社長が訊く
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社長が訊く『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇

社長が訊く『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇

第5回:『スーパーストリートファイターIV 3D EDITION』

目次

5. 伝えることを怠ってはダメ

小野

僕がこのニンテンドー3DSでも長い時間をかけてやりたい
と思っているもののひとつは、コミュニティなんですよ。
据置機はふたつのバージョンで出したんですが、
僕がずっと言いつづけてきたことは
「とにかく、ここの人、ここの人、ここの人に向けた
コミュニティへのアプローチを常に続けてください」
ということでした。
それはセールスや広告ではなく、
“対戦”の楽しさそのものを伝えるということで、
まずは身近な人と顔をつきあわせて対戦してみて、
「あ、こんな感じだったな」というふうに思い起こされたら、
きっと周りで見ている人たちも乗ってきてくれると思うんです。

岩田

そうですね、たとえば親しい友だちが
「久しぶりにやろうか?」と誘えば、
その人はコントローラを握ってくれるかもしれませんね。

小野

そうです。そういうコミュニティを大切にするところが、
どんなゲームにもマッチすることだと思いはじめていて。
じゃあコミュニティをしっかり整えるためにどうするかといえば、
据置のHD機のなかでやっておくことは、
そのコミュニティを一度ディスクに入れた段階で、
ずっと離さないようにしようということだと思いました。
だからメニュー画面に戻ったら、現在コミュニティの間で
何が行われているのか、ゲーム機だけで完結させたかったんです。

岩田

だから据置機で、対戦していない方に向けて
「観戦」や「ボイスチャット」をつくられたわけですね。

小野

そうです。さらに通信機能が強化された3DSなら、
任天堂さんのフレンドコードを登録すれば、
遠い場所でもコミュニティを形成できますよね。
それでコミュニティがあちこちで生まれたとき、
たとえばカプコンがアメリカで何かやりましょうと提案したら、
各地のコミュニティメンバーが集まってくれて、
しかもその友だちや、彼女や、子どもまで来てくれるかもしれないんです。
それでまたひとつ、大きなコミュニティが確立しますよね。
僕は、こうしたやり方のつくり手と、コミュニティというふたつが、
再び、対戦格闘が世に出てこられた要因かなと思っています。

岩田

一時期、しのぎを削り合っていた対戦格闘ゲームが、
進化の袋小路に入ってしまって、
プレイするお客さんがすごく減ってしまいましたよね。
それが『ストリートファイター』で変わってきた感じがするんです。
それは、任天堂が“ゲーム人口拡大”を掲げて、
むかし遊んでくれていたお客さんが、いまなぜ遊んでいないのか、
その理由をきちんと取り除き、興味を向けてもらえるようにできたら
状況は変えられるんじゃないか、と考えて実行してきたことと、
今日の小野さんのアプローチには、すごく近い部分があるなと思いました。

小野

本当にそう思います。
効率化って言われますが、伝えることを怠ってはダメなんです。

岩田

お客さんとのコミュニケーションに、効率化はないですよね。
自分がお客として効率化されてメッセージを受け取りたいとは思いませんし、
それはおもてなしではないですから。

小野

はい。仕事をする人の目線でお客さんと対峙するとき、
「自分がされたら?」ってことをつねに考えないといけないんです。
たとえばレストランで水をたのんで、
「すいません、持っていくの面倒なので、後ろからハイ回してー」
なんて言われたら、当然嫌なわけで(笑)。
それよりも、「この人向けのリーフレットがあります」とか、
「この人向けの展示のやり方があります」
という配慮を何かちょっとでもすることによって、
たぶん気づいてもらえたりするチャンスが変わってくると、
僕は思っているんです。

岩田

うーん・・・面白いですね。
一般的には、熱心なゲームファン向けのゲームは、
いまおっしゃったようなアプローチ方法はあまりしていないですよね。
たとえば、
今回の『スーパーストリートファイターIV 3D EDITION』でいえば、
“タッチスクリーンで手軽に必殺技が放てる”というのは
“ゆとり仕様”と感じられている方もいらっしゃるみたいですね。

小野

そうですね(笑)。

岩田

それは以前、
任天堂が『New スーパーマリオブラザーズ Wii』(※27)で、
どうしても先に進めない人向けに「おてほんプレイ」(※28)を入れたら、
“自動クリア機能つきのゆとり仕様”というご批判を受けてしまった構造と
そっくりなんです。

※27
『New スーパーマリオブラザーズ Wii』=2009年12月、Wii用ソフトとして発売されたアクションゲーム。
※28
「おてほんプレイ」=同じコースで8回ミスをすると、ルイージがゴールまでの進め方を見せてくれる。

小野

もちろんタッチスクリーンは使わなくてもできますし、
そういうお客さん向けのステージも用意してあります。
でも、「あ、面白そうだからやってみよう!」と思う人が増えて
プレイ人数が増えたほうが、
多分、頂点を極めたとき、より大勢のなかに立っているほうが、
気持ちがいいんじゃないかなと思うんです。

岩田

そうですね。スーパーマリオも、「おてほんプレイ」で参加者が増えることで
一度も「おてほんプレイ」を使わずにクリアすることの
すごさを理解している人が
世の中に多くいらっしゃる状況になったほうが、
そのゲームを上手にプレイできることの価値が、より高まると思うんです。

小野

そう、そうなんですよ。
そのほうが話題に花も咲くし、コミュニティも生まれるんです。
クリエーターが言うと“魂を売った”ってよく言われるんですが、
僕はゲーム制作は“サービス業”だと思っているんです。
どう提供して、どう感じてもらえるか、というところが・・・。

岩田

わたしたちはお客さんにウケたくてやっているのに、
遊んでくれる人が減ってしまったら、やりがいも減ってしまいますから。
だから少しでも多くの方が価値を認めて面白がってくれたほうが、
遊んでくれる人にとっても、多くの人に共感してもらえるようになりますし、
わたしたちにとってもいい未来なんですよね。

小野

そうなんです。近年、お客さん側の多様性や年齢が、
どんどん拡がっていると感じているんです。
少なくとも、ゲームへの興味がゼロの方は少なくなってきています。
それならもう一度、ゲームに戻ってもらうにはどうすればいいか。
へこんでいる興味をどう補完すればいいのか。
そういうことを考えるのは、ゲームづくりやクリエイティブな
ことと相反しているとは、まったく思わないんです。

岩田

そうですね。

小野

それで、たとえばヨーロッパのツボを見極めれば、
媚びるわけでもなく、ゲーム性を覆そうとするわけでもなく、
“ここの人が盛り上がるようなこと”を提供すればいいんです。
こういうことを、もっと考えていかないといけないなと思います。
それが『シャドウ オブ ローマ』での失敗以降、
僕のなかで、ものづくりのベースになっていることなんです。