社長が訊く
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社長が訊く『カルドセプト』

社長が訊く『カルドセプト』

目次

5. “広がる仕組み”ダウンロードプレイ

岩田

齋藤さん、お待たせしました。
じつはこのプロジェクトに関しては、
任天堂の現場の担当者が決まったのは
けっこうあとだったんですよね。

齋藤

はい。そうでした。

岩田

これはめずらしいケースで、
たとえば齋藤さんが以前、手がけた
『押忍!闘え!応援団』(※15)のように、
普通は現場と、現場が組んだチームから
企画が出て、ある程度手ごたえができたところで
プロジェクトがはじまるんですよね。

※15
『押忍!闘え!応援団』=2005年7月にニンテンドーDS用ソフトとして発売されたリズムアクションゲーム。

齋藤

はい。

岩田

でも、今回はまったく真逆で、
「こういうことにしたから担当よろしく」って、
突然降ってきた仕事ですよね。
実際、どう思いましたか?

齋藤

「通常のプロジェクトのかかわり方と、
 ちがうやり方をする必要があるな」と思いました。
この話を受けた時点で、
DS版はかなりできていたのに
ほぼ一からつくり直す、
というところからのスタートでしたから。

岩田

ちなみに齋藤さんはそのときまだ、
『カルドセプト』未経験者だったんですよね。

齋藤

はい、そうでした。

岩田

じつは企画開発部で担当を決めるとき、
「コアなファンもいるだろうけど、
 ファンの人だけが担当しないほうがいい」と、
わたしからリクエストしたんです。
もともとすごい方がいらっしゃるわけだし、
チームには初心者の代表が必要と思っていたので。

齋藤

そんなわけで、今回のかかわり方として、
わたしの中では2つのポイントがありました。
1つは大宮さんが
開発に集中できる環境づくりです。
そもそも、ゲームの中身に関しては
我々任天堂の担当者が、
「バランス」や「カード能力」などに
細かく口を挟むところはなかったんです。

岩田

まぁ、そんな細かいことは言わなくても、
実績とノウハウを持った人たちが
つくり込んでるわけですからね。

齋藤

その領域に口出しする必要がない以上、
あとは限られた期間の中で、
スムーズに開発を行っていただくお手伝いに徹しました。
そしてもう1つが“背中を押す”役目です。

岩田

それは、具体的に言うとどういうことですか?

齋藤

過去のシリーズをプレイさせてもらって、
もちろん丁寧につくられてはいるんですが、
「任天堂の考え方ではこうあるべき」という点が
いくつかあったんです。今回、
「初心者に入りやすく」と、
「さらに遊びやすく」を大事にしていて、
わかりやすい情報の提示の仕方、
たとえば自分がダイスを振る前に、
何マス先に何があるっていう
“歩数ガイド”があったら便利と考えたんです。

岩田

はい。

齋藤

それで、その話を大宮ソフトさんにしたところ、
「そんなことはわかっています!」と言われてしまって(笑)。
大宮ソフトさんは、
お客さんの要望や不満はぜんぶ把握されているんですが、
対応すると別の箇所に問題が起こったり、
時間的に対処する余裕がなかったりと、
そこにはいくつもの理由があったんです。

岩田

「気づいてないことは、ない」というわけですね。
「『カルドセプト』について任天堂が
 指摘するところはお見通し」ということですね(笑)。

一同

(笑)

齋藤

いや、本当にそうだったんです。
「それはやりたいけど、
 ××の理由で見送ってます」みたいに
ほとんどのことはすでに検討されたあとでした。
ただ、その中でも、時間があれば解決できるものなら
「この開発期間を見込むので、
 今度はやりましょう」と、お願いしたんです。

岩田

任天堂の側から、時間の問題を
つぶしにいったわけですね。

齋藤

なかなか答えが見つからず保留にされていたものも、
どういった落としどころならできそうか、
再度検討いただきました。

岩田

鈴木さん、そういう意味で、
任天堂がしたことは、お役に立てましたか?

鈴木

もちろんです(笑)。
今回、まず第一に、
任天堂さんの商品として出るわけですから、
それに対して僕らとしても
全体のクオリティの底上げをしたい気持ちが
当然、ありました。
そのためのお時間をいただいて、
隙(すき)を埋めることができたのは、
本当にありがたかったです。

岩田

でも、そこはもし、
任天堂が単に時間を取って隙を埋めるだけなら、
ただ全体がまるくなってしまいますよね。
トガったところはトガったままじゃないと、
『カルドセプト』じゃないわけで。

鈴木

そうですね。そういう意味では
自分たちの優先順位が高いところに
負担がかからずに、より磨き上げられましたし、
全方位的なクオリティラインを、
高い値で揃えることができた手ごたえはあります。

齋藤

じつはひとつだけ、
任天堂から仕様面で「これだけは」と
お願いしたことがありまして。
それが“広がる仕組み”についてなんです。

岩田

さきほど武重さんが話されていた
ダウンロードプレイに関してですね。

齋藤

はい。僕自身、
今回はじめて『カルドセプト』を遊んでみて、
本当におもしろいと思ったんですが、
それと同時に人にお勧めすることが
難しいソフトだと思ったんです。

岩田

「こんなにおもしろいと言われているのに、
 広がりが限定的なのはなぜなんだろう?」
「何か広がりを阻害している原因があるなら、
 取り除くためにできることを徹底してやってみよう」
っていう、任天堂側からのアプローチなんですよね。

齋藤

はい。もし3DSでダウンロードプレイが
快適に遊べたとしても、
そのまま熟練者と初心者の対戦では、
まず間違いなく、
初心者がコテンパンにやられてしまいます。
それではむしろ広めることの、
逆効果だと思ったんです。

岩田

または、熟練者が超接待プレイで、
事務的におもてなしするか・・・。
でもそれはそれで、しんどいですよね。

齋藤

そうなんです。
それで、検討いただいた結果、
熟練者と初心者の2人が一緒のチームになり、
協力して敵を倒す仕組みにしました。

岩田

広めたい人と広められる人が、
互いに向き合って戦うんじゃなく、
一緒に敵を倒すというスタイルにすれば、
魅力も伝わり、紹介する側もされる側も楽しい。
良いことづくめ、なわけですね。

齋藤

協力できる内容も本作から大幅に増えて、
熟練者が初心者を
協力プレイを通してせっせとお世話ができるんです。
それにダウンロードプレイ自体は、
4つのシナリオ仕立てになっていて、
その4戦を通して体験されたら、もう
お店に駆け込んでいただけるにちがいない、
くらいに思っています(笑)。