社長が訊く
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社長が訊く『Wii U』

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社長が訊く『Wii U』

Wii U GamePad篇

目次

5. 「テレビがもっと魅力的に」

岩田

途中で追加されたNFC(近距離無線通信)(※23)
についてはいかがですか?

※23
NFC=近距離無線通信。NFC対応のカードなどをかざすと、データを読み書きできるシステム。

山下

正直、NFCを含めて、
ここまでWii U GamePadに
機能が載ると想定していませんでした。

岩田

たしかに、多いですよね。

岩本

なんだか、コントローラーをつくっているはずだったのに、
「携帯型ゲーム機の機能が全部載っています」って状態ですよね。

山下

ええ。しかもそれがすべて、
無線通信で動くわけですから。
NFCもTVコントロールボタン(※24)
地磁気センサー(※25)も、
ソフト開発しなければいけないアイテムがすごく多くて大変でした。
ただ・・・NFCに関しては、
われわれも(岩田さんの)発表(※26)を見て
「えっ、発表するんだ!?」ってびっくりしました(笑)。

※24
TVコントロールボタン=Wii U GamePadに搭載されたシステム。家庭のテレビで使用できるリモコン機能を起動することができる。
※25
地磁気センサー=Wii U GamePadに搭載された磁気の向きを検知するセンサー。ほかに、加速度センサー、ジャイロセンサーも搭載。
※26
(岩田さんの)発表=2012年1月27日、経営方針説明会での岩田によるWii Uの新機能についての発表のこと。

岩田

そうだったんですか?
ああ・・・ごめんなさいね(笑)。

一同

(笑)

山下

反響が大きかったので、うれしかったんですけど、
当時はまだ開発が追いついていなくて、
いただいたお問い合わせに対して
「ちょっとお待ちください」と答えるしかなくて、
心の中で申し訳なく思っていました。

岩田

でも、もうすぐ世の中に
提案できるところまできましたね。
手応えと魅力を、それぞれ訊いてみたいです。
どうでしょう、山下さん?

山下

Wii U GamePadの開発中は、無線通信が混信しないように、
必要な場合を除いて、本体とWii U GamePadをケーブルで
つなぐことが多かったんです。
でも、無線にして自宅での動作テストをしてみたときに、
「線でつながってないのに、こんな画像が出るんだ!」
って、改めてびっくりしたんですね。

岩田

自分でつくっておきながらですか?(笑)

山下

はい(笑)。
線がないってことが、自分でもおどろきでした。
ですので、本体で描いたリッチな画像が
線でつながっていない手元のWii U GamePadに出る、
という基本機能だけでも、
おどろいてもらえるのではないかなぁ、と思います。

岩田

はい、伊藤さんは?

伊藤

僕は多分、技術的に知っている方がさわったら、
レイテンシーがない状態に、
とってもおどろいてもらえると思います。
逆に小さなお子さんは仕組みがわからないと思うので、
Wii U GamePad側で画像を表示していると思うくらい、
意識せずにやってもらえる操作感だと思います。

岩田

ある意味、本体から離れて別の部屋に行ってしまって、
「これ、あっちとつながっているんだった!」って
はじめて気がつくといった感じでしょうかね。

伊藤

はい。そこで改めて、
おどろいてもらえるかもしれません。
なので無線でリッチな画像が出ているし、
インターネットにつながるし、
カメラなどいろんな機能が使えるし、
おどろいてもらえる要素はたくさん詰め込まれているので、
楽しんでいただければうれしいです。

山下

実際、Wii U GamePadに映像が表示されるのはかなり速くて、
最近のテレビは、画像処理回路の影響で
入力に対して遅延が発生するものも多いので、
本体と有線でつながっているテレビより、
Wii U GamePadのほうが表示が速い場合があります。
だから手元のWii U GamePadで遊べば、
どのゲームも遅延なく、より快適に操作できると思います。

岩田

「テレビに勝つぞ」という根性が、
ついにここまできましたかね(笑)。

伊藤

はい、根性がやっと実を結びました(笑)。

岩田

前さんはいかがですか?

わたしも伊藤さんとほとんど同じですが、
Wii U GamePadを使ってゲームをよく遊ぶ方から、
小さなお子さん、おじいちゃん、おばあちゃんまで、
リッチな画像のゲームから、格闘ゲームや、
『Wii Sports』(※27)のようなゲームなど、
さまざまなタイプのゲームを遊べます。
そういった面で、本当に任天堂にとって
“誰でも遊べるもの”が実現できたと思います。

※27
『Wii Sports』=2006年12月、Wii用ソフトとして発売されたスポーツゲーム。

岩田

はい、伊吹さんは?

伊吹

Wii U GamePadのデザインコンセプトは
“コントローラー”なので、世の中にある
パッドとは違う、任天堂の意地というか、
気持ちが詰まったものになっているので、
ぜひさわっていただきたいです。

岩田

「ゲームを遊ぶならこれだ」ってことですね。

伊吹

はい。「ゲームを遊んでほしい」と、強く思っています。
楽しく遊べることはお墨付きなので、自信を持って言えます。

岩田

はい、岩本さんは?

岩本

やっぱり「ゲーム機として何が新しいのか?」
っていうところです。
普通ならコントローラーにはないような、
携帯型ゲーム機に付いている機能を
全部付けちゃったことで
テレビゲーム機の体験がどう変わるかですね。
 
まず、テレビを観ながら手元の画面を観るというのは、
いままでとぜんぜん違う体験で、
ふたつの視点をプレイヤーに提供します。
ふたつの視点を使うことで、
まったく新しいゲームの体験がつくれると思いますので、
今後、それをうまく活かしたゲームを遊べることが、
すごく楽しみです。

岩田

そうですね。

岩本

あとは、カメラですね。
はじめて無線で、カメラに映っているものが画面に出たとき、
「ああ、これは面白い・・・」と思いました。
カメラが標準で付いているゲーム機って、
携帯型ゲーム機にはこれまでもあったんですけど、
テレビゲーム機の場合、
カメラは後付けで販売する場合がほとんどで、
しかも有線接続になっています。
それがコントローラーに標準で付いているうえに、
無線接続で動かすことができるので、
ゲームにとってまったく新しい形の入力になると思います。
すごく苦労しましたけど(笑)。

岩田

カメラの信号を送るために、
専用の無線通信ICを付けられたら、
これほど苦労せずに済んだんでしょうけどね。
画像転送のために使っている無線通信ICに、
カメラデータの画像転送も割り込ませたわけですが、
原理的な大変さはある程度予想していたんですけど、
カメラがしっかり動くようになるまでの時間を見ていて、
「苦労したんだろうな」って思っていました(笑)。

山下

開発初期に「このスケジュールではきびしい」という話があって、
じつは一瞬だけ、カメラがなくなった時期があったんです。
でもその後、「静止画だけでもなんとかしたい」とか
「5フレーム/秒でいいから」とかちょっとずつ話が出てきて、
けっきょく「やっぱ30フレーム/秒ほしいよね」となり、
すぐに復活しました(笑)。

岩田

周囲からにじりよるように、
カメラ対応仕様を入れられてしまったわけですね。

岩本

E3までは「本当にどうしよう」って状況だったのが、
去年の夏から秋にかけてガーッと頑張って、
「あ、動いたーっ!」ってときは、感激でしたねぇ。

山下

(しみじみと)そうですねぇ。

伊藤

カメラは“圧縮と展開を2回くり返して無線転送を行う”
という、かなり長い経路をたどっているんですけど、
ほとんど遅延が感じられないんですよね。

岩田

Wii U GamePadで撮影したカメラ画像を圧縮して
Wii U 本体に送って展開し、
Wii U本体で画面に表示する映像を生成して圧縮して、
Wii U GamePad 側に送り返して展開した画像を画面に表示する、
という流れですね。

岩本

はい。普通は、Wii U GamePadのカメラで撮ったものだから、
そのまま液晶画面に表示しているように感じられますけど、
実際は、Wii U本体に送られて、
処理をされて、戻ってきているんです。
それでもほとんど遅延を感じないようにできています。

山下

カメラと同じことがタッチスクリーンでも言えるんですが、
“絵を描く”って行為も同様に、
Wii U GamePadへタッチ入力したデータを本体に送って、
処理をしてから映像として送り返されているんですよね。
でも、最終的には「手触りがよくなったなぁ」と思います。

岩田

少し技術に覚えがある方は、
このチームが取り組んだことの価値が、
もう一段、深くわかっていただけるかもしれませんね。
わたしは、Wii U GamePadについて、
現段階でふたつの側面を感じています。
ひとつは、
「ほかの人がテレビを使っていても遊べるテレビゲーム機が、
 はじめてできた」ということ。
もうひとつは、
「テレビとWii U GamePadをセットで使うと、
 テレビがもっと魅力的になる」
ということなんです。
 
でもそれは、Wii U GamePadをつくった人たちの、超泥臭い、
根性ワーク的な努力の積み重ねによってなされています。
天才がひとりいて、全部解決したのではないところが面白いです。
だから竹田さんの「最後はガッツなんです」という発言が、
改めて深くかみしめられると思いました。

山下

“最後はガッツ”っていうのは本当でしたね(笑)。

岩田

今日はありがとうございました。

一同

ありがとうございました。