株主・投資家向け情報

2011年7月29日(金)第1四半期決算説明会
質疑応答
Q 5

 ソフトのラインナップが不十分であるというのが3DSの不調の最大の要因と見ているが、改めて、ソフトが十分にそろわなかった理由を分析してほしい。昔から「ソフトが重要」と繰り返し聞いているが、なぜそろわなかったのか。また、サードパーティーさんの立場から見ると、「3Dは労力がかかる割にソフトの魅力につながらない」という見解があるようだが、この点に関しても教えてほしい。

A 5

岩田:

 私たちの描いたシナリオ通りにニンテンドー3DSがスタートダッシュできなかったわけですから、(その原因について)当然さまざまな分析をしておりますし、私たち自身、反省するところはたくさんあります。現時点で私が「あそこがいけなかった」、「ここがいけなかった」ということを仮に申し上げたとして、それが昨今のようにいろいろな形で、部分的に引用され、場合によっては歪められて広まる現状において、「どこがいけなかった」という話を具体的に公の場で申し上げることは今後のニンテンドー3DSのためにならないと思っています。当然反省することは複数ありまして、いくつも考えているのですけれども、その一つひとつを具体的にこうだとこの場で申し上げることは控えさせてください。ただ、少なくとも、6月のE3のタイミングに、私たちが本体機能の更新という形で(インターネットを通じて)ご提供したいくつかの機能が、発売のタイミングに間に合わせられていないといった辺りは大変反省すべきポイントであったと思います。
 ソフト開発において「3Dは労力がかかる」とは、私は必ずしも思っておりません。確かにパフォーマンスチューニング上の労力はかかるという言い方はできますけれども、ゲームの世界がもともと3Dでつくられていれば、3Dで表示をすることそのものはあまり大きな労力がいるとは思っていません。しかしながら、3Dというものの魅力を伝えるのには、当初私たちが感じたより苦戦しているというのは事実です。といいますのは、テレビ宣伝を通じてでは3Dの魅力は伝えられませんし、また、3Dというのには向き不向きが当然あって、3Dの魅力が伝わりやすいコンテンツもあれば伝わりにくいコンテンツもあります。場合によっては、伝わりにくいコンテンツで3Dの魅力をアピールしようとすると、なかなかうまくいかなくて、長く試行錯誤されてしまうということはあると思いますので、その点で労力の割に魅力を出せないというお考えはあるのかもしれません。
 ちなみに、私はゲームソフトの魅力の出し方というのは、ソフトに応じて、バラエティーがあればあるほどいいと思っております。例えば、つい最近、任天堂はWiiで『みんなのリズム天国』というソフトを発売いたしました。このソフトはWiiで遊ぶのですから、通常のみなさんの感覚でいえば、リモコンを振って遊ぶのが普通だろうと思われると思うのですが、実はリモコンを振るという操作を一切中に入れずに、ボタンだけで操作をするゲームになっていて、場合によっては「(ボタン操作だけのゲームなら)どうしてWiiでつくるんだ」、「Wiiにする意味がないじゃないか」というようなお話をいただいてしまうかもしれないぐらい潔く、Wiiらしい特徴はあえて使っていないのです。ただ、逆に遊び手の立場から見ますと、すべてのWiiソフトが同じような形で、同じようなネタを使うよりも、むしろそれぞれのゲームに合った個性を活かしてWiiの別の個性、すなわち、リビングルームの大きなテレビにつながっていて、家族のみんなが触ったことのあるものとして、1人の人が遊んだら周りの人を巻き込むというふうに使えばいいという形で、あえてWiiリモコンの最大の特徴は使わずにボタン操作に絞るというような決断をしました。これはニンテンドー3DSでも一緒で、例えばニンテンドー3DSで3Dの機能を一切使わないソフトが将来生まれたっていいと私は思いますし、私は、そういうソフトを任天堂はきっとつくると思うんです。その代わり、3Dではない別のところをとんがって使う、それは通信機能かもしれませんし、(ジャイロセンサーやモーションセンサーなど)別の要素かもしれません。要は、一つひとつのソフトが個性を持って、違う魅力を持って、お客様に相性の良い方法でアピールするということが大切なのだと思いますので、「3Dの目新しさがだんだんなくなっていくとニンテンドー3DSの価値がなくなってしまう」という心配をしているかというと、私はそうは思いません。一方で、今回年末の主力のソフトと位置づけております『スーパーマリオ3Dランド』と『マリオカート7』は、どちらも大変3Dと相性の良いソフトで、『スーパーマリオ3Dランド』について言えば、奥行き方向に走っていってジャンプしてブロックをたたいたり、何かにうまく乗るということは、『スーパーマリオ64』時代からの、当社の宮本の長年のチャレンジだったのですが、やはり3D表示でないと、そういう操作をしてもお客さんがうまく遊べないということが分かっていたので、今回そういう形で奥行き方向にもチャレンジするということがテーマになっています。『マリオカート7』の3Dについては、E3などの機会にデモプレイされた方の反応を見ていますと、非常に多くの方に3Dの魅力を自然に味わっていただいていますので、その点で今回3Dの魅力が出せると思います。ただ、来年以降も出すソフト出すソフト、「3Dだけが新しさです」ということでお客様に満足いただけるかというと、決してそんなことはないので、ニンテンドー3DSのもう一つの魅力の軸である通信というものについて新しい提案をしっかり組み入れていくということになるのではないかと思います。

Q 6

 ハードとコンテンツの関係が1対1だけではなくて、いろいろなプラットフォームでさまざまなコンテンツができるようになってきている。また、コンテンツは所有するだけでなく消費するものになっている。こういったトレンドを踏まえて、むしろこれを事業機会として捉えて、新しい成長軸として何か外部に当社のコンテンツを提供するであるとか、事業提携の可能性が将来的にあるのかどうか、というところを改めて教えてほしい。

A 6

岩田:

 「ハードとコンテンツの関係が変わってきている」とか、「コンテンツは所有するものから消費するものになっている」とかいうのは、今、一つの流れとして間違いなく世の中で言われていることだと思います。一方で、一つのコンテンツ、それも価値のあるコンテンツは、そんなに簡単に次々と生み出せるのかというと、決してそうではないと思っています。例えば、短期的な業績だけを考えて申し上げれば、当社の看板のソフト資産をいろいろな形でライセンスをすれば、短期的には収益が上がるのかもしれません。ですが、それでそのコンテンツが消費されて価値がなくなってしまった時に、未来の任天堂はどうなるのでしょうか。私が今期の収益だけに責任を持つのでしたら、そういう決断ができるかもしれませんが、任天堂の中長期の展望に責任を持たねばならない立場としては、逆に「いかに消費されない特別なコンテンツをつくり、その価値を維持するか」ということができないと、それこそ任天堂の優位性というのはなくなると思います。また、その時の任天堂の武器は、私たちがつくるコンテンツとハードが一体でご提案できることで、私たちのコンテンツに必要であればハードにそういう機能を仕組んでおくことで、そのコンテンツの価値をより高めることができると思っていますので、原則的に、(たとえ短期的な収益があるのだとしても)私たちが自分たちの持っている知的財産を外にライセンスして出して消費されるものにしていくという考えはありません。
 一方で、任天堂のゲーム機が任天堂のゲーム機とだけしかつながらずに、閉じた関係で良いのかという問題は当然あると思います。例えば、家に帰って任天堂のゲーム機を遊んでいるという方がいて、その任天堂のゲーム機と、友だちの家にある任天堂のゲーム機がつながって、自分と自分の友だちと一緒に遊ぶことでその価値が高まっているとしましょう。そうした時に、私たちのプラットフォームが世の中のオープンなプラットフォームと何らかの形で情報がつながって、家にいない時、例えば出先にいる時に、自分のスマートフォンに友だちが「今晩一緒に遊ぼう」だとか、友だちが「あなたの記録を破ってもっと良いスコアを出した」とかいうような話が(情報として)入ってくるようになれば、それは新たなゲームを始める動機になり得ると思います。そういう意味でいうと、今のインフラとして普及しているスマートフォンやソーシャルネットワークというものにどう取り込まれるか、ということには興味はないのですが、どう活用させていただくかということには大変興味を持っております。任天堂のネットワークについての考え方は、これまで大変クローズドに見えていたと思うのですが、その方向は今大きく変えようとしています。その意味で、時代の変化にはそういう形で対応し、そしていかに私たちの持つソフト資産の価値を維持し、簡単に消費されない構造でビジネスを展開するか、ということが私たちの基本的に考えていることです。

Q 7

 株主還元に関して、今どう考えているかをなるべく具体的に教えてほしい。

A 7

岩田:

 今日(7月29日)も株価が大きく変動しましたので、いろいろなお考えがあるかと思いますが、私は何よりも足下のビジネスの状況を改善して、未来にわたって任天堂のビジネスモデルがしっかり機能するということを、この年末までに証明することが何よりも大切だと思っています。当然こういう席で「自社株買いはどういう局面になったらどういう条件でどうします」ということは、フェア・ディスクロージャー上の問題になりますので申し上げることはできません。「なるべく具体的に」というご質問からすると、私の回答は必ずしも十分ではないかもしれませんが、私は、この年末までにビジネスの環境を変えることで株主の皆様にもご評価いただけるようにしたいと思っているということが第一義で、それをしませんと、たとえ何らかの方法をとったとしても、それは一時しのぎにしかならないわけですから、まずそこに最大のフォーカスを置きたいと思います。その上で、状況に応じて判断をするということが原則です、ということ以上に踏み込んでお話ができないことをご理解ください。


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