6. 生「クイズ面白ゼミナール」開講

岩田

水泳をはじめられてから、
鈴木さんのなかで大きな変化があったんですね。

鈴木

ええ、中学2年生のときに選手になりました。
3年生のときは、外房のこの部屋の高さまである荒波で、
2時間の遠泳にただひとり完泳しました。

岩田

わずか2年でですか?

鈴木

はい。で、4年生(※7)のときは長距離の選手になりました。
そして1500メートルに出場しまして、
そのときの1着は誰だと思いますか?
古橋広之進さん(※8)ですよ。

岩田

フジヤマのトビウオの、あの古橋さん?

鈴木

そうです。その頃から彼は有名でした。
記録だけで言いますと、
その古橋さんに競(せ)っていたのが
オリンピックメダリストの橋爪四郎さん(※9)
この2人から、約25メートル遅れて
いつも3着に入る人がいた。
のちに3代前の早稲田大学の総長を勤めた西原さん(※10)です。
その人から、さらに50メートルくらい遅れて、
4着に入る人がいたんです。

岩田

はい。

鈴木

それが鈴木健二さんです。

岩田

すごい!(笑)

鈴木

はっはっは(笑)。

※7

4年生=1941年に制定された中等学校令により、当時の旧制中学の修業年限は4年間だった。

※8

古橋広之進さん=戦後の水泳界で、数々の世界新記録を打ち立て、競技生活を引退したあとは、日本水泳連盟会長や日本オリンピック委員会会長なども歴任した。2009年、世界水泳選手権開催中のローマで客死。

※9

橋爪四郎さん=ヘルシンキオリンピック(1952年)の1500メートル自由形で銀メダルを獲得した元水泳選手。現在、橋爪スイミングクラブ代表取締役社長。

※10

西原さん=西原春夫さん。早稲田大学第12代総長。同大名誉教授をつとめたのち、アジア平和貢献センターを設立し、理事長に就任。

岩田

感動が人をこんなにも変えるんですね。
鈴木さんの、並外れた集中力と記憶力の源は、
そういった感動体験にあったんですね。

鈴木

でも、そうやってわたくしが変わることができたのは
小学校の先生から「思い出がないな」と言われたからですし、
その先生はいろんなことを教えてくださったんです。
たとえばですね、わたくしは1月23日の生まれなんです。
123の生まれなんです。
1足す2足す3はいくつですか?

岩田

6です。

鈴木

6ですね。1掛ける2掛ける3はいくつですか?

岩田

6です。

鈴木

足しても6、掛けても6なんですよ。
数字にはとても不思議な法則があるんですね。
そういったことも小学校の先生が教えてくれたんです。
さっき言った、ものごとを目の前だけでなく、
もうひとつ別の角度から考えるということも、
その先生から教わったような気がしています。

あの、ちょっと話を変えますが、
さっき、わたくしは
小さい人が、ピョンピョン跳んだりするのを見まして。

岩田

はい(笑)。

鈴木

それで落っこちたりする・・・
こちらの製品ですか、あれは?

岩田

はい。『New スーパーマリオブラザーズ Wii』(※11)と言います。

※11

『New スーパーマリオブラザーズ Wii』=2009年12月にWii用ソフトとして発売された、横スクロールのアクションゲーム。

鈴木

あのゲームは左から出てくるからできるけど、
もし、逆に右から出すと、半分の人はできないですよ。

岩田

慣れてないですからね。

鈴木

いや、人間の大脳生理はですね、
まず、自分から向かって左のものを先に見るんです。
それから右のほうを見るようになっているんです。
歌舞伎の花道は必ず左側にあります。
あれ、右側にあったら、歌舞伎を裏から見てるようで
ちっとも面白くないんですね。
それに、ロマン派から印象派までの絵を見たら、
画面の向かって左側に動きの元があるんです。
右は必ず止まっているんです。

岩田

じゃあ、『マリオ』も理にかなっているんですね(笑)。

鈴木

左から出てくるからできるんですね。
そこのホワイトボード、使えますか?
はい、よろしいですか?(ホワイトボードに絵を描きながら)
テレビの画面がありますね。

岩田

はい。

鈴木

真ん中はここです。
でも、人間の大脳生理で見ようとすると、
まず左側をパッと捉えて、それから視点は右に行って、
全体像を捉えようとするんです。
それは人間の生理なんですね。
絵画で言いますと「モナリザ」はですね、こうなっていて・・・。

岩田

左右対称ではないんですね。

鈴木

顔の中心はやや左に寄っているんです。
先に見る左のほうが印象が強いんですね
だから、肩があって、手がこうなっています。
「モナリザ」は何も微笑してるだけの
永遠の女神ではないんですね。
右側には何もなくて、左側に森があるんですよ。
まず左を見て、全体をバッと捉えるんです。
ふつうの印象派の絵でもそれは同じです。
フランス革命のときの
自由の女神が旗を持った絵がありますよね。

岩田

ドラクロアの有名な絵ですね。

鈴木

「民衆を導く自由の女神」です。
左側にいる人に動きがあるんです。

岩田

そうやって見ると、
同じ絵の見え方が変わって面白いですね。
まさに生「クイズ面白ゼミナール」です(笑)。

鈴木

面白いです。
トランプで「神経衰弱」という遊びがありますね。
あれをやるとわかるんですが、
自分の左にあるのはよく覚えてるんです。

岩田

ああ、なるほど。

鈴木

さっき言ったピョンピョン跳ぶのも、
こう跳んで、こう跳んで、うまくいった、
でも、落っこちちゃった・・・。

岩田

(笑)

鈴木

でも、右から出してみてください。
あんなに速くは行けないですよ。
人はどうしても左を先に見ようとするからなんです。
だから、あれの逆を発売したらどうでしょうか?

岩田

(笑)

鈴木

で、よーいドンでやったら、
左にあるほうが勝つんですよ。
0.75秒くらい勝ちますかね。
まだ、そういうのをつくっていないでしょう?

岩田

はい(笑)。

鈴木

ですから、ひとつのものをつくったら、
そこからなおかつ、「これはどうなんだろう?」と
次に考えていくということも大事だと思います。
・・・あ、そろそろ時間でございますね。

岩田

主任教授からの直々のご教授、
本当にありがとうございました。
また、ひとりの大先輩に、こうやってお話を訊けて、
わたしたちとは違う分野ですけど、
やっぱり職人芸であることは共通点があるような気がして、
改めて感動しました。

鈴木

いえいえ(笑)。

岩田

今回は『NHK紅白クイズ合戦』という
Wiiソフトが発売されるにあたって、
鈴木健二さんにわざわざお越しいただいたのですが、
でも、まさか「社長が訊く」で
生「クイズ面白ゼミナール」を見せていただけるとは
思いませんでした。

あの伝説の番組をリアルタイムで体験し、
あのときのことを懐かしく思う方だけでなく、
「クイズ面白ゼミナール」のことは知らないけれども、
「こういう番組があって、
その司会をされていた鈴木健二さんという人はものすごい人で、
当時、日本中の人が毎週のようにあきれるほど驚いてたんだよ」
ということを、親子間で話題にしていただくのもいいですし、
とにかく楽しんでいただきたいと思います。

鈴木さん、ご足労いただきありがとうございました。
お帰りになる前に、ぜひ握手させてください。

鈴木

はい。
(握手して)これでわたくしは
任天堂の社長さんに乗り移りましたよ(笑)。

岩田

あははは(笑)。