社長が訊く
IWATA ASKS

社長が訊く東北大学加齢医学研究所 川島隆太教授監修 
ものすごく脳を鍛える5分間の鬼トレーニング』

シリーズ一覧

社長が訊く『東北大学加齢医学研究所 川島隆太教授監修 ものすごく脳を鍛える5分間の鬼トレーニング』

開発スタッフ 篇

目次

4. リラックス系で試行錯誤

岩田

今回のトレーニングは
どのような構成になっているんですか?

北村

「鬼トレ」が8種類、「鬼トレ補助」が9種類、
それに、従来型の「脳トレ」が9種類入っています。

岩田

それらはどのようにできて、
どう整理されていったんですか?

伊藤

「鬼トレ」は全部、新規でつくりました。
「Nバック課題」のような厳しいトレーニングを、
まずはチーム内で考えて・・・。

岩田

“記憶をする”ということと、
“何かの処理をする”ということを
同時に行えるトレーニングを
いろいろ考えていったわけですね。

伊藤

そうです。それらを試作して、
チーム内でふるいにかけたものを
川島先生にご覧いただきました。

北村

そこで、川島先生に、
「ワーキングメモリーのトレーニングになっている」と、
ご確認をいただけたものを入れています。
あと、「鬼トレ補助」に関しては、
川島先生から処理速度を鍛えるものを、
というお話がありまして・・・。

岩田

容量と処理速度の話ですね。

北村

はい。「鬼トレ」が
ワーキングメモリーの容量を増やすもので、
「鬼トレ補助」が
ワーキングメモリーの処理速度を鍛えるもの、
という分類になっています。

岩田

どうして「補助」にしたんですか?

北村

最初は全部「鬼トレ」に、と考えていたんですけど、
「補助」のほうはそんなに「鬼」でもなかったんです。

岩田

スピードを上げるトレーニングは、
そんなに「鬼」という感じはしないんですか。

北村

そうです。従来の『脳トレ』に近いので、
「鬼トレ」の合間にやってみると、
リラックスしちゃうくらいの感覚でできるんです。
そこで、「鬼トレ」のトレーニングを
より効果的にサポートするものとして、
「鬼トレ補助」という分類にしました。

岩田

なるほど。

北村

それから3つめの「脳トレ」には
新作トレーニングを収録していますが、
それらはもともとリラックスを目的につくったものなんです。
じつは今回、リラックスをたくさん用意しようとしていたんです。
というのも、どんな目的でもいいので、
「毎日続けてほしい」と思ったからなんです。
『もっと脳トレ』のときの
『細菌撲滅』(※5)の話を聞いていましたから。

岩田

『細菌撲滅』だけが目的で、
毎日のように遊んでいる方が
かなりの数いらっしゃるんですよね。

※5
『細菌撲滅』=『もっと脳トレ』に収録されているパズルゲーム。リラックスを目的に『Dr.MARIO』を元につくられた。

北村

そうなんです。
『細菌撲滅』をするために、
たとえば「計算20」をしぶしぶと・・・。

岩田

(笑)。自分たちのつくったソフトを
「しぶしぶと」というのもすごいですね。

北村

え、いや・・・
「しぶしぶ」しないといけないほど
面白くないというわけではないんですが。

河本

『もっと脳トレ』は
少なくとも1つのトレーニングをすると、
リラックスができるようになっていたんですけど、
そのせいもあってか、トレーニングを続けていただけたんです。
なので、今回もそうしよう、と・・・。

北村

『細菌撲滅』目的で
 脳トレを続けられる人がいるなら、
 リラックスのバリエーションが多ければ多いほど、
 いろんな人にやってもらえるんじゃないか」
と思って、新作をたくさんつくったんです。
で、本当にリラックスできているのかどうか、
脳血流を測定しないといけませんので、
今回は東北大学さんから、
光トポグラフィー(※6)をお借りしたんです。

岩田

わざわざ東北大学に行かなくても、
任天堂の中で測れるようになったんですね。

※6
光トポグラフィー=脳の活動状況を調べる医療機器。脳の表面、つまり運動野や言語野などの機能の活動測定を行う。

北村

はい。それで
新しくつくっては測り、つくっては測り、
ということを繰り返しました。
ところが、リラックス目的でつくったものなのに、
ことごとく脳が活性化してしまったんです。

岩田

へぇー、そうだったんですか。
前の『脳トレ』のときは、
脳を活性化させようとしてつくったら、
リラックスしてた、みたいなことがありましたけど、
それとは逆のことが起こったんですね。

北村

そうなんです。
そこで、癒やし系のBGMをつけたりと、
いろいろ工夫をしてみたんですが、
それでも脳の活性化はおさまらず・・・。

高橋

これだけ『脳トレ』をつくり続けても、
活性化するか、しないか、まだよくわからないんです。

河本

そう、効果がわからないんです、実際に測定してみないと・・・。

北村

測定のたびに川島先生に確認していただいてたんですが、
どうやっても「やっぱり活性化してますね」と言われ続けて・・・。
困っていたら、「これらを脳トレに入れてはどうですか?」と
逆にご提案をいただいたので、それらをまとめて
「脳トレ」に入れることにしました。

岩田

「リラックス系のモードをたくさん用意すれば、
 続けてもらえるんじゃないか?」と思ってつくっていたら、
「『脳トレ』が増えてしまいました」ということなんですね。

北村

はい。ケガの功名で、
「脳トレ」の新作が6種類追加されました。
そして当の「リラックス」には、
厳しい測定を生き抜いた新作 『脂肪爆発』が入っています。

岩田

さて、この厳しいトレーニングを
たくさんの人たちに続けてもらうにはどうしたらいいか、
ということで、『鬼トレ』をつくってきた立場として、
みなさんはいま、どんな手ごたえを感じていますか?

高橋

やっぱり続けてもらうためには、
同じレベルを繰り返すことも大切なので、
最初の頃にくらべると、
レベルの上がり方や下がり方は
けっこうゆるくしてもらったんです。
それに加えて、先ほどの話にもあった、
たとえば教授の演出などの効果もあって、
多くの人に受け入れてもらえる手ごたえを感じています。

岩田

今回は確かに時間もかかりましたけど、
いろんな工夫の積み重ねの量が、境目になる値・・・
つまり閾値(しきいち)を超えたような感じがしていて、
地道にやってきたことが、すごく実ってる感じがしますね。

高橋

そう思います。

岩田

もともと魅力的で、
ポテンシャルのあるテーマなんだけど、
ふつうに仕上げても、
多くの人がすぐに挫折しやすい商品になりかねなかったものが、
たくさんの積み重ねの中で、一般の人も面白いと感じ、
続けてもらえるものになったと思います。

高橋

最初に河本さんがつくった試作ソフトのときは、
触った瞬間、「これは無理だ」と思ったのに、
最終的には自分でも続けられるものになりましたから。

河本

わたしもデバッグをやっていく中で、
「これだったら毎朝やれそう」
という気になりましたし。

岩田

2年前に自分がつくった試作ソフトを思い出すと、
それは夢のような変化なのかもしれないですね。

河本

そうですね。
朝やって、午後になっても、
帰りたくはならなかったので(笑)。