社長が訊く
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社長が訊く『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇

社長が訊く『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇

第10回:『モンスターハンター3(トライ)G』

目次

5. すべてを解決したカスタマイズ

岩田

今回、タッチスクリーンを利用した操作に、
さまざまな工夫が施されていますね。

辻本

はい。操作系のカスタマイズは、
開発の当初からやろうって、決めていたことなんです。
ハードが変わることで、
指の配置が大きく変わるわけですから。

岩田

操作が変わる、という意味では、
Wiiの『モンスターハンター3(トライ)』のときも
クラシックコントローラPROを一緒に
つくっていった経緯がありましたよね。

藤岡

そういう意味では今回、
「指でタッチスクリーンを操作したい」って
真っ先に任天堂さんに相談させてもらいまして。
そこで快くOKのご返事をいただけたので、
もう存分に、使わせてもらいました(笑)。

岩田

基本は、常に右親指を下画面の
ホームポジションに置いて、
そこからいろんな操作をワンタッチでできる、
というものですね。

藤岡

はい、そのタッチで操作する機能自体を
プレイヤーが自由にカスタマイズできるというのが、
今回の大きな特徴なんです。

岩田

そのあたりは、
ニンテンドーダイレクトでご紹介した映像でも
くわしく見ることができますが、
「本当にここまでやるの!?」っていうくらい
カスタマイズ度が徹底していますね。

藤岡

やっぱりアクションゲームとして、
操作の部分がいちばんのキモですし、
『モンスターハンター』の場合、
親指をどこに置くのがベストなんだろうってことは
ずっと考え続けていたことなんです。

岩田

そもそも、手の大きさや指の長さも
大人と子どもではぜんぜん違いますしね。

藤岡

そこで今回まず、
タッチスクリーンを使うことが決まったとき、
いちばんさわるはずの十字ボタンは、
置く位置やボタンの大きさ、変形まで、
かなり自由に調整できるようにしました。
プレイヤーが自分の指にいちばんフィットする形で
遊べるようにしたかったんです。
これは僕が絶対やりたかったことなので、
何とか押し込んで、実現しました(笑)。

岩田

はい(笑)。

藤岡

ショートカットに関しても、
階層を少なくしてシンプルにしつつ、
それ自体を好みで自由な位置に置けるということも
有意義だと考えたんです。

岩田

『モンスターハンター』の場合、
プレイヤーによって遊びかたが違うので、
1通りの提案だけでは
答えにならないんですよね。

藤岡

はい。やっぱりあそこまでやらないと、
カスタマイズできるっていうことに対して
お客さんにご納得いただけないと思っていたんです。
ですからスタッフみんなで意見を出し合って、
「自分がプレイヤーだったら、ここまではいじりたい」
っていうところは、全部つぶしたつもりです。

岩田

藤岡さんのこだわりですね。

藤岡

はい。それからもうひとつ、
今回の大きな新要素としては
“ターゲットカメラ”というものがあります。
通常、カメラリセット(※14)をすると
視点はプレイヤーキャラの正面を向くんですが、
この機能をオンにした状態で行うと、
プレイヤーキャラの向きにかかわらず、
カメラリセット操作をするたびに
大型モンスターを捉えることができるので、
見失うことなく、行動ができます。

※14
カメラリセット=強制的にカメラの視点を初期状態に戻すこと。

岩田

これはどのような
コンセプトでつくられたんですか?

藤岡

もともとシリーズを重ねる中で、
モンスターの動きがだんだん複雑になって、
とくに『3(トライ)』の水中の場面もそうなんですが、
カメラ操作がかなり煩雑になってきてたんですね。
モンスターを追いかけないといけないときに、
カメラを常に操作する必要があって。

岩田

たぶん初めて遊ぶ人が
いちばん最初に感じるハードルはそこですよね。

藤岡

それを改良する良い案がなかなか出なくて、
かといって単純にはできないっていう
ジレンマに悩み始めた頃でした。
ましてニンテンドー3DSは携帯機なので、
そこまでのカメラ操作は難しいと考えてはいたんです。

岩田

はい。たしかにそうでしょうね。

藤岡

でもそれが、
タッチスクリーンを使えることで、
いままで手を出せなかった
「対象物をターゲットする」
といった方法を見いだすことができたんです。
この機能を入れたことで、
カメラの操作量も一気に減っています。

岩田

カメラ操作に拒否反応を示す人に対して
ハードルはかなり下げられますね、これは。

藤岡

そう思います。

岩田

その反面、逆にこれが、
カメラを巧みに操作できる上級者の
優位性を削ぐものかというとそうではなくて、
やはり上手な方の腕の見せ所は
ちゃんと残されているんですよね。
普通、間口が広がると
奥も浅くなってしまいがちなんですが。

藤岡

もともと『モンスターハンター』は
カメラ操作の技量だけが
難易度を隔てるものではないので、
その部分はプレイヤーのレベルに応じて
対応できたほうが絶対いいんです。

岩田

けっして歯応えがなくなるわけじゃない、
ということですね。

藤岡

はい。やりこんでいるプレイヤーの方から
「難易度が下がるんですか?」って
聞かれたりもしているんですけど、
もともとそれが設計の狙いではないですし、
「そこは絶対大丈夫です」「むしろ快適です」って
ずっと答えています。

岩田

開発のスタッフの方々の間でも
カメラはかなりなじんでいますか?

藤岡

なじんでますね。
前のタイトルから携わっている人間も
けっこういるんですが、
一度ターゲットカメラに慣れてしまうと、
前のタイトルには、もう・・・。

辻本

クセがついて、
つい指が動いちゃうんです。
一瞬「あれ動かない!?」ってなって、
その後、「あっ、そうか!」って気づく(笑)。

藤岡

そうそう(笑)。
社内でも完全になじんじゃってて、
あれは元の操作に
なかなか戻れないと思います。

岩田

こういうことって、結果が出た後に
「なんでもっと早く気づかなかったんだろう」
みたいなことがよく言われますけど、
やっぱりそこには何か、
きっかけが必要だと思うんです。
今回の場合は、2画面とタッチスクリーンが
そのきっかけになったんですね。

藤岡

これまでそこに踏み込めなかったのは、
必ずしもプレイヤーの思いどおりに
ターゲットが機能しない可能性があったのと、
結果的に操作の負担が増えてしまうという、
2つの問題があったんです。
それが今回こういう形で、
指で簡単にカメラを切り替えできますし、
プレイヤーの思考と
とてもよくマッチするものができました。
でも、タッチスクリーンがなかったら
絶対生まれなかった仕組みだとは思います。

岩田

今回、わたしが素晴らしいと思ったのは
プレイヤーが不安に感じていた点が、
このカスタマイズひとつで一挙に解決されて、
まったく新しい良さが生まれていることなんです。
手の大きさや持ちかたのバリエーションに、
操作のテンポ感のアップ、
さらには自分が得たい情報の整理といった
すべてに、これひとつで対応しているんですね。
これは問題解決の良いお手本だなぁ、って
強く感じました。

藤岡

ありがとうございます。
9月の東京ゲームショウ(※15)でも、
お客さんに初めて遊んでいただいたんですが、
実際の反響がとてもよかったので、
後でインターフェイスの設計者と
「入れてよかった~!」って
喜びを分かち合いました(笑)。

※15
東京ゲームショウ=2011年9月に行われたこのゲームショウのカプコンブースで『モンスターハンター3(トライ)G』が初めてプレイアブル出展された。

岩田

東京ゲームショウの後、
操作はこれなら大丈夫だな、って
お客さんの心配が
期待に変わった気がしています。

藤岡

僕らもそう感じています。

岩田

そしてその一方で、
拡張スライドパッド(※16)というものを
任天堂から相談させてもらいましたよね。

拡張スライドパッド
※16
拡張スライドパッド=ニンテンドー3DSに取り付け、スライドパッドとボタンを追加する周辺機器。2011年12月10日に『モンスターハンター3(トライ)G』と同時発売。

藤岡

プレイヤーの選択肢のひとつとして、
非常におもしろいものができたと思います。

岩田

そう、選択肢なんですよね。
本体だけでも快適に遊べますけど、
幅広いスタイルに対応するという意味では
「アナログ操作できるパッドが
2つあったらいいのに」という
お客さんも当然いらっしゃいますからね。

藤岡

名前どおりまさに、
“拡張”できるところがいいんですよね。
下画面に置いていた十字ボタンの機能が
右のスライドパッドに充てられるので、
その分、自分が使いたい機能を
さらに下画面に追加して拡張できるんです。

辻本

ゲームに慣れてきた上級者が
ショートカットとかを詰め込んでいくと、
圧倒的にすばやく、使い勝手が良いものになります。
より高度な遊びに発展するというか。

藤岡

自分たちの中では、
アイテムの選びかたひとつとっても、
一定のレベルに行き着いたつもりになっていたんですが、
今回いろいろやらせてもらって、
自分たちの中でも
『モンスターハンター』を分解できたというか、
「壁にぶつかっていたんだなぁ」と
思うところが、いま改めてわかりますね。

岩田

お客さんに、
「本当にいちばん楽しんでもらいたいのは何か?」
「集中するためにはどうすればよいのか?」
を突き詰めて、そこから導き出された答えは、
もっとも“自然”なことでした、
っていうことなんでしょうね。