株主・投資家向け情報

2011年7月29日(金)第1四半期決算説明会
質疑応答
Q 1-1

 ハードウェアの考え方について聞きたい。今、世の中には二つの流れがあり、一つはソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)に代表される共通のスマートフォンというプラットフォームで伸びていくという流れと、もう一つは、当社のように独自のハードウェアで世界観を表現する流れ。グーグルやアマゾンのようにコンテンツ中心の会社も、ハードに興味を持って独自のハードウェアをつくり出そうという流れもある一方で、今勢いが強いのが、フェイスブックやツイッターのようなSNSに代表される会社だと思う。今回当社がハードウェアを値下げすることによって、さらに普及を加速させることは、どういう意味を持つのか。また、今後、多額の販促費を使うという、岩田社長が描く任天堂のゲーム観というのをいま一度教えていただきたい。

A 1-1

岩田:

 任天堂の業績があまり芳しくない状況が続き、皆様の期待にお応えできていないことの原因として、スマートフォンの影響ということが非常によく語られるようになりました。このことにつきましては、その関係がどのようであるのか、あるいはソーシャルゲームがどのように私たちの業績に影響を与えているのかということについて、私たちなりに因果の有無について繰り返し調べておりまして、つい最近も調べたのですが、これまでと同じように、因果となるものは確認されませんでした。これについては、これまで何度も申し上げてきました(※1)ので、今日は改めて申し上げません。
 一方で、今スマートフォンにおいて、ゲームが非常にたくさんの種類、非常に安い値段で配布されるようになったというのは事実ですから、そこで提供されるゲームと、私たちが提供するビデオゲームというものの価値にあまり大きな差がないのであれば、当然、お客様はお買い求めになりやすい方を選択されると思います。ただ、その動向が必ずしも因果として確認されていないのは、私たちの提案するものの価値とそういうものの価値がイコールなのではなくて、私たちの提案するものに固有の価値があると認めていただいているお客様がおられるからだと思います。
 ちなみにこの第1四半期は売上が振るわなかったのですが、最大の理由は、「この時期にヒットソフトがなかった」ということに尽きると思います。ニンテンドー3DSの発売直後ということで、私たちはソフトについては、ニンテンドー3DSにフォーカスしておりましたが、いくつかのソフトは発売が後ろにずれ込んでしまいました。また、3DSそのもののつまずきがあったことで、それぞれのソフトのポテンシャルも十分に活かせませんでしたから、一番力を入れていた3DSのプラットフォームで結果を出せませんでした。その結果、「この時期は3DSにフォーカスするのだから、WiiやDSのソフトをこの時期に投入するのをやめよう」という判断は、結果的にはうまくいかず、3DSが振るわない中でニンテンドーDSやWiiでもヒットソフトが新しく出ず、以前から売れ続けているソフトも(販売の上位には)見当たらないということで、すべてのプラットフォームの勢いが落ちてビジネス全体が沈んでしまいました。その意味では、新しいプラットフォームの登場期といえども、既存プラットフォームの新作をいかに絶やさず供給するかということが非常に大切であり、「いかに切れ目なくソフトを出せる体制をつくるか」ということが、今後の私たちの教訓でもあります。
 今の流れの中で、「独自プラットフォームというものの価値の継続のために任天堂は何を考えているのか」という意味でお答えしようと思うのですが、まず、任天堂にとっての独自ハードの意味といいますのは、「ソフト主導で、ハードと一体の提案ができる」ということが最大のポイントです。すなわち、ハードとソフトの両方を一つの会社が提案し、ハード開発チームとソフト開発チームが密に連携しながら提案をすることによって、ソフトだけ、あるいはいろいろなプラットフォームに提供するために最大公約数的にソフトの中身の制約を受けるのではなく、一つのプラットフォームの最大の価値を活かせるような「とんがった提案」ができるというのが一番のポイントだと思っています。過去にも、スマートフォンが登場する前の携帯電話にJavaが乗るようになり、ゲームができるようになって、「携帯電話でゲームができるようになれば、携帯ゲーム機は誰も買わなくなりますよ」という話をずいぶんされました。しかし、結果として、任天堂はゲームボーイ、ゲームボーイアドバンス、ニンテンドーDSという流れの中で、常に新しい、携帯電話のゲームではできないことをし続けること、そしてハードを組み合わせた提案をすることによって、その限界を乗り越えてきたと思っています。ですから、今後も任天堂がすることは同じでして、共通の、あるいは最大公約数的なアプローチではできないソフトを創出し、お客様に価値を認めていただけるように提案することで、私たちは、独自プラットフォームの存在意義をこれからも十分に高く維持できると思っています。
 もう一つ、人と人とがつながる、いわゆるソーシャルネットワークの力が、昨今もう一つの流れとして大きな注目を浴びていると思います。ソーシャルというキーワードが、この2年ほど急速に語られるようになって、「任天堂はソーシャル時代に乗り遅れているのではないか」と。そういう意味で言うと、ソーシャルゲームといわれるものについて、ビジネス上興味を持っていないというふうに申し上げることが、ソーシャルゲームブームに乗り遅れているという見方なのかもしれませんが、私の見方は全く逆でありまして、任天堂は以前から人と人とのかかわりについて非常に重視してきた会社です。もともとトランプという遊び道具をつくってきている会社ですから、人と人とをつなぐ遊び道具の会社としてそのルーツがあるわけです。ですから、一つひとつの商品が人と人とをどうつなぐかということは、いつも意識しています。もちろん、インターネットを使ったソーシャルネットワークの仕組みによって、今までつながらなかったような人がつながるようになったということは一つの事実ですが、一方で、目の前のリアルなつながりとバーチャルなつながりの関係をどのようにするかということについては、私はまだ世の中で最適な答えは出ていないと思っています。私たちがしたいことは、今のソーシャルネットワークが提案している形でもなく、また、これまで任天堂がやってきた、目の前にいる人とだけ楽しめるものでもなく、目の前にいるリアルなつながりと、離れたところにいる人とのバーチャルなつながりと、そして今「いつの間に通信」や「すれちがい通信」という形でご提案しているような新しい通信による、同じ場所を共有したり特定の場所に行ったりということで発生する何とも言えないつながりと、いろんなつながりとを組み合わせた結果、より新しく魅力的な人と人とのつながりを提案することが任天堂にとっての大きなテーマです。
 私が描くゲーム観というのは、ビデオゲームそのもので、より多くの人が良い意味でつながり、お互いにポジティブな刺激を与え合い、そして、何か非常に面白いものがあれば、今まで以上に効率よく速いスピードで、お客様と、そのお客様と相性の良いコンテンツが、よりマッチングがしやすくなるような未来を志向しています。そういうことを実現するために、ニンテンドー3DSやWii Uを展開していきますし、また、そういう未来を実現するために、多額のマーケティング経費を使わせていただきたいと思っています。

※1 以下をご参照ください。
2010年9月29日 任天堂カンファレンスQ&Aセッション(A8)
2011年4月26日 2011年3月期 決算説明会質疑応答(A2)
2011年6月29日 第71期 定時株主総会質疑応答(A6)
Q 1-2

 『マリオカート7』など、ビッグタイトルの話は出ているが、一方で、私の所有するニンテンドー3DSの中の『すれちがいMii広場』にいる300人弱のMiiがとらわれの身になっていて、全く動いていない。人と人とのつながりを実感できるようなソフトというのは、近い将来出てくるのか。

A 1-2

岩田:

 『すれちがいMii広場』で、「もうやることがなくなってしまった」とおっしゃる方もかなりいらっしゃると聞いておりますので、近い将来、『すれちがいMii広場』でまた、「ああ、こういうことがやれるようになった」と思っていただけることはもちろん用意しており、これは年内に(お届けすることを)考えています。
 また、せっかく『すれちがいMii広場』にたくさんMiiがいる、それも自分の身の回りの人や自分が出会ったことのある人がいる状態になっているわけですから、これを役に立てるようなソフトを複数開発しています。「『すれちがいMii広場』に多くのMiiがいることが、このように役に立つのか」ということのすべてを、今期中に具体的に提案できるわけではありませんが、今期、来期と、そういうことをテーマにソフトをいくつも用意しておりますので、そこに300人のMiiをためていただいているなら、「ためていただいたことは必ず無駄にはしません」ということは申し上げておきたいと思います。ニンテンドー3DSというハードは、『すれちがいMii広場』に身の回りのたくさんの人がたまっていることが、のちのちのソフトの提案と相乗効果を生み出すように設計されています。

Q 2

 ゲーム機の成功というのは、ユーザーとソフトメーカーと小売店を三位一体で考えなければいけないと思う。今回1万円という、かなり勢いのある値下げを発表したことでユーザーから見ると買いやすくなったが、ソフトメーカーと小売店はどうなのか。小売店に関して言えば、1万円値下げをしたので、1台売った時の利幅が減ったり、値下げのしわ寄せは発生すると思うが、小売店に対して今回、任天堂から何か配慮や施策は打ち出されているのか。ソフトメーカーについては、最近、DSの時に比べると6,000円を超える3DSのソフトがよく見られ、値段が高いという印象を持っているが、例えばサードパーティーに対して製造委託費を考え直して引き下げて、サードパーティーが例えば4,800円で出せる、お求めやすい価格で市場に出せるような配慮をしているのか、ソフトメーカーと小売店に対する施策はあるのかという点について説明してほしい。

A 2

岩田:

 値下げの発表をしてから、日本でも海外でもそのことが伝わり、当然、それは私たちのビジネスパートナーであるソフトメーカーさんや小売店さんに伝わりました。当社の国内営業部門や、それぞれの現地の当社子会社の担当者が、発表後にコミュニケーションをいたしましたので、まず、今回の値下げについて、ソフトメーカーさんや小売店さんは大変ポジティブであったということについては申し上げておきたいと思います。
 ソフトメーカーさんにとっては、ハードの値段が障害になって、「ソフトに興味を持ってもらえてもなかなか買っていただけない」という思いをお持ちだったり、あるいは、「間違いなく普及すると信じて賭けてきたけれども、少し不安になってきた」と感じていた方もおられたようで、その方々から「大変安心した」「これで間違いなくいけますね」というような反響があったと聞いております。一方で、ソフトの値付けの問題に関しましては各ソフトメーカーさんが決められることですから、私は(直接的には)コメントしかねるのですが、お客様が買いやすい値段になるように折り合いがつくような話し合いは、今後いっそう必要になる可能性があるとは思います。しかし、ニンテンドー3DSは、ニンテンドーDSに比べて極端にソフトの製造委託費が上がっているとは、私は認識しておりません。強いてあげますと、(同じROM容量なら3DSの製造委託費の方がDSよりも安く設定しているのですが)3DSのソフトは平均のROM容量が大きいために、特に超大型のソフトについては製造コストが要因になっていることがあるかもしれません。
 小売店さんについてですが、私どもの今回の決算に影響が出た背景の一つに、プライスプロテクション(在庫補償)の実施がございます。すなわち、旧価格で販売した商品の在庫に対して、値下げ分の補償をしなければなりません。そのことが含まれているので、小売店さんからすれば、任天堂はしかるべき配慮をしていると受け止めていただいていると、私は思います。一方で、「値段が下がるから利幅の額も下がるので、それを何とかしてほしい」という気持ちが小売店さんにないと言い切ることはできないかもしれませんが、一方で、私どもも大変な決断をして今回の値下げをしています。今回のことで利幅を特別に配慮するということはなかなかできかねる状況だと思いますので、むしろニンテンドー3DSというプラットフォームのビジネス全体を拡大することで、実際に小売店さんにもメリットを感じていただきたいと思っています。ちなみに、具体的な名前を申し上げることはできませんが、アメリカのある大手小売店さんは、私たちからのニュースを聞いて「クリスマスが来たようだ」と答えられていたそうですから、特別そういう配慮がなくても今回の私たちの政策は非常にポジティブに受け止めていただいていると言って差し支えないかと思います。


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