[番外篇1] 昭和60年に書かれた文書

中郷

ちょっと余談になってしまうんですけど・・・。

岩田

余談、大歓迎です(笑)。

中郷

(手元のファイルをめくりながら)
『New スーパーマリオブラザーズ Wii』の「社長が訊く」のあと、
話が正確だったかどうかを、調べようとしたんですが・・・。

岩田

ああ、古い資料を発掘してくださったんですね。

中郷

コレらが『ゼルダ』のいちばん最初の仕様書です。

岩田

おー、これはすごい!
宮本さんのハンコが押してある。

中郷

「アドベンチャー」と書かれてまして。
この最初の仕様書には、
『ゼルダ』の全体構成だけでなく
「アイテム」や「敵について」など、
数枚にわたって書かれているんです。

岩田

『ゼルダ』には最初、
「アドベンチャー」という名前が付いていたんですか。

手塚

この仕様書を綴じてたファイルには、
「アドベンチャーマリオ」と書いていたような気がします。

岩田

『ゼルダ』なのに「アドベンチャーマリオ」ですか? 

中郷

常に「アドベンチャー」がついていたんですよ。
『マリオ』でも『ゼルダ』でも。
で、仕様書2枚目の「アイテム」のページには
「コンパス」とか「弓矢」とか、
「ブーメラン」とかも金・銀が書いてありますし。

青沼

へえ〜。

中郷

3枚目の「敵について」と書かれたページには
「八戒」と書かれていて、たぶんこれがガノンで・・・。

岩田

ガノンは八戒?

青沼

ここに書いてある「牛魔王」が
ガノンじゃないでしょうか。違うかな? 
あと「タコ」って書いてますけど、
これは「オクタロック」ですね。すごいなあ・・・。
「目玉」は「ゴーマ」だし。

手塚

上に書いてある、
四角いのがキャラクターのサイズなんです。

岩田

ああ、2×2になってますね。
こっちの敵は2×4でつくると。
最初から、実現方法を含めて設計してあるんですね。

中郷

さらに注釈で
「小さい物」「中物」「大物」と書いてあるんですね。

手塚

最初からイメージが明確でしたね。

岩田

やっぱり、機能からデザインされてるんですね。
それにしても、驚いたなあ・・・。

手塚

この仕様書は、
コピーのできるホワイトボードに書いたもので。

中郷

宮本さんがバババッと書いて、
それをコピーしたものがコレなんですね。

岩田

日付は昭和60年(1985年)2月1日・・・。

中郷

で、そのあとに
ラフスケッチがあがってきたのがコレなんです。

岩田

日付は・・・同じ年の2月13日。
最初にホワイトボードに書いて、
それから2週間もたってないですね。

中郷

そうなんです。

青沼

わ、すごい「トゲトラップ」まであるし。

岩田

でも、最初に書かれたものとしては、
内容がすごく豊かですね。
事前に話してネタをためてたんでしょうか。

中郷

コレは3人で話をしながらやったような。

手塚

うん。

中郷

それをどんどん書いて、
コレができたんです。

岩田

でも、昭和60年の打ち合わせで書いた仕様書があって、
いまでも、このとおりに
『ゼルダ』はつくられているんですね。

青沼

ホントですよ。

岩田

いつも話題になる『ゼルダ』らしさとは
コレのことなんじゃないですか(笑)。

青沼

確かに原典みたいなものですよね。
間違いなくここからはじまってますから。
でもイヤだなあ、手のヒラで仕事してるようで(笑)。

岩田

でも、ここに書かれたネタの全部が、
最初の『ゼルダ』で使われてるんですか?
記憶にないモノがあるんですが。

中郷

いや、全部は使ってないです。

岩田

使ってないですよね。

中郷

あとからあとから、
ここから引っ張り出して、使っているんです。

岩田

5年もの、10年ものみたいにして、
ネタを引っ張ってきているんですね。
いやー、驚きました。

中郷

で、次がコレなんですけど・・・。

中郷

最初の『ゼルダ』にはダンジョンしかなかった、
という話を前回しましたけど、
そのときに書かれたダンジョンの
セレクト画面のプランニングシートがこれなんです。
タイトルは「アドベンチャータイトル」ですから、
まだ『ゼルダの伝説』に決まってないんですね。
しかも、宮本さんの直筆です。

岩田

なんと、こんなものまで。

中郷

そしてコレが最初の『ゼルダ』の地上マップです。

中郷

このとき、横長の紙があって、
手塚さんと宮本さんが仲良く並んで描いていたんです。

手塚

そうだったっけ?

中郷

そうでしたよ(笑)。
左側が手塚さんで、右側が宮本さん。
で、よく見るとわかるんですけど、
マーカーを使って、細かく点を打っているんですよ。
ここは石とか、こっちには木とか。
で、宮本さんの性格が表れてるんですけど、
最初はきちんと点を打ってるのに、
だんだん面倒くさくなってきて、
上のほうはバーッと塗りつぶしているんです。

青沼

確かに、左右で違いますね。

手塚

ホントに違うわ、なんか。

岩田

それにしても、これ、一発書きなんですね。

中郷

ええ、一発書きです。

青沼

マーカーだから消せないですし。すごいなあ。

手塚

あ、いやいや、これ、ホワイトがあるんだわ。
だから間違えても大丈夫。

青沼

・・・せっかく「一発書きですごいなあ」と言ってるのに(笑)。

岩田

それが手塚さんなんですよね(笑)。

中郷

ああ、確かに残ってますね、ホワイトの跡が。

青沼

ホントだ(笑)。

岩田

でも、ホワイトの跡は少ないですよね。
総じて打率は高いですよ。

中郷

「迷いの森」とかもありますし。

岩田

いや、それにしても、驚きましたね。
「社長が訊く『New スーパーマリオブラザーズ Wii』」が
古文書発掘のきっかけになりましたね(笑)。