社長が訊く
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社長が訊く『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇

社長が訊く『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇

第16回:『真・三國無双 VS』

目次

4. 軍勢をどう動かすか

岩田

一騎当千を実現しようとして
難しかったことはどんなことですか?

小笠原

最初は、三国志の武将が敵をバンバン倒すだけの
アクションゲームというかたちだったので、
鈴木(亮浩)にも指摘されたんですが、
それだけだと飽きちゃうんですよね。

岩田

最初は気持ちいいけれど、
そのうち作業になってしまうんですね。

小笠原

そうなんです。
そこで飽きないように何度でも遊べるかたちを考えたとき、
思い出したのが『信長の野望』のような
シミュレーションでした。わたしから出た
必然の発想なのかもしれないですけど(笑)、
シミュレーションは何回やっても遊べるので、
「この要素をどうにか入れられないか?」
って考えました。

岩田

はい。

小笠原

そもそも、三国志などの一騎当千の武将は、
ただ敵を倒すのではなく、
倒した結果、合戦を勝利に導きます。
だから「“合戦の勝利”を目的にして、
敵兵や味方兵がばーっと戦っている戦場をステージにして、
プレイヤーの力で合戦に勝つようにすればいい」と思ったんです。
ピュアな歴史好きが考えたアクションゲームのひとつのかたちです。

岩田

まさに夢のアクションゲームですね。
シミュレーション的な要素もあるため、
再挑戦への意欲が高められるアクションゲームです。

小笠原

はい、こうすれば何度も違った展開を楽しめるし、
その要素を絶対に入れようと思いました。

岩田

そうなると、敵兵や味方兵といった軍勢をどう動かすかが、
開発において大きな要素になりますね。

小笠原

そうですね。
でもアクション部分については、前作の『三國無双』で
だいたいあたりはついていたので・・・。

岩田

あとは数をふやしたり、
ザコ敵をいかに軽く処理して、
それなりの見栄えで実現するかを
調整したりすればいいので、
作業は見えていたんですね。

小笠原

はい。なのでアクション部分は
『三國無双』をつくった別の人間にお願いして、
わたしは「本物の合戦をどう表現するか」っていうところに
ものすごく時間をかけました。

岩田

ものすごく、苦労されたんじゃないですか?

小笠原

そうですね・・・。
でも、たとえば1人の兵士がいるとして、
8人の兵士を1部隊、20部隊を1軍団・・・と、
軍団、部隊、兵士という3段階にわけて動かしていけば、
それなりに戦場らしい雰囲気に仕上げることができるんです。
それをつくって動かしては壊して、をくり返していました。

岩田

こういうタイプのAIは、
実際に試作して動かしてみないことには手ごたえが
見えてこないですからね。
予想どおりに動いてくれなかったり、
ちょっとしたパラメーターの変更が
思わぬリアリティを変えたりしますから。

小笠原

まさにそのとおりです。
「これなら合戦っぽいね」って納得するまで、
ずーっとトライ&エラーでした。
でも最終的には、じつはすごく単純な動きだったんです。
たとえば隊長がそこに動けば、
兵士は隊長についていく・・・。
その動きを軍団レベルまでもっていけば、
わりとシンプルに大きな戦場の動きを
表すことができました。

岩田

整列して飛ぶ渡り鳥の行動原理や、
群れて泳ぐ魚の行動原理と同じで、
答えは意外とシンプルなところにあったんですね。
一個体のやっている処理はすごく単純だけれども、
それが集団になったときにおもしろく動くという。

小笠原

はい。まさにおっしゃった、
魚の群れの動きに近かっただろうと思います。

岩田

でもきっと、回り道をしなければ
たどり着かなかったんでしょうね。
『三國無双』が『真・三國無双』になったとき、
ゲームを“1対1”の格闘から
“1対多”のアクションに変えたことの爽快感は、
遊んだ方全員が気づいたことです。
でも、軍勢をどう動かすかはあまりに自然すぎて、
みんな「ふーん・・・」って何も言わないんですよね。
ものすごく苦労してつくっているのに(笑)。

小笠原

そうですねぇ(笑)。
でも、たまにわかってくれる方がいたら
「よくぞ見てくれた!」って思います。
その後、鈴木(亮浩)が万人にわかりやすい
爽快なアクション部分の特徴を伸ばしてくれたので、
結果的にシリーズを大きく広げることができました。

岩田

では『真・三國無双 VS』の話ですが、
ニンテンドー3DSという携帯型で、
なぜいままでのシリーズとはまた少し異なる、
“拠点争い”の対戦アクション要素を
盛り込んだのかをお訊きしたいんです。
というのも、『真・三國無双 VS』というタイトルが
“対戦”だけにフォーカスして聞こえるので、
誤解している方も多いように思うんです。
この間の体験版(※18)で、だいぶ誤解が解けた、
という手ごたえはあると思いますが・・・。

※18
体験版=『真・三國無双 VS』体験版は、ニンテンドーeショップにて配信中。なお、体験版は予告なく終了になる場合がございますので、あらかじめご了承ください。

小笠原

そうですね。
3DSで『真・三國無双』をはじめて出すとなれば、
「3DSの新しいかたちとして2作目、3作目につながるものを
 つくっていかなきゃいけない」
と思っていました。
そもそも前提の認識として、
DSの流れを汲む3DSは『マリオカート』(※19)などを代表する
“対戦プレイ”が、お客さんに認知されていると思っていたんです。
だから「3DSなら対戦にしよう」と最初から決めていました。

岩田

はい。

※19
『マリオカート』=『マリオカート』シリーズ。『スーパーマリオ』シリーズの世界を舞台にしたレースゲーム。1作目『スーパーマリオカート』は1992年8月、スーパーファミコン用ソフトとして発売された。

小笠原

対戦ゲームは人とやるので飽きがこなくて、
いつまでも楽しめるポジティブな面があります。
でも、いままでのシリーズで
対戦にチャレンジしてこなかったので、
今回は『真・三國無双』のかたちで遊べる対戦、
すなわち“拠点争い”で人と対戦できる
『無双』をつくろうと思いました。
そういう決意の表れでタイトルに
『真・三國無双 VS』とついているんですが、
もちろん『VS』以前に『真・三國無双』なので、
1人で爽快に、しっかり満足できるゲームになっています。
そこはみなさん、安心していただきたいです。

岩田

つまり、心は『真・三國無双』+『VS』というぐらい、
『真・三國無双』そのものがあるわけですよね。
ストーリーを楽しめるシングルプレイの「STORY MODE」と、
拠点争いを楽しめる対戦プレイの「VS MODE」があるんですね。

小笠原

そうです。
一騎当千の無双アクションが特徴なので、
対戦のモードをつくるにあたって、
いままでの『無双』の常識を
かなり変えなければなりませんでした。
そうなると、自然とシングルプレイ用のシナリオや、
やりごたえも、いままでにない
新しいかたちをつくることができました。
社内の評価でも、シングルプレイの楽しさが非常に高いです。

岩田

おそらく、お客さんも新鮮に感じていただけるでしょうね。
ある意味、『真・三國無双』をつくりつづけて
慣れている部分に加えて、
『VS』を可能にしたことで、
新しい刺激も同時に生まれているはずですから。

小笠原

はい。あと『無双』はもともと据置型なので、
1ステージをパッとはじめてパッと終われるように、
携帯型用に密度の濃い
コンパクトサイズにつくり直したんですが、
今回の『VS』ならではの仕組みと
非常にマッチしていました。
シングルプレイの「STORY MODE」は
本当に楽しみにしていただければと思います。