社長が訊く
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社長が訊く東北大学加齢医学研究所 川島隆太教授監修 
ものすごく脳を鍛える5分間の鬼トレーニング』

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社長が訊く『東北大学加齢医学研究所 川島隆太教授監修 ものすごく脳を鍛える5分間の鬼トレーニング』

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開発スタッフ 篇

目次

1. 「Nバック課題」

岩田

今回の『鬼トレ』の開発には
わりと長い時間がかかりましたよね。
細く長く、という感じだったんでしょうか。

高橋

細くはないかもしれないです。

北村

どちらかというとガッツリと・・・。

高橋

現場にとっては太かったよね。

北村

ええ。太く長く、という感じでした。

岩田

前回の『脳トレ』(※1)のときは、
短い期間で2本続けて
ポンポンとつくったわけですが、
いまはあの当時とはまったく環境が違いますし、
今回は、決してやさしくないテーマでしたよね。
今日は、どんなことを試行錯誤し、
いかにして『鬼トレ』ができたのか、
という話を訊かせてもらおうと思います。
よろしくお願いします。

一同

よろしくお願いします。

※1
『脳トレ』=『東北大学未来科学技術共同研究センター川島隆太教授監修 脳を鍛える大人のDSトレーニング』。ニンテンドーDS用ソフトとして、2005年5月発売。『もっと脳トレ』は同年12月に発売された。

岩田

それでは簡単に自己紹介をお願いします。

高橋

ゼネラルプロデューサーの高橋です。
開発の大きな流れを見つつ、
そのときどきで、
「この方向でいいのか」といった判断をしたり、
アドバイスする役割を担当しました。

河本

プロデューサーの河本(かわもと)です。

岩田

河本さんは、『脳トレ』シリーズでは
ディレクターという肩書き

バリバリとコードも書いていましたが、
今回もコードを書いたりしたんですか?

河本

はい。最初の試作ではコードを書きました。
あと、開発の後半の詰めのところで
「ああだこうだ」と、スタッフから嫌がられる
ツッコミをやっていました(笑)。

北村

今回はディレクターを担当しました北村です。
この中ではいちばん長く、『鬼トレ』に関わりました。

伊藤

ディレクターの伊藤です。
わたしは開発の途中から、プログラマーとして
このプロジェクトに参加したんですけど、
プログラムだけでなく、いろいろと担当しました。

岩田

伊藤さんが加わってから、どれくらい経ちましたか?

伊藤

1年半くらいになります。

岩田

開発のほぼ半分ということですね。
そもそも『鬼トレ』の開発は、川島先生から
「こういうものをつくってほしい」という
試作ソフトの制作のご相談がキッカケで
はじまったんですよね?

河本

そうです。
もともとは大学の研究に使われているソフトで、
次々と計算問題が出されて、
N個前の問題に答える「Nバック課題」(※2)
というトレーニングをするものでした。
それを「DSに移植してほしい」という依頼を
3年くらい前にいただいたのが最初のキッカケです。

高橋

だから最初はゲーム用ではなく、研究用でした。

※2
「Nバック課題」=たとえば、次々と出題される計算問題で、いま提示されている問題に答えるのではなく、N個前に提示された問題に答えるトレーニング。1つ前の問題に答えるのを「1バック」、2つ前の問題に答えるのを「2バック」・・・と言う。

岩田

その研究用につくった試作ソフトがキッカケで、
川島先生の中で応用のアイデアが固まっていき、
そのあと本格的なゲームの提案があったわけですね。

高橋

はい。確か、2010年の
バンクーバーオリンピックが開かれる前のことでした。

岩田

前回の川島先生の回でも紹介しましたが、
DSに移植した大学研究用のソフトを、
オリンピックの強化選手に試してもらったら、
事実、その選手がどんどん記録を伸ばして、
周囲を驚かせたという話でしたね。

河本

そうです。
そのときに、「Nバック課題」を続けることで、
実際にワーキングメモリー(※3)
鍛えられていそうだ、と思いました。

岩田

ただ、そのときに、
「これは、簡単なテーマではない」と、
おそらくみんなが感じたはずなんです。
確か河本さんがその試作ソフトを実際にやってみた感想として、
「とってもきついんです!」と言っていましたよね。

河本

そうです。わたしは長いこと
『脳トレ』をつくってきましたので、
それなりに自信を持っていたんです。
でもそのときの試作ソフトを実際やってみると・・・
凹みました(笑)。

岩田

『脳トレ』の達人でも凹んでしまった。

※3
ワーキングメモリー=作動記憶。情報を一時的に保ちながら操作・利用する記憶の過程をいう。ある目的を持って記憶した状況を、自分の中の複数の情報と照らし合わせて適切な対応をする脳の働き。

河本

「こんなものがこの世にあるのか・・・」と、
唖然としてしまうくらい、すごく疲れてしまったんです。
午前中にやると、午後には
家に帰りたくなってしまうくらいで(笑)。

岩田

(笑)。
でも、いま思うと、長い時間やりすぎていた、
ということはありませんか?

河本

あ、それはあったと思います。
つくりながらテストしますから。
ただ、それだけじゃないです。
この「Nバック課題」は、
計算して、その答えを記憶する、という2つのことを
同時に行うしんどさがあるうえに、
難易度が自動的に調整されるようになっていたんです。

岩田

はい。

河本

つまり、こちらが上手になると、
ゲーム側も難易度を上げてきて、
こちらが失敗すると難易度を下げてくる、
というシステムで、それがすごくしんどく感じたんです。

岩田

つねに限界ギリギリが求められるんですね。

河本

楽をさせてくれないんです。

高橋

試作ソフトはまさにそうでしたね。

河本

“慣れるということを許さない”といいますか。

岩田

当時は『鬼トレ』という言葉が生まれてないですけど、
まさに“鬼のようなトレーニング”だったわけですね。

河本

でも、やみくもに難しいわけじゃなくて、
できないときは、できるように、
プレイヤーに合わせて難易度を下げるようなシステムは、
「ちょっと面白いな」と思いました。

岩田

“難易度をお客さんに合わせる”というのは、
わりと最初から出てきたアイデアだったんですか?

河本

それも、もともとのソフトにはじめから入っていました。
そうしたほうがトレーニングの効率がいいようなんです。

岩田

トレーニングとして、
理に適っているということなんですね。
で、バンクーバーオリンピックのあとに、
その「Nバック課題」をもとに、
ワーキングメモリーを鍛えるトレーニングを
いろいろ考えて、こちらから川島先生に
ご提案するフェイズに入ったわけですね。

河本

はい。でもわたしは、その時点で
3DSの本体チームのほうにシフトしていたので・・・。

岩田

あ、そうか。
3DSの本体チームに移って、
「すれちがいMii広場」や「ARゲームズ」(※4)などを
つくっていた
んですよね。

河本

はい。なので、そのあとは
北村さんにバトンタッチしました。

※4
「すれちがいMii広場」や「ARゲームズ」=ニンテンドー3DSに内蔵されているソフト。「すれちがいMii広場」は、すれちがい通信ですれちがった人のMiiが集まってくる広場のことで、相手のプロフィールを見たり、『すれちがい伝説』などを楽しむことができる。「ARゲームズ」は、ニンテンドー3DSカメラでARカードを映すことで、あたかもカードの周りに世界が存在するような遊びを楽しむことができる。

岩田

河本さんからバトンを受けた北村さんは、
最初にどんなことを考えましたか?

北村

あまりにもきついトレーニングなので、
「きついのを売りにするしかない」と思いました。

岩田

「きついことを逆に売りにしましょう」
ということですか?

北村

そうです。
世の中にはきつければきついほど
やりがいを感じる方も一定数おられると思いますので、
そういう人たちに向けて
「今回は割り切ってつくろう」
と考えました。

岩田

そのとき、ここまで開発期間が
長くなると思っていましたか?

北村

いえ、まったく思わなかったです。

岩田

サクッとつくるつもりだったんですね(笑)。

北村

はい。
「3、4か月くらいでサクッとつくって
 DSで出しちゃおう!」みたいな感じでした。

岩田

ところが・・・。

北村

はい、そうはなりませんでした。