社長が訊く
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社長が訊く『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇

社長が訊く『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇

第18回:『世界樹の迷宮IV 伝承の巨神』

目次

5. “お客さん”として

岩田

3DSの機能では、どういうところを
『世界樹の迷宮』に活かせると思いましたか?
たとえば3Dダンジョンが
立体視になったときはどう感じましたか?

金田

すごく変わりました。
敵がフィールド上を動いているのが見えますし、
背景に奥行きがあるし、
迷宮の空気を感じられるというか・・・。

岩田

場の空気感が強くなりましたか?

金田

ええ、間違いなく強くなりました。
立体視と非常に相性がよかったので、
今回は戦闘時に、敵も隊列を組ませました。
「見た目の新しさをアピールできるかな」
と思ったんです。

岩田

3DSの通信系はいかがですか?

金田

3DSになって、すれちがい通信(※18)の可能性が増えましたよね。
『III』から踏襲して、プレイ記録を記載した
“ギルドカード”を配れるようにしたんですが、
今作では、お気に入りのキャラクターも入れられます。
しかも受け取った方は、そのキャラクターを
“助っ人”としてパーティに入れられるんです。

※18
すれちがい通信=電源を入れたまま本体を持ち歩くことで、すれちがった人とデータのやりとりができる通信機能。

岩田

するとすれちがい通信で、すごくいいキャラクターを
もらえるかもしれないですね。

金田

そうなんです。
強い敵になかなか勝てないときは、
助っ人の力を借りることができます。
それから今回は「空」という要素を入れているんですが、
その「空」には秘宝がたくさん隠されていて、
その隠し場所は、すれちがい通信などで受け取った
“ギルドカード”から見つけられます。
3DSになってすれちがう頻度が増えたからこそ、
遊びにかかわりの強い要素を取り入れられました。

岩田

それから、はじめてプレイされるお客さんに対しては、
どんなことに気をつけましたか?

金田

『世界樹の迷宮』シリーズは
“歯ごたえのある難易度”が特徴のひとつでもあるんですが、
逆に敷居が高いと感じる方もいらっしゃるんですね。
そこで今回は“カジュアルモード”を入れて、
どなたでも遊んでもらえるようにしました。
逆に、開発側もお客さんの反応が気になるところですが・・・。

岩田

ああ、任天堂にも
『ファイアーエムブレム』(※19)の例がありまして、
戦闘で失ったキャラクターを
復活できるモードを追加したときは、
それはそれは、大きな反響がありました(笑)。

※19
『ファイアーエムブレム』=1990年4月にファミコン用ソフトとしてシリーズ第1作目が発売された、任天堂のシミュレーションRPG。シリーズ13作目『ファイアーエムブレム 新・紋章の謎 ~光と影の英雄~』から、仲間キャラクターが戦闘不能となっても喪失されず、次のマップ以降も使用可能となる「カジュアルモード」が導入された。「カジュアルモード」についてくわしくは、社長が訊く『ファイアーエムブレム 新・紋章の謎 ~光と影の英雄~』を参照。

金田

そうですよね。やっぱり、歯ごたえにこそ
価値を感じる方がいらっしゃるんですよね。
一方でノーマルモードを歯ごたえのある難易度にするため、
カジュアルモードを搭載した、ともいえるんです。
はじめてプレイされる方と従来から遊んでいる方とでは、
どうしても感覚的な差があるので、
ひとつのモードで補うには限界があるんです。
つくり手も、敵が強いほうがゲームとして面白くても、
「プレイできない方が出てくるかも・・・」
ってブレーキをかけてしまうのでは、
『世界樹の迷宮』のよさをつぶすことになってしまいますから。

岩田

でも、今回はカジュアルモードがあるから、
はじめての方でも安心してプレイできるので、
ノーマルモードはぬるくないどころか、
前よりもチャレンジしているわけですよね。

金田

はい、そのとおりです。
「カジュアルモードがあるから、シリーズ同等、
 もしくはそれ以上の難易度でも大丈夫」
と割り切ってつくることができました。
また、「いままでのシリーズが難しくてクリアーできなかった」
という声も聞きましたので、カジュアルとノーマルを
いつでも変更できるようにしています。
つまり、プレイ中に心が折れそうなときも、
カジュアルモードや助っ人など、
頼れるすべがたくさんあるわけです。

岩田

じっくり攻略する遊びかたから、
サクサクプレイする遊びかたまで、
幅が広がったんですね。

金田

はい、ぜひお客さんのお好みで
遊んでいただければと思います。

岩田

わかりました。
さて、開発もいよいよ大詰めですが、
仕上がりはいかがですか?

金田

普通、チェックしながらのプレイって、
わりと楽しくないことが多いんですけど、
今回はフツーに楽しんでいます。

岩田

チェックしているのか、
遊んでいるのかわからないほどなんですか?(笑)

金田

はい(笑)。
スタッフたちも、敵を倒すときに
「この技を使えばいい!」とか
「いや、このキャラを使えば・・・!」
という話し合いを延々とやっているんです。

岩田

ああ、それは子供のころにみんなで
RPGを遊んでいたときの姿そのままですね。

金田

ええ。ニヤニヤしながら聞いていて、
それこそが手ごたえを感じた瞬間でした。

岩田

RPGって、不思議な現象が起こりますよね。
1人でプレイしているはずなのに、
なぜかゲームの話題に関しては、社会性が非常に強くて、
自分の体験を語りたい人ばっかりなんです。

金田

そうなんですよね(笑)。

岩田

自分の体験を語るのは楽しいし、人から聞くのも楽しい。
なぜ『ドラゴンクエスト』で社会現象が起きたかというと、
ゲームのソーシャル性という言葉が生まれるずっと前から、
それが学校や職場で起きていたからなんですよね。

金田

そう思います。

岩田

小森さんは、現状の仕上がりをどう感じていますか?

小森

じつは今回、金田とこれまでシリーズをつくってきた
スタッフに本当に任せていて、
「僕は発売を本当に楽しみにしている」
という状態なんです(笑)。

岩田

ああ、じつはわたしも商品の完成が近づくまで、
意図的に見ないようにすることがあるんです。
「これは現場に任せたほうがいい」と判断したときは、
ほぼ完成したものを見たほうが、
その商品の魅力やアピールポイントを判断できるんですよね。
今回、小森さんは“お客さん状態”で
発売日を楽しみにしているんですね。

小森

はい。できれば
「このまま発売日を楽しみにしていよう!」
と思っています(笑)。