社長が訊く
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社長が訊く東北大学加齢医学研究所 川島隆太教授監修 
ものすごく脳を鍛える5分間の鬼トレーニング』

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社長が訊く『東北大学加齢医学研究所 川島隆太教授監修 ものすごく脳を鍛える5分間の鬼トレーニング』

川島隆太教授 篇

目次

5. 『脳トレ』と『鬼トレ』の違い

岩田

「今回の『鬼トレ』は、若い方によりやってもらいたい」
と感じておられる理由はなぜですか?
というのも、以前の『脳トレ』は
年を取るにつれて脳は衰えていくから、
定期的に刺激を与えればスマートに年が取れる、
というご提案でした。

川島

まず、以前の『脳トレ』と
新しい『鬼トレ』の違いを明確にしておくと、
『脳トレ』のほうは、
ワーキングメモリーの処理速度のトレーニング(※11)なんですね。
で、『鬼トレ』のほうは、
ワーキングメモリーの容量を大きくするトレーニング、
というふうに位置づけています。
じつは若いころは、処理速度は相当速くて、
年とともにグッと落ちてしまいます。
ですから、年配の方たちの処理速度を
持ち上げるのは、大いに意味があります。
一方、若い方たちはもともと速いので、
速くはなりますが、それほど伸びしろはありません。

※11
『脳トレ』のほうは、ワーキングメモリーの処理速度のトレーニング=以前の『脳トレ』のすべてのトレーニングが処理速度のトレーニングというわけではありません。ソフト内では、処理速度のトレーニングになるものは「鬼トレ補助」、それ以外は「脳トレ」という名前で収録しています。

岩田

はい。

川島

ところが容量は、加齢とともに下がるんですけど、
若い方も年を取った方も、じつはあまり変わらないんです。
心理学でよく言われているのは、
我々が一度にものを覚えられるのは、平均7個と言われています。

岩田

なぜ電話番号が7ケタ(※12)だったのか、
という説明に、よく出てきますね。

※12
電話番号が7ケタ=かつて東京と大阪では、市外局番を除きXXX-XXXXと7ケタの電話番号地域であったが、番号の逼迫に対応するため、2012年7月現在は1ケタ増やしてXXXX-XXXXと8ケタ化するよう変更された。

川島

まさにそうです。
若者も60~70歳の方も、ほぼ平均7個なんですよ。
若者は7から8、9のところで、
年を取った方は7から6、5ぐらいという、
もともとそれぐらいの緩やかな差しかないんですね。
でも、トレーニングをすると何倍にも伸ばせるんです。
実際に『鬼トレ』で“Nバック課題”をやっていくと、
普通の方の記憶の限界は、だいたい2つなんですが、
約10倍まで、伸びるようになります。

岩田

10倍ですか!

川島

はい。ですから、それを伸ばせば、
いろんな可能性が開かれます。
つまりワーキングメモリーの容量は、
若者と年配者であまり差がなく、
伸びしろがものすごく大きいんです。
さらにこの伸びしろは、若い方のほうがより大きいんです。

岩田

川島先生は「自分のためにつくった」
という一面も持っている『鬼トレ』ですが、
多分、若いときに出会いたかったでしょうね。

川島

そうですねぇ。
僕が若いときにこのソフトを使っていれば、
いまと違うステージにいる自信があるぐらい、
伸びるものです。

岩田

“ワーキングメモリー”というものは、
「単に電話番号を何ケタ覚えられるか?」
といった単純な話ではないんですよね。
ワーキングメモリーの容量が大きくて働きのいい人と、
そうでない人とでは、同時に
頭に入れておけるものの件数が違うだけではなくて、
試行錯誤しながら取捨選択していく判断力や
いろんなものの組み合わせが有効かどうかを処理する力が違ったりします。
そのため、仮に同じ知識量があっても、
同じ時間で考えられることの深さと幅が変わりますね。

川島

そうですね。
多分これを聞いてくださっている方々、
見てくださっている方々にもわかりやすいのは、
コンピューターのイメージなんですね。
「メインCPUがどうなる」って話だと思ってもらうと
わかりやすいかもしれません。

岩田

はい。

川島

『脳トレ』は、クロック周波数(※13)を上げて処理速度を速くする。
で、一方『鬼トレ』のほうは、
RAM(※14)の容量を増やすということです。
RAMが小さければ、
どんなに速いCPUを積んでいても、フリーズするんですね。
情報量が入りきらなくて・・・。
で、これじつは、『鬼トレ』をやってもらうと、
多分、岩田さんも感じたと思いますけど、
フリーズして、中のメモリーが揮発(※15)してしまうっていう体験を、
されていると思うんですけど(笑)。

※13
クロック周波数=コンピューター内部の各回路間で処理の同期を取るためのテンポのこと。クロック周波数が高いほど、処理能力も高くなる。
※14
RAM=Random Access Memory(ランダムアクセスメモリー)。コンピューターに使用される記憶装置のひとつ。
※15
揮発=消えてなくなること。

岩田

先ほどの“Nバック課題”は
「鬼計算」という名前でソフトの中に出てくるんですが、
計算問題が出てきて順番に解いていくんですが、
普通と違うのは、2つ前、3つ前、4つ前、5つ前の
計算結果を、いま書かなきゃいけない
んですね。
で、頭の中でそれを、
記憶されている数字をずらしながらやるんですが。
その途中で、人に話しかけられようものなら、
一瞬で頭の中が真っ白になって、1回くずれると、
ボロボロになるんですよね、その瞬間に。
「こんなに集中すること、日常生活じゃ絶対にないわ」
っていう状態で、やるんです。
だから、濃密な5分間ですよね。

川島

はい。ですよね。
「自分の記憶が消去される」っていうのを、
多分、生まれてはじめて、きれいに認識されたと思うんですね。
持っていたはずのものが、いっぺんにサッと消えて・・・。

岩田

何個もいっぺんになくなって、
1個も思い出せないんですよ(笑)。
あの感じが独特で。

川島

それがまさに「揮発性のメモリー(※16)」です(笑)。
RAMの感覚にすごく近くて、ずっと保持はできません。
そこで『鬼トレ』で容量を大きくして、消えづらくします。

※16
揮発性のメモリー=電源を切ると、記憶内容を消去してしまう半導体メモリー。

岩田

さっきまで数字がきれいに並んでいたのに、
そこに別の人の言葉がボンッと割り込んできて、
塗り替えられちゃうのは、
容量が十分にないからなんですね。

川島

そうです。
容量が大きければ、話しかけられても
片方の処理は中断せずに行えます。
昔のコンピューターは並列処理がまったくできませんでしたが、
いまはRAMも大きくなって、
並列処理もできるようになりました。
我々の脳は、いわば昔のコンピューターなので、
「鬼計算」は、脳を現代のAppleやWindows7に変えてくれるアイテム、
という感覚を持っているわけです。