2. 究極の内輪ウケ

岩田

坂本さんが3Dの似顔絵ツールを見せてくれたとき、
わたしのなかで、ひらめくものがあったんです。
実は宮本(茂)さんがずっと何年も
「似顔絵をゲームで使えるようにしたい、
必ず面白いものができるはずだ」
と言い続けていたんです。
以前の社長が訊くでも取り上げていますけど、
宮本さんの似顔絵への取り組みは、
まさに20年以上のチャレンジの連続でしたから。
そこでわたしは
「宮本さんが求めてるものは
こういうものなんじゃないだろうか」と思って、
すぐに宮本さんのところに持っていったんです。

高橋

そこで“Mii”が生まれることに。

岩田

でも、実は不安もすごくあったんです。
“Mii”のパーツのデザインをしているときに、
最初は日本人の顔のことしか考えていないはずなんですから、
坂本さんのような日本人としては“規格外の顔”はつくれても、
果たして外国の人の似顔絵は大丈夫なんだろうかと。
そこで、NOA(Nintendo of America)のスタッフの
顔写真をたくさん送ってもらって、
かたっぱしから
「この人たちをつくってください」と
坂本さんにお願いしたんですね。

高橋

当時はみんなで手分けして
似顔絵をつくってました。

岩田

で、みなさんがつくってくれた似顔絵を
NOAに出張したときに現地のスタッフに見せたら、
これは誰、これは誰だと
一発で当てることができたので、
「これは行ける!」と確信が持てるようになったんです。
その結果、あろうことか
『大人のオンナの占い手帳』のプロジェクトは
一時中断することになったんでしたよね。

高橋

僕たちは
「似顔絵チャンネル」(※5)をつくることになって・・・。

岩田

情報開発本部に社内留学をしたんですよね。
しかも「似顔絵チャンネル」だけで終わらなくて、
「みんなで投票チャンネル」(※6)にまで関わって。

高橋

およそ1年間の社内留学でした(笑)。
で、「みんなで投票チャンネル」が終わったあと
2007年の4月から・・・。

岩田

さあ、プロジェクトを再開だと。

※5

「似顔絵チャンネル」=Wii本体内蔵ソフト。家族や友人など、顔のパーツを組み合わせるカンタン操作で似顔絵キャラクターのMiiをつくることができるチャンネル。

※6

「みんなで投票チャンネル」=Wiiショッピングチャンネルのダウンロードソフト(無料)。配信されるアンケートに投票し、投票結果を楽しむためのチャンネル。

高橋

はい。『トモダチコレクション』のプロジェクトとして、
再スタートしました。

岩田

そのとき、『大人のオンナの占い手帳』から
『トモダチコレクション』に変わったんですね。
それはどうしてなんですか?

高橋

その頃のDSは、すでに大人の女性の方にも
受け入れられるようになっていたんです。

岩田

1年間、留学している間に、
DSを取り巻く状況が一変してしまったと。
だから、わざわざ「大人のオンナ」と断る必要もなくなった。

高橋

そうなんです。
そこで老若男女、誰でも遊べるようなものにしようということで、
企画を練り直して
いまのカタチになりました。
でも、当初から考えていたコンセプトは
完成するまで、ずっとブレなかったんです。

岩田

何がブレなかったんですか?

高橋

Miiというのは
すごく内輪ウケするものだということです。

岩田

うん。それ、すごいことをすごくサラッと言っているんですよ。
商品は普通、「内輪ウケではダメ」なんです。
「内輪ウケ」なんて言ったら、普通は
「商品としてはどうなの?」と言われて当然なんです。
ところが、このソフトは
内輪ウケの究極みたいなものですよね。
関係のない人たちにとっては
「何これ?」という感じになってしまいますよね。

高橋

そうなんです。
でも、Miiを使って
それぞれの家族やグループ内であれば
内輪ウケがとても楽しめるようになると思ったんです。
そこで、現実世界では知らない者どうしでも
ソフトの世界ではMiiがトモダチになったりとか、
あるいはケンカしたりとかして、
プレイヤーの人間関係を軸に楽しめるようなものにしたいと
開発を進めていきました。

岩田

なるほど。じゃあ、新人として参加した
中川さんにも話を訊いてみましょうか。

中川

はい。

岩田

中川さんが入社して
最初に本格的に取り組んだプロジェクトが、
いったんちょっと休みなさいと言われて、
「似顔絵チャンネル」に駆り出され、
「みんなで投票チャンネル」をつくり、
再び最初のプロジェクトに戻ってきましたけど、
その紆余曲折をどんなふうに見てましたか?

中川

こういうものかなと思いました。

岩田

なるほど(笑)。
ほかに経験がなければ、
紆余曲折もあるがままに受け入れられるんですね。
確かに途中で、「似顔絵チャンネル」「投票チャンネル」と
ちゃんとアウトプットも出ていましたからね。
そもそも『トモコレ』のようなソフトは
世の中にあまり手本となるようなものがありませんよね。
そんな前例のないソフトをつくることに関しては?

中川

やっぱり、難しいと思いました。

岩田

中川さんは、
自分で考えたちょっと面白い工夫を
ソフトに盛り込むのが好きな人ですよね。

中川

そうなんです。

岩田

だから、工夫の盛り込み甲斐のある
テーマだったのかなあと思うんですけど。

中川

はい、そう思いました。

岩田

たとえばゲームの文法が決まっていると、
プログラムだけに専念することになって、
工夫の盛り込み甲斐がなかったりするんですよね。

中川

はい。

岩田

でも『トモコレ』のようなソフトだと、
自分でプログラムを書きつつ、
「こんなことができたら面白くないですか?」
という提案がどんどんできるんですよね。

中川

そうです、そうです。

岩田

わたしばかりしゃべってるじゃないですか(笑)。

一同

(笑)

中川

すみません。
でも、本当にその通りだなあと(笑)。

岩田

じゃあ、中川さんが提案した話は
後ほどじっくり訊くことにしますね。
サウンドの椎葉さんは
いつからこのプロジェクトに関わることになったんですか?

椎葉

僕は2008年の3月頃から
このプロジェクトに参加しました。
初めて『トモコレ』を見たときに、
何がインパクトがあったかというと、
まず、ということですね。

※7

『お料理ナビ』=『しゃべる!DSお料理ナビ』。料理の手順を音声で教えてくれる実践クッキングナビゲーションソフト。DS用ソフトとして、2006年7月発売。

岩田

なかなか前例のないソフトなだけに、
音をつけるといっても大変だったんでしょう?

椎葉

それはもう。
そこでその特徴ある音声を阻害しないようなサウンドを意識して、
何曲か提出したんですけど、
そのとき坂本さんからダメ出しされた言葉が
「キレイすぎる」だとか、
「気合いが入ってる」とか言われて・・・。

岩田

「気合いが入ってる」というのは
普通はホメ言葉ですよね?(笑)

椎葉

普通はホメ言葉なんですけど、
このソフトにとっては究極のダメ出しだったんです。

高橋

坂本さんがすごく音楽に精通していて、
音に関しても
とてもこだわりを持っていたんですね。
そこで、よく言ってたのが
「BGMが目立つようなソフトではない」と。

岩田

確かにそうですね。
BGMで感情移入をさせるとか、
そういうタイプのゲームじゃないですからね。

高橋

つくった曲を坂本さんに聴いてもらっていたんですが、
あるとき突然「パンツを脱いでない」と言われて。

岩田

パンツを脱いでない?(笑)

一同

(笑)

高橋

固定観念にとらわれないで、
もっと自由に音をつくれという意味なんだと思います。

岩田

なるほど。
まあ、すごく坂本さんらしい表現ですけど
変な上司ですねえ(笑)。