社長が訊く
IWATA ASKS

社長が訊く東北大学加齢医学研究所 川島隆太教授監修 
ものすごく脳を鍛える5分間の鬼トレーニング』

シリーズ一覧

社長が訊く『東北大学加齢医学研究所 川島隆太教授監修 ものすごく脳を鍛える5分間の鬼トレーニング』

開発スタッフ 篇

目次

2. 迷走

岩田

最初にサクッとつくろうとしたのに、
どうして時間がかかってしまったんですか?

北村

これまでの「楽しく脳を鍛える脳トレ」から、
いきなり「厳しく脳を鍛える」ものにしてしまったときに
「いままでのシリーズと同じ気持ちで、
 お客さんが手にするのは良くないんじゃないか?」
という話になりました。そこで、
「パッと見てわかるくらいイメージを大きく変えよう」
と考えて、試行錯誤がはじまりました。

岩田

どんな試行錯誤がありましたか?

北村

いちばん最初に提案したのは、
“きつさ”をわかりやすく前面に出した、
その名も『地獄の脳トレ』というものでした。

岩田

タイトルロゴが目に浮かびますね(笑)。

河本

しかも、川島先生の頭の上には
火山がのっていて、怒ったら噴火するんです。

北村

ドーンと。

岩田

そこまでやりましたか(笑)。

北村

はい(笑)。
ということを、最初に提案したんですけど、
それだと従来の『脳トレ』ファンの方々が
手にも取らないようなものになってしまって・・・。

岩田

きつさを前面に出すとはいっても、
ちょっとやりすぎたんですね。

北村

そうです。そこで、
「厳しいトレーニングではあっても、楽しいものにしたい」
ということになりまして、いろいろ考えてみたんです。
たとえば「ストーリー仕立てにしてはどうか」とか、
「育成ゲームにしてはどうか」とか・・・。

岩田

え? 『脳トレ』が育成ゲームですか?(笑)

北村

はい。

高橋

あの当時はものすごい企画もあったよね。

北村

はい、ありました(笑)。

岩田

どのようなものですか?

北村

ちょっと言うのが恥ずかしいんですけど、
たとえば萌えキャラを・・・。

岩田

萌えキャラを?

北村

育てるんです。

岩田

『脳トレ』で?

北村

はい。

岩田

いったい誰が買うんですか!?(笑)

一同

(笑)

高橋

あと、タレントさんを出すような話も。

北村

はい。イジられ役のタレントさんが
テレビでわりと人気だったりしますよね。
そのタレントさんを実写で出して、
最初はボケボケキャラだったのが、
やがて切れ味鋭くなっていくとか。

河本

あるときは小動物もいましたよね。
鳥でしたっけ?

岩田

鳥ですか?

北村

はい、なぜか鳥を育てるんです。
それにロボットを強くしていくという企画もありました。

高橋

あの当時は何でもありだったんです。

岩田

まさに迷走です(笑)。

北村

はい。半年以上、迷走していました。

岩田

で、北村さんが迷走している間、
高橋さんや河本さんたちは
3DSの開発で忙しかったので、
十分にかまってあげることもできなかったんですね。

河本

そうなんです。
北村さんの提案を受けて、
「それじゃダメだと思います」とは言えるんですけど・・・。

岩田

「その先に答えはないよ」とは言える。

河本

ええ。でも・・・。

高橋

3DSの開発にかかりっきりで時間もとれず、
正しい方向を示すことができなかったんです。

河本

だから、半年間、北村さんには
とても苦労をおかけしたと思っています。

岩田

その半年にわたる迷走状態から、
どうやって抜け出すことができたんですか?

北村

わたしが迷走している間に、
3DSの発売が発表されまして・・・。

岩田

「これからつくるなら3DSにしましょう」
という機運が社内で盛り上がってきたんですね。

北村

はい。そこで、3DS用に
はじめからつくり直すことにしました。
そのタイミングで伊藤さんがチームに加わったんです。

岩田

伊藤さんは、3DS本体の仕事が一段落して、
それで巻き込まれたんですね。

伊藤

はい。えー、騙されまして・・・。

岩田

騙されて、というのは
最初はプログラマーの仕事だけのつもりが・・・。

伊藤

はい。いろいろやるはめになってしまいました。

岩田

最初の印象はどんなでしたか?

伊藤

最初に「Nバック課題」を試したのですが、
正直「なんだこりゃ」と思いました(笑)。

岩田

(笑)。
どういうところが「なんだこりゃ」だったのですか?

伊藤

とにかく厳しくて・・・。
ふだん意識して使わないようにしている
脳の機能を無理やり使わされている感じでした。

岩田

実際に触ってみたら、
「こんなに頭を使ったことはない」とか
「こんなに集中したことない」
という印象だったんですね。

伊藤

はい。
ですから、この「Nバック課題」をテーマにして、
そのままトレーニングソフトとして発売すると、
「ものすごく挫折率が高いものになりかねない」
と思いました。そこで、
「トレーニングはそのままに、音と絵の動きで、
 楽しくできないものか」と、
いろいろ試行錯誤をしてみたんです。

岩田

結果、どうでしたか?

伊藤

(ガッカリしながら)
・・・楽しくはなりませんでした。

岩田

音と動きでストレスを軽減することはできても、
記憶と計算を同時に行うということが
どうしても強烈なストレスになるんですよね。

伊藤

そうです。

岩田

それって、100ある問題を放ったまま、
ここの3の問題を1に減らしてみました、みたいな話なので、
根本的な印象はたぶん変わらないんですよね。

伊藤

はい。その根本的な部分を
楽しくなるように変えてしまったら
トレーニングにならないんです。

岩田

北村さんが半年間、試行錯誤してもダメで、
伊藤さんがさらに試行錯誤してもダメで、
そんな中、どうやって光明が見えてきたんですか?

北村

光明が見えてきたのは、
本当に、最後の最後でした。

伊藤

え? とはいっても、
半年くらい前だったような・・・。

北村

あれ?

岩田

ああ、北村さんにとっては長丁場だったから、
そのタイミングは最後のほうだと感じるんですよね。

北村

あ、そうか、そうですね(笑)。
光明が見えてきたのは、
「トレーニング自体をなんとか楽しくできないか」と、
ギリギリまで試行錯誤していたんですけど、
「しんどくなければトレーニングではないんだ」
というふうに、割り切ってからだと思います。
それと「どうすればモチベーションを長く、
持続できるようになるのか?」というテーマを、
演出面も含めて、徹底してからでした。