社長が訊く
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社長が訊く『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇

社長が訊く『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇

第5回:『スーパーストリートファイターIV 3D EDITION』

目次

2. 「とんちを使う」

岩田

小野さんはそれほど技術に興味があったのに、
プログラマーとしては入社されていないんですよね。

小野

はい、サウンド担当として入社しました。
僕、じつは大学ではずっと建築の構造設計を勉強していたんですよ。
やっぱり当時、スーパーコンピューターとか
処理が速いコンピューターは、大学でしかいじれないわけです。
そういったコンピューターでプログラミングをしながら、
「ああ、やっぱり面白いな~」と(笑)。

岩田

コンピューターの性能が高いだけで、非常に魅力を感じますよね。

小野

そうです!
僕はですね、すごく大きいもので処理が速いものと、
小さいけれどすごく処理をがんばったものに、
ものすごいシンパシーを感じるんですよ。
この大きな処理をどこまで追究したらスムーズに出せるだろうとか、
そういうのに興味があったんです。

岩田

小野さん流、男のロマンだったんですね。
そうやって小野さんは学生時代はマジメだったんですか。

小野

いやー(笑)、まあ、そういう勉強をする半分、学生なので・・・
不謹慎な話でいうと、「女の子にモテたい」と(笑)。
で、モテるための方法を考えたら、「音楽しかない」と。
音楽は高校時代から
「女の子にモテたい」というアイテムとして興味が芽生えて、
その欲望が続いて、大学でも続けていたんです。
真面目な話をすると(笑)、じつは音楽って分解したら数学的で面白いんです。

岩田

たしかに、音楽のある部分は数学と通じていますよね。

小野

コード進行を分析すればするほど、本当にロジック的なんです。
大学時代に趣味でバンドを組んでいたときは、
自動的にアルペジオ(※10)が鳴るプログラムを組んで、
作曲するための補助データをつくっていました。
そんなわけで、就職時には
このまま大学で建築構造力学の研究を続けるか、
大好きなゲームをつくるか、音楽をもっと極めて
「女の子にモテる」努力を続けるか(笑)、
どうしようかと思っていたところ、
カプコンが募集していたんですよ。ゲーム音楽の作曲家を。
「おいおいおいおい、カプコンといえば
『エグゼドエグゼス』(※11)じゃないか!」と・・・。

※10
アルペジオ=「分散和音」とも言い、コード(和音)を一音ずつ鳴らすこと。
※11
『エグゼドエグゼス』=1985年にカプコンが開発したアーケードゲーム。

岩田

技術力がある会社だ、というイメージがあったんですね。

小野

はい。あの当時、大きなキャラクターを動かすのは
大変だってことを知っていたので、僕の技術心にヒットしたんです。
そのうえ、サウンド担当を募集していたんですよ。
で、とりあえずカセットテープに自分の作品を入れて送ったら
面接することになって、翌日には「やろうよ」と言われたんで、
ここで音楽をやっていこうと決めたんです。
結局、プログラムも音楽も両方できてよかったな、と。

岩田

プログラムができるという自分の背景が、すぐに役立ったんですね。
振り返ると、「なぜ自分がここにたどり着いたか」って本当に不思議ですよね。

小野

本当です。僕自身はいちファンの目線でつくってきたんですが、
もしかしたら最初の『インベーダー』の出会いのときに
競う楽しみを知って、どんどんハマっていったことが
すべての原点だったのかなって思います。

岩田

当時はインターネットもグーグルもないですし、
参考文献が圧倒的に足りないので、
何でも自分で考えなきゃならないんですよね。
効率は悪かったですが、暗闇のなかを進んでいくうち、
新しいハードをだんだん使いこなせるようになることが、
けっこうワクワクして面白かったりするんですよね。

小野

本当にそうです。最近、参考書好きの人が多くなっていますけど、
それはひとつの解法であって、絶対的なゴールじゃないんです。
方法は本当にいろいろあって、トライ&エラーなんです。
僕はスタッフたちに「とんちを使え」って言うんですけど、
とんちの発想でゲームをつくらないと、驚きも生まれないですから。

岩田

ああ、いわば“ほかの人がしない工夫”ですかね。
お客さんに驚いてもらうことがいちばん大事なことだとすると、
人と同じ方法論では、同じようなことしか見えなくなってしまう。
つまり、驚いてもらうためのわかりやすい方法として、
ゲームのボリュームが多いか、豪華さで攻めるかしかなくなり、
やがて自分たちの首を絞めてしまうことになるんですね。
だから、そっちの方向じゃないところをいっしょに考えて、
“かけ算”にしていかなきゃいけないんですよね。

小野

そうです。そのかけ算って、すごくいい言葉だと思うんです。
お客さんは、たしかにゲームの売りとなるカタログ上の数字が多ければ
満足してくれるかもしれないけれど、
でも本当に響くかどうかは、僕はまた別問題だと思っているんですね。

岩田

内容量が多いことを喜ぶ方もいれば、そうでない方もいると思います。
でも、ゲームを触って3分で「すごい」と思えることは、
きっと全員に響くんですよね。
そういうもののほうが、よりお客さんに広まると感じます。

小野

その部分を話し合うとき、僕はよくスタッフに企画項目のカタログを見せて、
「何がいちばんパチッとくる?」と聞いて、優劣をつけていきます。
そのとき「このカタログ以外の内容を何か発想できる?」とか
「どれだけのことができそう?」とか聞いていくんですが、
そこでそのカタログを補完できる人は、
とんちが利くスタッフなんです。
どんなことができるか、自分で探していけるんですね。

岩田

仕事を任せたとき、どんどん自分で展開していける人と、
次に何をするか聞いてくる人がいるってことですよね。

小野

はい。そこが、つくり手側でいちばん
気にしないといけないところだと、客観的に感じているんです。

岩田

でも、どんなことに興味を感じてがんばれるかは、
人それぞれ個性がありますよね。
逆アセンブルのように、どう考えても大変な苦行にしか見えないのに、
本人は面白がってやっているわけですから。

小野

まったくです。でもあの当時は、本当に楽しいんですよね。
学校のカバンのなかにアセンブリ表を忍ばせて、
昼休みに広げては考えて、家に帰って実際に試したり、
電器屋さんで試したり・・・そんなことをするのは、
当時僕くらいなものでした(笑)。
いまは、そういうことをする機会がないことが
スタッフにとって少しかわいそうなところでもあるんですが。

岩田

いまは環境が整って、多くのことがすぐに試せるようになりましたが、
当時は、考えてから実際に機械に入れて動かすまでが遠くて、
手元で考える時間が長いんですよね。
逆に言えば、あまり環境が整っていなかったなか、
手作業で何度も何度も検証してくり返していたことで、
一見効率が悪いけれど、貴重なものを得たのかもしれませんね。

小野

僕たちモノづくりの提供者が持っていきたいゴールは
最後のお釈迦さまの手をつくることなんですが、
そこにいくための通路はたくさんあるんですよね。
アプローチの仕方はいろいろあると思いますし、
その方法の違いが、お客さんひとりひとりに対しての
アプローチにつながると思うんです。

岩田

ゴールへの通路は無数にあって、そのいろいろな方法に対して、
得意なことと不得意なことを見極める人が目利きをすることで、
全体として、いちばんいいかたちになっていくんでしょうね。
だから若いころに、のたうちまわって得た経験が、
解法の手口を複数持つことにつながったので、
貴重な体験だったのかなという気はします。

小野

そうですね。