僕がおもしろいなぁって感じたのは、
そのシーンやモンスターを印象づける
音楽が流れるんですけど、
曲を聴いてそこからお客さんが連想するシーンが
けっこう人によってまちまちなんですね。

岩田

それはどういうことですか?

辻本

おそらく『モンスターハンター』が
アクションゲームだからなんです。
同じ場面・同じ曲でも、
プレイヤーごとに違う経験をしているわけですよね。
だから同じ曲を聴いても、思い入れがちょっとずつ違っていて、
曲から連想するワンシーンまでけっこう違うんです。

岩田

インタラクティブな世界だから、
シーンに対しての記憶の残りかたが人によって違うんですね。

藤岡

そういう意味でもやっぱり、
音楽はプレイヤーの記憶の中にシーンを残す、
重要な要素ですよね。

岩田

幅広い意味では、毎回タイトルごとの
メインテーマもありますよね。

藤岡

この曲を聴いたら、『3(トライ)』だよねとか、
タイトルが、ぱっと頭に浮かぶような
テーマ曲は必ずつくっています。
そのテーマ曲をアレンジして
いろんな場面にしのばせて、
全体の印象をコーディネイトしています。

岩田

映画などでも使われている手法ですね。

藤岡

はい。さらにそれとは別に、
シリーズを通じてのメインテーマとして
おなじみの「英雄の証」があります。
これはCMなどでよく使われている、
聴けば一発で『モンスターハンター』だって、
すぐにわかってもらえるような曲で。

岩田

いま、わたしの頭の中で鳴っています(笑)。
作曲の際、藤岡さんは
どんなリクエストをされるんですか?

藤岡

僕は音楽に関してまったくの素人なので、
コンセプトの話を延々するんですが、
なかなかうまく伝えられなくて。
『3(トライ)』はどっちかというと
父寄りよりは母寄りだよね、
みたいな感じで説明をします(笑)。

岩田

母寄りですか(笑)。
作曲を担当されているスタッフの頭の上に、
クエスチョンマークが浮かんでいませんでしたか?

藤岡

はい(笑)。
あくまでも僕のイメージなんですが、
「英雄の証」は、父寄りなんです。
なんというか、攻めるような力強さ。
それに対して『3(トライ)』のテーマは、
すべてを包み込む母親のような強さなんだ、って
力説した記憶があります。

岩田

禅問答の掛け合いみたいですけど(笑)。

藤岡

そこは本当に難産だったんですが、
結果『3(トライ)』では「生命(いのち)ある者へ」っていう、
僕も大好きな、メインテーマが生まれたんです。
多くの方に「あの曲泣けますよね」って
言ってもらえる、とても良い曲ができました。

岩田

不思議ですよね、
初めて聴くのに泣ける、というのは。

藤岡

はっきりとは言えないんですが、
包み込まれるような、居心地よい世界のイメージが
表現できているのかなぁって思います。

辻本

自分がその地に立って、
世界がここから始まるみたいなイメージを、
さらにもう一歩引いたところ、
まるで空の上から全体を見下ろしてるような感じなんですね。
自分の気持ちというより、
世界そのものが表現されている気がしています。

岩田

辻本さんは、
藤岡さんと作曲担当の方のやりとりの様子を
横で見ていたりするんですか?

辻本

えーと、それほどはないですね。

藤岡

辻本にはどちらかというと、
できた曲を聴いてもらってその印象を聞く、
みたいな感じなんです。
これは音楽に限らないんですが、
辻本は初めての素直な印象を
はっきり言葉にしてくれるんです。
自分たちの中では、
そういった目線で意見をもらえることが
いちばん大事だと考えているので、
意図的に現場には
深く介入させないようにしているんです(笑)。

一同

(笑)

岩田

先ほどからお話をお聞きしていると、
お2人の距離感や分担が独特で
おもしろいですね。
いい意味で機能している感じが伝わってきます。

藤岡

プロデュースする側の目線って、
現場の目線と相容れない部分もありますからね。
適度な距離感でお互いの案を出し合って、
それに意見をもらって、
さらにじゃあこうしたほうがいいんじゃないかって
キャッチボールをして。
同じ目線じゃないからこそふくらむ、
アイデアというのもありますね。

岩田

お互いの役割にリスペクトがあって、
一方で、言いたいことはストレートに言い合う、
という風に見えます。

辻本

そう思います。

藤岡

僕も、辻本から言われっぱなしじゃなくて、
プロモーションそんなんでいいの?
みたいなことはちくちく言ったりしますね。
もう、ちくちくと・・・。

岩田

(笑)